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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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お兄様と呼ばれて

 魔法ならば必ず呪文なり魔法陣なりの詠唱を必要とする。俺のように脳内詠唱も不可能ということはないだろうが、遥か太古に失われた技術だ、使える人間が他にいるとは思えない。

 となれば残る可能性は少ない。

 魔法とは違う異能の力。

 イリシュアール王城で戦ったラルスウェインの不思議な力もそうだった。これは魔族特有のもの。

 魔族のことはこの世界では都市伝説のように語られる。サキュバス族の話はその中でも比較的メジャーで、酒に酔った男たちがにやにや笑いながら語るようなものだ。

 俺はとある文献に書かれていたのを読んでおおまかな生態を知っていた。

 いわく美しい女性の姿で男性の前に現れ魅了し、虜にしてしまうという。サキュバスと夜を共にした者は生気を奪われてしまうとも。

 おそらく人間と魔族の戦争の時代には、その力は猛威を振るっていたはずだ。


「えっ!? っていうことは、ユユナ姫は魔族なの!?」


 驚くエリ。

 ユユナは慌てて小さな手を振った。


「ちっ、違います! 私は人間です。でも……遠いご先祖様にそういった方がいたという話は伝わっています。この目を持つ者は二百年以上いなかったようですが」

「先祖返りってことか。偶然血が濃く現れたんだな」

「あの……クリストファー様は恐ろしいですか? こんな私のこと……」

「いや、全然?」


 突然なにを言い出すのだろう?

 たしかにネタがわからなければ怖い力かもしれないが、こうして打ち明けてくれたユユナに俺たちへの敵意があるはずはない。


「かわいいお姫様だなとは思ってたけど。俺には力が効かないんだろ? ならなにも問題はないんじゃないか?」

「かっ、かわいい!? はわぁー……」


 ユユナはぽーっとして自分の頬を押さえた。


「なにいきなりよその国のお姫様口説いてるの?」


 アンナが(とが)めるように言った。


「ちがっ――お、俺は口説いてなんか……」


 助けてくれという思いを視線に込めてリズミナを見るが……。


「ふん」


 リズミナは冷たく言って目を閉じるだけ。


「そ、そういやユユナ姫はさ! 最初俺を見て驚いてたみたいだったけど」


 話題を変えようとそんなことを言ってみた。

 泣いていたよね? とは聞けなかったが。

 ユユナはまだ頬に手を当てたまま夢うつつのような表情をしていた。


「あの、私のことはユユナと呼んでもらえませんでしょうか?」

「なら俺のこともクリスでいいよ」


 別になんでもないやりとりだ。

 それなのにユユナの目にはうっすらと涙が浮かぶ。


「ありがとうございます……」

「えっ!? な、なんで泣くの?」


 ユユナは指で目元を拭いながらもその顔には笑顔が浮かぶ。


「わかりません。でも……うれしくって。うれしくてうれしくてたまらないんです。こんな気持ち初めてです」


 いきなり女の子を泣かせてしまったみたいで居心地が悪い。


「先ほどもそうです。クリス様を初めて見た瞬間、世界が光に包まれました。クリス様は美しく輝いて見えたのです。私はどうしていいかわからず、なぜか涙があふれてしまい……変ですよね。なにを言ってるかわからないですよね。私も自分で自分がわからなくなってしまったのです」

「えっと……」


 俺はアンナを見た。

 アンナは盛大なため息をついて、やれやれとばかりに目を閉じて首を振る。

 リズミナを見ても同じようなため息。

 エリだけがきょとんとした顔を返してくる。


「あの、クリス様。こんな申し出、あつかましいとはわかっているのですけれど……」

「なんでも言ってみてくれ」

「お兄様、と呼ばせていただいてもいいでしょうか?」

「は?」


 俺は一瞬思考が停止してしまった。

 間抜けのようにその場で固まるしかない。


「申し訳ありません! やっぱり変なお願い……ですよね」

「いや、別にいいけど」

「ありがとうございます!! お兄様! クリスお兄様! ああっ!」


 ユユナは自分で自分の肩を抱き、感極まったように悶えた。


「それにしてもどうしていきなりそんなことを?」

「私には、今は母様以外の肉親はいないのです。もし私に兄がいたらどんな人だろうと……そんなことを考えていました。クリス様は、まさに私の理想のお兄様だったのです」


 り、理想の……。

 なんだか頬がむず痒くなってくるんだけど。

 でもまあ、ユユナみたいな女の子にお兄様と呼ばれるのも……悪い気もしないかな。

 俺にもこんなかわいい妹がいたらな、なんて思わなくもない。


「えっ?」


 アンナが俺に体を寄せてきていた。


「お、に、い、さ、ま」


 ぴったりと体をくっつけて腕を絡めて、耳元で言われた。

 うわああああああああああ!!

 は、恥ずかしい!

 アンナに言われるとめちゃくちゃ死ぬほど恥ずかしい!!

 反対側に座るリズミナも俺に体を寄せる。


「……お兄様」


 ぼそっとささやかれる。

 やめてくれええええええええええ!!

 誰か助けてくれ! こいつらを止めてくれええええええ!


「わは、クリス顔真っ赤ー!」


 エリは楽しそうに笑うだけ。

 俺はたまらず叫んだ。


「ユユナ以外はお兄様禁止だから!!!」

「えー、ずるーい」

「不公平だ」


 アンナとリズミナの抗議は無視することにした。

 助け舟は部屋の外からやってきた。

 ドアが数回ノックされる。


「ラーニャです。みなさまいらっしゃいますか?」


 俺はラーニャを招き入れた。

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