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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
五章

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料理大会が終わって

「ああーーーー、疲れた」


 調理台の後ろの地面にばったり仰向けに倒れ込む。俺の周囲には材料の木箱や開け放たれた麻袋が散らばっていた。

 そして寝転がったまままっすぐ正面を見上げれば、目に映るのは夕日に照らされて紅くなった空。

 大会が終わってから今までずっとトンカツを揚げっぱなしだった。

 他の参加者の料理人も手伝ってくれて、ポルポの肉を揚げやすいサイズに切ったりしてくれた。

 まあ例のシャルルという中年の料理人はさっさと帰ってしまっていたが。

 どこかの店のオヤジが余計な気を利かせてくれて材料が次々に運び込まれるものだから、結局この時間までかかってしまったというわけだ。

 配る料理もなくなったということで、あれだけいた広場の人ごみもすっかりいなくなっていた。


「お疲れさま」

「お、サンキュー」


 アンナにコップを手渡されて俺は上半身を起こした。

 カラカラに乾いていた喉に澄んだ水が染み渡る。


「おつかれー」


 ユイリーも俺のほうへやってきた。

 見ればその後ろ、ユイリーの調理場の辺りには恐竜の化石を想像させる巨大な魚の骨が幾重にも積み重なっていた。

 あれ全部こいつが解体したのか……。

 それなのに当の本人は疲れた様子も見せずにピンピンしてやがる。


「おう、お前もな」

「あはは、結構限界みたいだね」

「まあな」

「やっぱりそっちの料理のほうが人気、あったみたいだね」


 少しだけ寂しそうに笑うユイリー。

 たしかに一位になったユイリーよりも、二位の俺の行列のほうが長かった気がする。


「くやしいけどやっぱり最高においしかったもん。その……トンカツっていう料理」

「お前のデスロ料理もうまかったぞ。甲乙つけがたいと思うが……」


 ユイリーは審査員に出した物だけじゃなくて、デスロのあら汁鍋も作っていた。あら汁とは言ってもしっかりと身もたくさん入った贅沢なスープだ。一度にたくさん作れるのが利点で、行き渡らない人が出ないようにというユイリーの優しさが表れていた。

 巨大魚デスロを料理に使ったのは、たくさんの観客たちに食べてもらうためだったというのは考えすぎだろうか。

 ユイリーは真剣な顔つきになる。


「いや、やっぱり私の負けだ。こればっかりはごまかしようがない」


 俺はさらにフォローを入れようかとも思ったが、踏みとどまった。

 たぶんユイリーは料理に関しては妥協が出来ない性格なのだろう。

 そのユイリーが確信をもって負けだと言うのなら、これ以上重ねる言葉はない。

 話題を変えたのはユイリーのほうだった。


「クリスさんは料理人してたりしたことがあるの?」

「さん、もなしだ。クリスでいいよ。料理らしい料理はしたことないな」

「え? じゃあどこかで見習いの修行とかは」

「それもない」


 今度こそユイリーは口をぽかんと開けた。


「うそ……じゃあなんであんなすごい料理を」

「たまたまだ」


 まあ前世云々言っても仕方ないのでごまかしておく。


「そんな……」


 少しの間茫然としていたユイリーだったが、突然、俺の手をがっしりと取ってくる。


「クリス、料理人になりなよ」

「え?」


 ユイリーの目は真剣そのものだ。


「才能あるよ! 埋もれさせておくのなんてもったいないよ! もしよかったら、私と――」


 口を挟んだのはアンナだった。


「あのね、ユイリーちゃん。クリスは筆頭政務官なんだよ」

「あっ!」


 思い出したように声を上げて口元に手を当てるユイリー。


「いやしかし、そうまで言われてしまっては一考の余地が……」


 わざとらしく悩むフリをすると、ユイリーはますます慌てた。


「わー、ごめんなさい! 私、料理のことになるとつい」

「まあ料理を作って、食べる人の笑顔を見るのは、悪いものじゃなかったな。……いや、正直に言うよ。最高だった」


 俺の作ったトンカツを食べて笑顔になった人々の姿は今も目に焼き付いている。

 ユイリーは出会ってから今までで一番の笑顔になった。


「でしょ! だから私、料理人になったんだ! みんなを笑顔にできる最高の仕事だよ!」


 その笑顔は誇りと自信と幸せに満ちていた。


「お前は本当に料理人が天職なんだな」

「うんっ!!」


 ユイリーの笑顔は晴れやかでまぶしいくらいだ。

 この瞬間のユイリーはめちゃくちゃ魅力的で……。


「クリス、今日のこと本当に……ありがとう」

「えっ……」


 気が付いたときには、キスされていた。


「あーーーーっ!!」


 アンナの大声。

 顔を離したユイリーは恥ずかしそうに笑う。頬が赤く見えるのは夕日のせいだろうか?


「口のとこ、デスロの食べ残し付いてたよ」


 そう言ってぺろりと舌を出してなめるように動かすユイリー。その仕草には幼い見た目とはアンバランスの色気があった。

 つい下のほうへと目がいってしまう。

 最初に会ったときのごつい旅装ではなく、短いスカート姿だ。そのスカートの隙間から覗くのは健康的な太もも。


「うっ……」


 どうしようもないくらいユイリーの女の子を意識してしまって、胸の鼓動が早くなってくる。

 と、今度はアンナが俺に覆いかぶさってきた。


「うぐっ!?」


 半身を起こした態勢だった俺は、アンナに押し倒されて再び地面に背中を付けた。

 アンナの突然のキス。

 顔を上げたアンナは目を泳がせて頬をかいた。


「えっと……付いてたよ」

「なにが?」

「さっきの……お水」

「つくかっ!!」

「あはははははは!」


 ユイリーは俺たちのやりとりがツボに入ったのか、腹を抱えての大笑いだ。

 俺もなんだかわからないけど笑えてきた。


「ははっ、なにやってんだろうな、俺たち」

「えへへ」


 アンナも緩く笑う。


「はい」


 ユイリーが手を差し出してくれた。

 俺はその手を取って起き上がろうとして――。


「わわっ」

「うおっ!?」


 立ち上がるどころか引っ張られて倒れ込むユイリー。

 アンナももつれて巻き込まれ、俺はアンナとユイリーに押しつぶされることになってしまった。


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