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エピローグ 私の庭。


長らくお付き合い頂きありがとうございました!

一応今回を持ちまして本編は完結となります(*・ω・*)




 聖誕祭のあの日以来、以前にも増してスティーブンやオリバーさん、エマさんやアイザックさん達からの私に対する安全面での締め付けが強くなってしまった。


 どうやら私が倒れたのが、その前に取り憑かれたようにしていた庭造りの疲労だと思われたらしい。話を訊けばだいぶ危ない状況だったようなので、最近はあまり健康面での無茶をしなくなったのだが――。


 もちろん体調不良なんかでは断じてない。そんな柔な身体の作りだと思われるとは全くもって心外だ。


 ではあの日何が私の身に起こったのか? それが実際私にもはっきりとは分からないのが一番歯痒いのだ。


 あの日、私はあの事故のあった日に戻っていた。


 それもご丁寧にあの日のあの脚立の上に、だ。


 それが突発的な瞬間移動なのか、はたまた神の悪戯なのかはちょっと分からない。しかしあの茹だるような厳しい日本の真夏日を間違えるはずがなかった。


 脚立の足元には燃やされてしまったオッサントートバッグ達も、ちゃんと置かれている。まぁ……そういうわけで誰の仕業かは知らないが、いきなりあの不安定な脚立の上からワンチャンあるよと言われても困ってしまう。


 とっさに培った条件反射でバランスをとってしまった私は、ふとこのまま落ちればどうなるのかと、逆に落ちなければどうなるのかを考えた。


 ユラユラと前後しているこの脚立があの日のその時ならば、おそらく揺れが治まる前に早く決めなければならないだろうと冷静に分析する。


 だけど分析することなんて一つもないという結果が出るまでにほんの数秒もかからなかった。但し、これは非常に危険で分の悪い賭だ。


 何故ならもしも私が真夏の日光を浴びすぎて一瞬で一生の夢を見ただけの話だったら、この行為はただの自主的な自殺になってしまう。


 瞬間脳裏に地面と一体化している自分の姿が思い浮かんだが、そんなことは断じて避けたい。でもそれでも。ほんの少しの確率でも良いから私は賭けたかった。


 もう一度私が庭師になれる世界に、私を必要としてくれる人達がいる世界に行けるかもしれないならば……ユラユラと不安定な脚立の上で腹を決める。


 ――そして、後はお察しの通りというわけだ。


 ただこちらに戻ってきて誤算だったのは、私が悩んでいた時間が響いたせいなのかなんなのか……まさか一週間も眠り続ける事態になっているとは思いもよらなかった。お陰で起きた直後から色んな人に抱きしめられたり、お小言を食らったりと忙しかったのだ。


 そして今もまだ私を一人で出歩かせてはくれない過保護で優しい人達に囲まれながら、私は自分の造った庭のあの縁台に座ってちらほらと花を付ける若木を眺めながらお茶を飲んでいる。


「トモエ、何か足りない物はあるかしら?」


「何でも言いなさい」


「お前ぇはもっとちゃんと食って肉付けろ!」


「まだ消化に悪い物は控えなさいとお医者に言われたところですよ?」


「乗馬も追々やりにおいで」


「皆もうその辺で止めて上げて。トモエが困っておりますわよ?」


 うん。そうだね。マーガレットの言うとおりだと言おうとしたら――。


「トモエはわたしと沢山お話があるんですもの!」


 ……マーガレット、お前もか! そう叫びたくなったが一杯心配をかけた手前ここは我慢だ。けれど私が目まぐるしい会話に相槌すら打てないのを見かねて救い出してくれたのは――。


「トモエ、お前の庭の案内を頼む」


 そう言って自然に差し伸べられた手を、私もごく当然のような顔でとって立ち上がる。まだもつれそうな足元にもどかしさを感じていたら、見越していたように腰に腕を回された。


 いきなり回された腕にちょっと驚いて視線を上げると、光彩によっては霧がかかった湖面のように見える灰がかった青い瞳とぶつかった。


「どうかしたのか?」


 何の緊張も感じていないその瞳に映る私は、なる程確かに微妙な表情をしている。ふと背後から視線を感じて振り向いたら、皆が一斉にあらぬ方角を見た。……どうやら変なのは私だけではないらしい。


 暢気なスティーブンに「何でもないよ」と答えて二人並んで歩き出す。


 今日はたぶんこの庭には戻らないつもりでいそうなスティーブンをチラリと盗み見たら、案の定悪戯を思いついた子供のような視線が返ってきた。


 だから私は今一度、曲がり角に隠れてしまった皆にお辞儀をする。そんな私の行動にスティーブンが隣で微笑んだ。その微笑みに何故だか一瞬心臓が痛んだ。


 ……肋間神経痛かもしれないな。


 お互い言葉も交わさずに、お茶会の席を抜け出した。振り返って見るのは私の庭と私の皆。隣を見れば現・雇い主。


 私の名前は佐渡(さわたり)(ともえ)


 二回ほど死んだ気分の三十二歳。ここセントモーリス領のクロムウェル家で日本庭園“風”の庭師をやっています。


ここまでお付き合い頂きました読者様、本当にありがとうございました!


一月と少しの間、

毎日更新した作品を読んでもらえたことは本当に貴重な体験でした。


実は恥ずかしながら主人公と同じ前職の作者ですが、

女性の庭師に限らず女性の職人さんは色々な苦労があるかと思います。

もっと日本庭園の面白さを伝えられたら良かったのですが……筆力不足(´ω`;)

この後も後日談みたいなものを予定いたしておりますので、よろしければ。


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