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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
一章

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12/198

サーシルタン

 通りに面した飯屋に入り、テーブル席に座る。


「ほら、元気出せ。メシだぞ、メシ」


 アンナはメニューの冊子も見ないで下を向いている。

 まだ気にしてんのか、こいつ。

 何かアンナを安心させるために、言葉だけじゃなくてこう、何か……。

 あ、そうだ。


「アンナ、これ持ってろ」

「これって……」


 細かい紋様が描かれた紙片。術符だ。


「怖いか?」


 戸惑うような顔のアンナ。

 さっき火だるまになった暴漢の姿が浮かんだのだろう。


「安心しろ。ああいう危ないやつじゃない。これは閃光音響符だ。使うとすごい光と音が出るが、けがはしない」


 転生前のスタングレネードを再現した符だ。


「ああでも、使うときは一応目を閉じて直接符を見ないようにしろ。まぶしすぎてしばらく目が見えなくなる」

「うん……わかった」


 術符を受け取るアンナ。

 もしものときはこの符が目印にもなってくれるだろう。

 アンナは人差し指と中指で挟んで、びしっとポーズを付ける。


「へへ。なんかクリスみたい。さっきのクリスかっこよかった」

「はは、そうか?」

「うん。私もえいやーって、これで悪者をやっつけるんだ!」

「いやそれ、逃げるための符だからな。間違えんなよ?」

「えへへー」


 よかった。だいぶ調子が戻ってきたみたいだ。


「じゃ、メシにするぞ。ええとこの店は……ああ、麺料理が多いな。サーシルタンでも頼むか」


 転生前のラーメンが恋しいのは置いておくとして、シルタンはキリアヒーストルで広く食べられている米粉の麺だ。

 サーシルタンは麺の上に炒めた野菜と小さく切った肉をたっぷり乗せて、たっぷりとタレをかけた料理だ。

 担々麺に近いが辛くはない。


「お前はいつも通り俺と同じやつでいいのか?」

「うん!」


 店員を呼んで注文する。


「サーシルタン二つ。それにトラファの串焼き二人前。あとアラの実一皿。リリパン二つ」

「あいよ。サーシルタン二つトラファ二人前アラの実リリパンね」


 店員の男は復唱してから厨房のほうへ行った。

 トラファはキリアヒーストルで一般的な食用のヘビで、家畜化もされている。

 アンナが串焼きを見て指をくわえていたと聞いたので頼んでみた。

 アラの実は滋養に富んだ銀杏くらいの大きさの木の実で、炒ったアラの実に塩をふりかけると止まらなくなるほどだ。スナック感覚で食べられる。

 リリパンはやはりこの国で一般的な果物。甘くて果汁たっぷり。

 しばらくして料理が運ばれてきた。


「おおーーーーー!」


 初めて見る料理に目を輝かせるアンナ。


「このサーシルタンはな、こうやって混ぜて食うんだ」


 麺と具材、たっぷりかけられたタレを木のフォークで混ぜる。

 アンナも同じように混ぜる。

 タレをしっかり絡めた麺をフォークですくって口へと運ぶ。

 うん、これこれ。

 この黒いタレ。こいつに秘密があるんだよなぁ。

 独特のコクと香りが、肉の旨味といっしょに麺にしっかりと絡んでいる。

 肉がひき肉だったら担々麺なんだけどな。

 あとこの野菜。

 野菜炒めとして単品で出せるくらいの量が乗っている。

 肉と野菜が主役で麺がある意味脇役になっている。むしろそういう料理だ、これ。

 野菜もしっかりした歯ごたえが残る。

 香りの強い葉物野菜と、歯ごたえの良い茎のような見た目の野菜と、くの字型のエンドウのような野菜。他にも数種類の野菜がふんだんに使われている。

 次はアラの実を一個、盛られた皿からひょいと取る。

 銀杏程度の大きさのこいつは、硬い殻に覆われているが、先っぽが少し割れていて、その割れ目に爪をかけて二つに割ると簡単に中身を取り出すことができる。

 そしてその可食部分は、クルミもかくやという濃厚さ。栄養もたっぷり。

 アンナも真似して殻を割って食べる。


「んーーーーー! おおおーーー!」


 ひょい、ぱく。ひょい、ぱく。

 さっそく止まらくなったらしい。

 アラの実は一皿しか頼んでいない。

 二人でつまむつもりだったからだ。

 しかしアンナ怒涛のラッシュのおかげで、俺は一個しか食べられなかった。

 次はトラファの串焼きだが、テーブルに運ばれて来た瞬間から、めちゃくちゃいい匂いを漂わせていた。

 弾けるような脂のしたたるトラファの肉は、驚くほど柔らかくておいしい。


「おいしいいいぃぃーーーーー! クリス! これおいしいーーーーー! はぅぅーーーー!」


 今日一の幸せ顔、いただきました。

 俺も初めてトラファを食べた時は驚いた。勝手な先入観で硬そうな肉だなと思っていたからだ。

 アンナのひじから先ほどの長さのある大きな串焼きが、たっぷり三本。これ一皿でお腹がいっぱいになってもおかしくないボリュームだ。

 しかしアンナは実にうまそうにかぶりついてペースが落ちない。


「一本いるか?」

「いいのっ!?」


 串焼き一本アンナの皿に移動すると、アンナは声を上げて喜んだ。

 ほんと、よく食うなこいつ。

 この小さな体のどこに入るのかと思うくらい食べまくる。

 そして最後。リリパンだ。

 ソフトボールくらいの大きさの、青い実。

 そう、青い。

 青い果実なんて転生前ではちょっと思い浮かばない。

 濃い藍色のなにかはあった気がするが、リリパンほどきれいな空色をした果物を俺は見たことがない。

 手に持つとずっしりした重みがある。果汁がたっぷり詰まっている証拠だ。

 これは皮ごとかぶりつくのが定番。

 弾けるようにあふれる果汁は甘くてさわやかな香り。

 例えるならモモに近いかな。でも果肉はモモよりもしっかり系で種も小さい。


「あ、種は出せよ……って、お前」

「ふぃぃ……なにこれ」


 目をうるうるさせて舌を出してるアンナ。


「あーやっちまったか。種は苦いからな。噛むなよって言おうとしたのに」

「うぅぅ……」


 種が超苦いことをのぞけば本当においしいフルーツなんだよな。


「ふー、食ったなー」

「おいしかったぁーーーー!」


 代金を支払って店を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。


「ほれ」

「えへへ」


 手を出すとアンナは満面の笑顔で掴んでくる。

 辺りが暗いからか、いつもよりは手を繋ぐのも恥ずかしくなかった。


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