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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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ラーニャとユユナの頼み事

 部屋に入ってきたラーニャは俺の目をじっくりと見つめてから小さく微笑む。


「さすがですクリス様。やはり私が見込んだお方なだけありますね。姫様の力にかからない男性など初めて拝見しました」

「俺がユユナの力に抵抗できる理由、お前はなにか知っているのか?」

「私にも理由はわかりません。クリス様に特殊な力が備わっているのか、それともただの偶然なのか……」


 まさか魔術師には効かない、なんていう理由ではないだろうけど。そもそも俺は精神干渉に抵抗するための魔法など使っていないしな。

 それでも今後ユユナのような力と対峙する事になったときのために、そういう魔法も考えておく必要が出てくるかもしれない。

 俺は気になったことを聞いてみる。


「ところでその力は生まれつきのものだったのか?」


 ユユナは小さく首を振る。


「いえ、三年前……ちょうどイリシュアールが大軍を率いてアセルクリラングに攻めてきたときのことです。あまりの恐怖に私は毎日ベッドで震えていました。そしてついに私たちが降伏して、イリシュアールの王が入城してきました。私は怖くて怖くて仕方ありませんでした。しかし姫として敵国の王と対面しなくてはならず、憔悴(しょうすい)した母と二人で王の前にひざを突かされたのです。私の父――当時のアセルクリラング王は私たちの目の前でイリシュアール王に首を……首を……はねられました」


 ユユナの目に涙が浮かぶ。

 目の前で斬首(ざんしゅ)される父親。その光景は小さかったユユナにどれほどの衝撃を与えたのだろうか。想像することもできない。残酷すぎる。

 ユユナはなんとか息を整えて続きを話し出す。


「そのとき初めて私の能力が発動しました。イリシュアール王は夢うつつのような状態になり、言うことをなんでも聞くようになりました。それで私たちは命拾いをしたのです」


 危機的な状況に置かれて防衛本能が高まり、眠っていた力が覚醒したというところだろうか。

 元々先祖返りの血が濃く下地は十分にあって、あとはきっかけを待つだけという状態だったに違いない。

 ラーニャは真剣な表情でユユナを見る。


「姫様」


 ユユナもラーニャを見てうなずいた。

 ラーニャがユユナの横に腰を下ろすと、二人はそろって俺に頭を下げた。


「どうか、女王シェアランをクリス様のお力でお止めいただけないでしょうか?」

「お願いします、クリスお兄様」

「えっ」


 ラーニャは話し始めた。


「女王は姫様の力を使ってアセルクリラングの勢力を拡大させようと目論んでいるのです。すでにレタナキアは我が国の影響下にあります。イリシュアールからも非公式な献金をせしめていましたし、他の国々にも影響力を伸ばそうとしています。このままではいずれは世界中の国がアセルクリラングの支配下に置かれてしまうことになるやもしれません」


 なんてことだ。

 思っていたよりも事態は深刻なようだ。

 もし話が本当だとすればこれは周辺の国だけではない、世界の危機とさえ言えるだろう。

 幸いなのはユユナ本人が自分の力を邪悪と認識していて、悪用することを忌避(きひ)している点か。


「待てよ、それが本当なら俺はまさにイレギュラーな存在。女王の野望の前に突然現れた障害ということにならないか? 俺さえいなければ怖いものはないとしたら、女王はどんな凶行に出るか……」


 ラーニャは冷静に口を挟む。


「いえ、それはありえないでしょう。イリシュアールの軍事力は我が国をはるかに凌駕します。先の戦争でも抵抗らしい抵抗もできずに敗北したことからも、今ここでクリス様を(ほうむ)ってあからさまな敵対を示すようなことはしないはずです」

「ならイリシュアールなど怖くなくなるほど女王が勢力を拡大する前に、なんとか止めるしかないのか」


 おかしな状況だった。

 アセルクリラングの城の中で、その姫と従者の女性といっしょに、女王を止める相談をすることになるとは。

 俺はユユナに目を向けた。


「たしかに俺たち他国の人間には恐ろしい事態だが、お前たちにとってはいいことなんじゃないか? それを止めてくれと俺にお願いするとは」

「私はこの国が好きです。ですがそれは勢力を拡大して強力になっていく今のアセルクリラングではありません。母様も本当はこんな支配を望んでいるとは思えません」


 女王が他国に対し今のような洗脳支配を仕掛けるようになってしまった原因、それはなんなのか。


「ユユナはどうなんだ? 女王に手を貸さないという選択は……」

「母様は本当はやさしくて立派な人なんです。父様が健在の頃は私のことを誰よりも気にかけてくれて……公務で忙しいときも、私のわがままを無理をして聞いてくれました。いつもいつも自分の身を(かえり)みずに働いているような人でした」

「姫様は女王に言われれば、いやとは言えない性格なんです。それに、今の女王は変わってしまわれました。私は一度目にしました。あのお優しい女王様が姫様に手を……」


 ラーニャの言葉でそのときの記憶が(よみがえ)ったのだろうか。ユユナはひざの上で握った拳を小刻みに震わせている。その顔は蒼白で見ていられなかった。

 俺は震えるユユナの拳に自分の手をそっと重ねた。


「大丈夫。大丈夫だから……俺を見ろ」


 精いっぱいの穏やかな声で言った。


「クリスお兄様……」


 俺を見るユユナは、次第に落ち着きを取り戻していった。


「申し訳ありません。私が軽率でした。姫様にとっては思い出したくない出来事。どうか私に罰をお与えください」


 ラーニャは唇を噛んで謝った。


「いえ……私も覚悟を決めるときなのかもしれません。この力はやはり使ってはいけないものだったんです。悪用を続ければ、いずれ多くの人を不幸にしてしまいます」


 ユユナの目には、強い決意の光があった。まさに一国の姫たる威厳がそこにはあった。


「わかった。俺がなんとかしよう」

「クリス!」


 アンナが声を上げた。その顔は心配そうだ。


「困ってるユユナたちを放ってはおけないよ。それに今回の件はイリシュアールだって無関係ではいられない。放っておけばいずれは世界中の国に影響が及ぶかもしれないんだ」

「お兄様!」「ありがとうございます」


 ユユナとラーニャの二人はもう一度俺に頭を下げた。

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