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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
五章

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ライバル店の罠

 戻ってきた男は、もう一人の男を連れてきていた。

 貴族のように仕立てのいい服に、つば広の帽子を目深に被っている。この男がボスなのだろう。


「あんたか? このおっさんの借金を肩代わりしてくれるやつってのは」

「いや、俺はそんなことは言っちゃいないけど……」


 身なりのいい男は一枚の紙を出して掲げた。


「これが借金の証文(しょうもん)だ」

「そいつは偽物だな」


 俺のいきなりの断定に激昂したのは手下のほうだった。


「ふざけんな! 間違いなく本物だ! 適当なこと言って踏み倒すつもりかよ」


 もちろん適当なことを言った。

 証文の内容を確認するための嘘だ。


「なら確認させてもらうぞ」


 手に取っても狙い通りボスは抵抗を見せない。

 俺は証文に素早く目を走らせた。

 たしかに正式な借金の借用書だ。だが……。


「この利率は高すぎるな。十日で七割だと? 完全に違法だ。これは無効だな。というか、なんでこんなアホみたいな契約書にサインをしたんだあんたは……」


 横目に見れば、店主は肩を落として下を向いていた。


「信用していた人からの紹介でしたので……。返済金を用立ててくれる人を見つけたと。ところが言われるままに書類にサインをした後に、実はそれが新たな借金の契約だと知ったのです」

「その最初に金を借りた相手っていうのは?」

「向かいの食堂の店主です」


 この店主のおじさんには悪いが、それは完全にハメられてる。


「場所的に明らかにライバル店だろ。なんで信用なんかしたんだ」

「目の前に店を出されたことも、客を取られたことも私は恨んでいません。料理の世界は味が勝負。客を取られたのは新しく出来た店のほうが魅力的な食事を提供していただけのことです。そしてあっちの店の店主は、経営が悪化して資金繰りに苦しんでいた私に、無利息無担保でお金を貸すと言ってくれたのです。そんなことを言われたら信用してしまうじゃないですか」


 このお人好しのおじさんだって、きっと最初の借金時にはきちんと書類に目を通したはずだ。

 だからライバル店の店主はあえて一度無利息無担保で金を貸すことによってまずおじさんを信用させ、それから罠に嵌めたということだ。

 目の前に出店してくるようなライバル店が、善意で金を貸すわけがない。そこは絶対に裏があると疑うべきだった。

 とはいえ今さらそんなことを言っても始まらない。

 口を開いたのはボスだ。


「それで、違法だからどうしたって言うんだ。このおっさんが金を借りたのは事実。俺たちは見ての通り、スカした銀行家じゃあねえ。闇金だ。この意味わかるだろ?」


 法律など関係ない。闇業者は天井知らずの利率で金を貸すということだ。取り締まる役人には賄賂を渡せばどうにでもなるのがこの国の現実だった。


「なら仕方ない。逮捕させてもらうしかないな。本来の業務ではないが、あながち権限がないわけでもない」


 そこで初めてボスは帽子をくいと上げて、まじまじと俺を確認した。


「まさかお前……新しい国主はずいぶん若いと噂だったが……しかもこっちはフェリシアーナ女王か」


 席に座っているアンナを見てようやく男たちは顔色を変えた。


「うわっ、本当だ! や、やべえよボス……」

「この仕事からは手を引くぞ」


 言うが早いかくるりと俺たちに背を向けてさっさと出て行こうとする。


「待て。お前らみたいなクソったれな高利貸しを、このまま見逃すと思っているのか?」


 ボスは振り返って、するどい目をさらに細めた。


「ちっ、賄賂が通用する相手じゃねえしな。……おい」

「へへへ……」


 ボスの一言で部下はナイフを抜いた。

 やる気だ。


「こうなりゃ国主だろうが女王だろうが関係ねえ! 相手はただのガキ二人だ。やっちまえ!」

「オラァ!!」


 するどく突き出されるナイフ。

 俺は余裕をもって避けて腕を取り、足を払って転ばせる。

 金貸しの手下のチンピラなんてこんなものだ。


「くそっ」


 逃げようとしたボスだったが、すでに氷結符が発動済み。

 自分の足に氷の枷が嵌められているとも知らずに走り出そうとしたボスは、勢いよく転倒。顔面を地面に打ち付けた。


「ぐああっ!」


 と、そのとき店のドアが開いて、一人の少女が飛び込んできた。


「お父さーん! ただいまーーーー!!」


 グシャアッ!!

 飛び込んできた少女の足が、床に倒れているボスの頭を見事に踏み抜いた。


「ああっ、ごめんなさい! こんなところに人が寝てるなんて思わなくて」


 強烈な一撃に気を失ってしまったのか、ボスはピクリとも動かない。


「いや、いい。こいつのことは気しないで大丈夫だ」


 俺は投げやりな口調で言った。

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