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HimmelーH  作者: ひゅん
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HimmelーHe

結城 早苗は、和義と美佐子の間に生まれ、総一郎という兄が一人いた。

結城家は医者の家系で、幾代も前から男は全員医者という職業に就いていた。

先々代の当主は変わり者だったが歯医者になり、先代から何故か歯医者に就く者が多かった。

特に病院を経営してるわけでもなく、親や親族が強要したわけでもないのにと早苗の祖父が何故か自慢げに話していた。

親族会で近況がてらそんな話をするから、逆にプレッシャなんだと、兄の総一郎は愚痴っていたのを覚えている。

早苗の父、和義は母美佐子の父が経営する病院に勤めていた。

美佐子は長女であったが、長男である兄がいたので別段、和義が養子になる必要もなく、和義も姓を変える気はなかった。

ここまで、長々と早苗の家系について記したのには訳がある。

早苗の兄、総一郎は医者ではなく刑事だ。

本人は反抗期のタイミングが悪かったと笑っていたが親族の間では微妙な立場に立たされ、恐らく陰口も少なくはないはずだ。


早苗が目を覚ました時、病室を見てすぐに両親の勤める病院だとわかった。

3年前に兄が虫垂炎で入院した時に借りていた病室とおそらく同室に違いない。

事故の後遺症か身体がやけに重いがベットの縁まで身を捩らせて遺体の彼を観察した。

「貴方は誰?」

掠れた声が自分の口から漏れた。

早苗は備え付けのコールボタンを押した。


一年が知らぬ間に過ぎて、リハビリに一月以上時間がかかったが都合よくと言って良いかは微妙なところだが、夏休みはまだ終わってはいなかった。

早苗の体力は普段の生活ができるところまで回復したが、たまに突然倒れ込むことがあった。

夏休みが明けると休学していた大学に復学することになる。

一番のショックは、サークルが解散していたことだった。

大学での居場所が無くなった事になる。

事故のことは兄から聞いてショックを受けたが、サークル解散はショックとともに不安が心に流れ込んできた。

何故だろう、親しい友人を同時に3人も失ったのに生き残った自分は、自分の居場所ばかり気にして…。

早苗は兄の強さが羨ましくなった。


退院して数日が経過したある日、唐突に退院祝いとなった。

祝いと言っても料理はいつもと変わらず、兄の総一郎がシャンパンと、高価そうなワインを買ってきただけで、両親と早苗は先程帰宅したばかりの総一郎から本日、退院祝いの開催日を聞かされたばかりだ。

注がれたシャンパンのボトルが空になり、両親が新たに注がれたワインに口をつけたとき兄は口を開いた。

「では、唐突ではありますが私結城 総一郎から連絡があります。」

すっくと立ちあがった兄は注がれたワインを一気に飲み干した。

真面目な顔とは対照的なテレビアニメのキャラがプリントされたポロシャツが雰囲気をぶち壊している。

「なんだ総一郎。食事中に立ち上がるのはマナー違反だぞ?父さんもさっきからお手洗いを我慢しているというのに」

してたんだ・・・・我慢。

「まぁ、お父さん総一郎のお話を聞いてみましょう」

「かっ母さんはいつもそうだ!総一郎ばかり甘やかして!!」

まさか父親の涙目を見る機会が自分の結婚式以外で見る事ができるとは驚きだ。

父が足早に席から離れ、兄は固まっている。

「お父さん何も何をそんなに怒っているのかしら?」

単にお手洗いに行きたかっただけでしょ・・・。

3人は静かに父の帰りを待つ。


「では着席したままで失礼ですが今日私が県警の知り合いから聞いた情報をお伝えしたいと思います」

両親2人も落ち着いたのか残った食事を食べながら静かに兄の話に耳を傾けている。

私も暖かいカップスープを啜りながら兄の言葉を聞き流していた。

「まず、早苗の病室で亡くなっていた青年の身元が判明しました。かけはしそら20才

K大医学部の生徒でした。彼は末期の癌患者で余命幾許だったらしい。何故早苗の病室で倒れていたかは

不明でしたが、彼の自宅を訪れた捜査員が彼のパソコンから興味深いものをみつけた。」

興奮を抑えながら兄は話を続けた。

「彼のパソコンのIPアドレスが『Himmel』幹部の者と一致した」

「ひんめる?」

聞きなれない単語に思わず聞き返してしまった。

[Himmelはドイツ語で確か空とか天国とかいういみだったかな?」

父がプチ情報を挟み込む。

「ありがとう父さん。早苗は知らないと思うが、今ネット上で騒がれている、所謂新興宗教みたいなものだよ」

「母さん知ってますよ、テレビでも最近よく取り上げられています。なんでも三大宗教に並ぶんじゃないかって言われているのよ」

世界で三大宗教といえば、キリスト教(約20億人)、イスラム教(約11億9千万人)、ヒンズー教(約8億1千万人)で、日本で多い仏教は第4位(約3億8千万人)だ。

ちなみに無宗教者は約7億6千9百万人で第5位に位置している。

「少し母さんを補足すると、この宗教は今年1月に日本で発祥したといわれ、一部の信者を除いてだが、主にインターネットやSNSでしかコミュニケーションをとらない。布教活動や寄付金集め等活動内容は皆無

とされ、人々を引き付けているのは純粋に『教え』というよりは『生のメカニズム』にある」

饒舌に話す兄を見ていると彼もこの宗教を信仰しているのではないかと疑いたくなる。

様々な宗教には一貫して奇跡(人外の力)を起こすがこの宗教にはそれが無いと兄は語った。

しかし、ただ単に生のメカニズムを説くだけで宗教とよべるのかは疑問だ。

宗教とは人間の力や自然の力を超えた存在を中心とする観念であり、その観念体系に基づく教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団である。

そのひとつも適合しない集団を何とよべばいいのか、定義すら持たない集団がネット上に集結しているというただの現象と捉える専門家も少なくはなかった。

この偽りの宗教的組織は現在世界で8億人を超えると報道されていた。

「その組織の幹部がなぜ早苗の傍らで死んでいたのかは謎だ」

最後に兄がそう言い放ち沈黙した。

早苗は少し動揺した表情で兄に問いかけた。

「死因はなんだったの?」

「前立腺がん、でも彼は延命治療を断ったそうだから死因は栄養失調かな」

「やめなさい、食事中に」

父が目尻のしわを深くさせながら喉から言葉を押し出した。











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