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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
六章

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アセルクリラングへご招待

 最近は仕事もようやく落ち着いてきていた。

 今日も朝のうちにさっさと仕事を終わらせて、俺は城の中をぶらついていた。

 王政から民主制になり、城の大広間にある豪華な玉座もあまり使われなくなった。

 俺も王様のように玉座に座らせられることもないことはないが、それは公的行事だったり外国の重要な使者を迎えるときなどに限られていた。

 おや?

 城の一階入り口の広間を通りかかったところで、ルイニユーキを発見した。

 なにやら女性と話している。

 二十代くらいのきれいな女性だ。たしかルイニユーキは四十を過ぎていたはずだったから、まさか彼女というわけではないとは思うが。

 俺は二人に近づいていった。


「よう、ルイニユーキ。その人は?」

「あっ、クリス殿。こちらの方はアセルクリラングからの使者です。何度も断っているのですが、なかなか聞いてくれず困っていたのです」

「なんのことだ?」


 女性は俺に向き直るとぱっと笑顔になった。


「あなたがクリストファー様ですね。私アセルクリラングから来ましたラーニャと申します。イリシュアールの国主様に言伝があって参りました」 


 長い髪と抜群のスタイルを持つ美しい女性。ゆったりとした布を巻きつけたような衣服は異国を感じさせる。


「彼女は俺に用があるみたいだぞ。正式な使者なら玉座で迎えるべきじゃなかったのか?」

「それが……」


 ルイニユーキは困り顔だ。


「私、ここへは何度も来ているのですけど、この方が取り合ってくれず。国主様と直接お話したいと申し上げていましたのに」


 使者が俺に会いたがっていたのにルイニユーキがストップをかけていたということか。


「ルイニユーキ」


 さすがにここは怒るべきだろう。

 ルイニユーキは俺の声色から怒りを察したのか、すぐに頭を下げた。


「申し訳ありませんクリス殿。しかし兵も連れずにお忍びでアセルクリラングに来て欲しいなどという要求は荒唐無稽(こうとうむけい)にすぎます。国政を預かる者の一人として、到底容認できません。筆頭政務官はこの国の大黒柱。万が一があってはならないのです」


 なるほど。

 俺はルイニユーキの言葉の別の意図を理解した。

 つまり、使者と俺を直接会わせてしまっては、この無茶な要求を飲んでしまうと思ったのだろう。

 だから俺に黙って追い返していたわけだ。

 となればルイニユーキを頭ごなしに怒るわけにはいかない。


「まあ、話だけでも聞いてやっていいんじゃないか?」


 なぜなら俺も他国へのお忍び旅行は興味をそそられるからだ。

 正直日々の書類仕事にはうんざりしていたし、ここらで外交を兼ねて遊びに行けるなら願ったりかなったりだった。


「クリス殿!」


 ルイニユーキは声を上げるが、すぐにあきらめたように肩を落とした。


「はぁ……わかりました。ですがくれぐれも判断を誤らないでください。クリス殿はこの国になくてはならない存在なのですから」

「じゃあ話を聞かせてくれ」


 ラーニャは俺の手を取って喜んだ。


「ありがとうございます! ではまず言伝を。我らが女王シェアランはこう申しております。この度はイリシュアール国主にご就任なされましたこと、誠におめでとうございます。つきましてはアセルクリラングとイリシュアールの一層の友好を深めるため、ぜひお忍びで遊びにいらしてください。最大限のご歓迎をいたします、と」


 たしかにお忍びでとわざわざ入れるのは妙な気がするな。

 そこはただしてみてもいいだろう。


「お忍びで来いとはどういうことなんだ? 兵を連れていってはいけない理由は? こう言っちゃなんだがうさん臭く思われても仕方ないと思うが」


 ラーニャは笑顔を崩さない。


「実は三年前の戦争で我が国が負けた際も、イリシュアール国王には多大なる恩情をいただき、その後も定期的なお忍び訪問をしていただいていたのです。ですのでこれは決して無茶なお願いではなく、あくまで通例通り国主様を歓迎させていただきたいという気持ちなのです」


 前イリシュアール国王がお忍びで訪問していた?

 俺はルイニユーキを見た。


「聞いたことがありませんね。もしかしたら記録にすら残していないのかもしれません。事実関係はこちらで確認させていただきますが、時間をいただくことになります。ですので今日のところはひとまずお引き取り――」


 そこへ、大きな声が響いた。


「あっ、クリスいたーーーーーー!! クーリスーーーー!!」


 アンナだ。

 俺を探していたのか、パタパタとこっちに駆けてくる。


「どうしたんだ?」

「クリスを探してたんだよ」

「そうか」


 アンナの様子から緊急の用事ではなく、単に俺に会いたかったのだとわかった。


「この人は?」

「ああ。アセルクリラングの使者らしい。俺を招待したいんだってさ」

「あ! この間の果物の国だね! すっごくおいしかった。ありがとう」

「あなたはたしか……フェリシアーナ元女王様ですね。ふふ、それはよかったです。アセルクリラングには他にも美味美食がたくさんありますよ」


 アンナの目の色が変わった。


「クリス!」


 アンナの言いたいことはわかる。俺も同じ気持ちだからだ。

 俺はラーニャに言った。


「こいつも連れてっていいのか?」

「もちろんです。兵を大勢引き連れなければ問題はありません」


 横ではルイニユーキが盛大なため息をついていた。


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