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転生したら魔法の才能があったのでそれを仕事にして女の子と異世界で美味しい物を食べることにした  作者: 鉄毛布
一章

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11/198

夕方のリシアトール

 バザンドラの町で残っていた注文を処理したり、得意客への説明等で二日ほどを要した。

 さすがにこの前店を空けてからまたすぐのことなので、今回は丁寧に説明しておいた。

 準備を整えたらいよいよ出発。

 適当な商人の馬車に乗せてもらって、半日をかけてリシアトールの町へ着いた。

 王都へはこの町を経由して、さらに徒歩で数時間必要だ。

 そして今は夕焼けの赤い空。

 俺とアンナは馬車の荷台から降り、御者のおじさんにお礼を言う。


「どうもありがとうございました。これ、お礼です」

「ああ、こっちこそ。悪いね、こんなにもらっちゃって」


 おじさんは銀貨四枚を受け取ってホクホク顔だ。

 積み荷は大量の藁束だったので、乗り心地は悪くなかった。

 それでもアンナは顔色を悪くしていたが。


「うう……クリスぅ」


 げっそりとした顔で額に手を当てているアンナ。

 俺はアンナの衣服に付いた藁のカスを払ってやる。


「ありがと」


 リシアトールは王都への中継として様々な人や物資の集まる大きな町だ。

 この時間になっても人通りは多い。

 俺たちはとりあえずの宿を決め、部屋に荷物を下ろした。


「ほら、水。だいぶ酔ったみたいだけど大丈夫か?」

「うん。だいぶ良くなったかも」


 そうは言うがアンナは水を一口飲んでベッドに仰向けになってしまう。

 サラサラの金髪が白いシーツの上に花弁のように広がる。


「つらいなら出歩くのはやめておくか?」


 せっかく馬車で来たのだからまだ体力は十分。どこか外で美味い物でもと思っていたのだが、アンナがこの調子ではそれも望めないだろう。


「ご飯は?」


 最初の頃は俺が口に出すまで遠慮をして我慢するのが当たり前だったアンナも、こうして聞いてくるようになった。

 それが嬉しい。

 アンナは俺の助手でパートナーだ。対等な関係でありたい。


「ああ、どこか外でと思ってたんだけど――」

「行く!」


 バッと顔を上げたアンナは真剣な顔だ。

 この食い意地には苦笑するしかない。

 それともこの間の宿の飯がハズレだったのが響いているのか。

 俺が差し出した手を取って、アンナはベッドから体を起こした。

 さて、できれば日が沈む前に店を探したいが……。

 宿を出た俺たちは、立ち並ぶ建物を注意深く見ながら道を歩いた。

 もう腹はペコペコで限界を訴えていたが、ここで焦ってはいけない。

 店選びを間違えて痛い目に会ったことも一度や二度ではなかった。


「お、あの店なんかいいんじゃないか? ……アンナ?」


 ようやくいい感じの店を見つけたと思ったら、となりにいたはずのアンナの姿がない。

 慌てて首をめぐらすが、それらしい姿は行き交う人の中には見えない。


「アンナ! アンナっ!」


 背筋を冷たいものが走る。

 俺は来た道を急いで駆け戻る。

 周囲を見回して必死にアンナを探す。


「アンナーーーーーー!!」


 くそっ!

 なにをやってるんだ俺は。

 もう日が落ちるまで時間はない。

 この世界は暗くなってからもアンナのような女の子が安全に出歩ける日本とは違うんだ!

 遠く視界の隅で、建物と建物の間のわずかな隙間に人影が見えた気がした。

 一瞬だったが間違いない。

 口元を手で押さえられて路地裏へと引っ張られていったのを確認した。


「くそっ!」


 全速力で走る。


「痛ぇなオイ!」


 通行人に思いっきり当たってしまって怒鳴られる。

 だが構っている暇はない。

 アンナの連れ去られた路地裏へと飛び込む。

 人一人が通れるような狭い通路だ。辺りにはゴミや割れた酒瓶が転がっている。

 その通路の奥に、全身をすっぽりとローブで隠した人物の背中が見えた。


「そこまでだ!」


 大声で言うと、そのローブの人物はゆっくりとこちらを振り返った。


「クリス……」


 ローブの人物の後ろで尻もちをつくように倒れているアンナが俺を呼んだ。

 よかった。無事だ。

 ローブの人物は正面を向いても目だけしか露出させていない格好で、どんな人物なのか分からない。

 容赦はしない。

 俺は外套の内側から攻撃用の術符を掴み取る。


「……」


 ローブの人物は突然ジャンプしたかと思うと、驚くべき身のこなしで壁と壁を蹴って上へと登っていく。

 なんてやつだ!

 意表をついた逃走経路に、一瞬使う術符を迷う。


「待ってクリス!」


 叫んだのはアンナ。


「え……」

「その人はあたしを助けてくれたの! だから戦わないで!」


 一瞬の逡巡の間にローブの人物は建物の屋根の上へと消えていた。

 見れば路地裏の汚い地面には二人の男が倒れていた。

 おかしな方向に曲がった腕を押さえて苦しそうなうめき声をあげている。

 あの時アンナを路地裏へと連れ込もうとした手は、この男たちのものだったのだ。


「ぎゃああああああああああ!」


 俺はそのうち一人の曲がっているひじを踏みつけて聞いた。


「あんたらがアンナを襲ったってことでいいんだよな?」

「ひいいいいいいい! す、すまねえ! まさかあんなつええ連れがいるなんて、知らなかったんだ。許してくれ、頼む」

「なぜ襲った?」

「このガキ露店の串焼きを指くわえて見てたんだよ。それで急に慌ててきょろきょろしだしてさ、誰か連れの大人とでもはぐれたってピンと来たぜ。声を掛けたらクリスって野郎を見なかったか?って聞いてくるもんだから……へへへ、後は分かるだろ」


 アンナの目がはっと見開かれる。

 背後で小さな硬い音。

 倒れていたもう一人がナイフを拾って俺の足首を背後から狙っていたのだ。

 俺はその切っ先を紙一重で跳んでかわし、とっさに発動させた火炎符を放った。


「ぐあああああああっ!?」


 狙いもつけずに放った火球は男の背中に命中し、激しい炎を吹き上げた。


「なっ……あああっ! うわああああああっ!?」


 半狂乱になって炎を消そうとのたうち回る男。

 俺はそれを無視してアンナを抱き起した。


「大丈夫か?」


 アンナは俺にぎゅっと抱きつく。


「ごめんなさい……」

「俺も悪かった。目を離してしまって。次から気を付ける」


 幸いにしてアンナに外傷も衣服の乱れもなかった。

 あのローブの人物に心の中だけで感謝して路地裏を出た。

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