反撃の一手は料理大会!?
「さあ、どうぞ」
「おお……」
「わぁーーー!」
俺とアンナは再び席に着いて、出された料理に目を輝かせた。
深皿にはぐつぐつと煮えるグラタンのような料理。溶けたチーズが浮き上がる泡に押されて風船のように膨れる。
赤茶色のどろっとしたクリーム状の中身はスプーンですくうと、澄んだ赤い油が縁取るように浮いた。
「トゥカルカっていう料理だよ。私の手持ちの食材で作ったからたいしたものじゃないけど。熱いから気を付けてね」
ふーふー息を吹きかけてから一口。
こってりと濃厚なコクが口の中に広がる。
こりゃ美味い。
そして硬貨くらいの大きさと形の白い具材。モチかグミみたいな不思議な弾力があった。
噛むのがちょっと大変だけど、この食感はクセになる。こってりしたクリームがよく絡んで、噛めば噛むほど味わい深い。
おや?
別の食感に当たる。
これは肉だ。
はらはらと繊維がほどけるように食べやすいが、やわらかくて溶けるという感じではない。
「おいしーーーーーーーー!! これなんのお肉?」
アンナは満面の笑顔だ。
「砂熊の干し肉を使ったんだ。トゥカルカに合うと思って試してみたんだけど、どうやら当たりだね」
砂熊……。
南の砂漠に生息する動物だったはずだ。
もしかしてユイリーはそんなところまで行っていたのか?
それにしてもここまでこってりした料理だと、なにかこう……薄い味の物を食べたくなる。
最初に出された堅いパンがまだ残っていることに気付いた。
手に取って食いちぎるようにして食べると、やっぱりよく合う。
もしかしてユイリーは俺たちがパンを残しているのに気づいてこの料理を作ったのだろうか?
あまりに美味しくて、ついリスみたいに頬にパンを詰めてしまう。
頬が膨らんだままユイリーを見れば、彼女はただにこにこと笑うだけ。
「はふぅー……。おいしぃぃーーーー!」
アンナもパンとトゥカルカを交互に食べていた。
「マジでうまいよ。これって、ずいぶん手が込んでいるように見えるけど、簡単に作れるものなのか?」
じっくりコトコト系料理は時間がかかる。
「ああ。これ煮込んだというより沸騰するまで温めただけだよ。竜の舌っていう果実なんだけど、ほら」
そう言ってユイリーは例のどでかい麻のバックパックをごそごそやって、変わった形の実を取り出した。
たしかに舌と言われればそう見えなくもない。細長い三角形の実だ。八等分に切ったピザみたいだ。
「この果実は普通に食べても甘くもなくておいしくないんだけど、火にかけると一日かけて煮込んだような味が出るんだ。イリシュアールには出回ってないけどね」
すごい果物なのはわかったけど、この味はそれだけじゃ説明できない気がする。塩気のある植物なんてあるのか? なにか他の調味料も使っているはずだ。
とにかく美味しいことは事実だ。
俺とアンナはあっという間にトゥカルカを平らげた。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまーーー!!」
「はいよ」
俺たちの顔を見てユイリーも無邪気な笑顔を見せてくれた。
そしてユイリーはザッカールのほうを見て表情を引き締める。
「もう大丈夫だよお父さん。私が帰って来たからには離れた客、全員取り戻して見せるよ」
「しかし……」
ザッカールは肩を落としてうつむく。
店には明日の食材を仕入れる資金も残っていないのだろう。
「なら俺が投資させてもらおう」
「えっ」
「正直この料理はめちゃくちゃ美味しかった。珍しい食材を使っているって話だが、当然イリシュアールで手に入る食材でも勝負できるんだろ?」
ユイリーは胸を張る。
「もちろんだよ」
「じゃあ俺に任せてくれ。しばらく店を回せるだけの食材は用意しよう。ただし、食材はあっても一度離れた客は簡単には戻らない」
事実俺は店の中がガラガラだっただけで回れ右して出て行こうとしたくらいなのだ。客が寄り付かなくなった店には余計に客が来なくなる。悪循環だった。
必要なのは宣伝だ。
「なら、どうするの?」
きょとんとした疑問顔で俺を見るアンナ。
「料理大会を開く」
「料理大会!?」
ザッカールとユイリー、そしてアンナの全員が顔を見合わせた。




