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HimmelーH  作者: ひゅん
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プロローグ

よくベタな小説に2人の男女が階段から落ちて人格が入れ替わってしまうというストーリーがあります。

もし、本当に2人の魂が入れ替わったとしたらどうでしょう?

人間の脳には記憶データが、DNAにはその人物の形成情報が詰まっています。

たとえ魂が入れ替わったとしても、瞬時に脳からデータを魂がロードし、その器たる身体の形成情報を認識したとすれば、彼等は果たして入れ替わったことに気付くのでしょうか?

魂とはいったい何なのか?

といった問いかけに回答はあるのでしょうか?

私にも分かりませんが、この物語はある仮説を信じた人々とその仮説を現象として捉える人たちのお話です。

病室のベットで寝ていると気づくのに早苗はそうかからなかった。

ここは何処だろう?

とか、何故こんなところで寝ているんだろう?

など、疑問もわかなかった。

目を覚ました瞬間、最新の記憶が自動車事故だったし、病院に運ばれる事も想像ができた。

ただ、まる一年が過ぎていることだけは彼女の想像を超えていた。

だから、彼女のベットの傍らに男性の遺体があったことに意識を集中することができた。


F大に入学し、大学生活にも慣れ始めた頃、早苗は友人たちとドライブに出掛けた。

高校からの友人2人と同じサークルのメンバー1人で夏休みの初日に門司まで行く予定だった。

サークルメンバーの吉井は一つ年上で同じ高校出身だったが浪人したせいで早苗とは同学年だった。

今回ドライブに誘った高校の友人である新宅と木村も進学した大学は違えど、吉井とは吹奏楽部の先輩と後輩の間柄だった。

吉井は車を博多駅のロータリーで停車させ早苗との約束の時間まで待つことにした。

胸ポケットから煙草の箱をつまみ上げ、一本取り出しそこで手を止めた。

昨日この日のために取り付けたカーフレッシュナー(芳香剤)が目に留まったからだ。

吉井は煙草のフィールター部分を下にし、パワーウインドゥのスイッチパネルに軽くトントン打ち付けた後しばらくして箱に戻した。

神経質になった彼の表情は地下鉄の出口から現れた早苗の姿を発見すると嘘のよう消えていた。


早苗と合流し、2人の乗った車は香椎へと向かった。

香椎駅で新宅と木村を拾う予定だ。

車内での2人の会話は必然的に高校時代の彼女たちに纏わるエピソードになった。

「新宅はさぁ、リズム感が致命的でさぁ…俺がタンバリンでシゴいてやったんだよ」

「なぜタンバリン…」

「だって清水部長が、リズムの基礎はこれだぁ!って新宅に渡したから教育係の俺までタンバリン買わされて」

「清水先輩って学校の近くにあった清水音楽堂の…」

「そう!あいつ実家の楽器屋で売れ残ったタンバリン買わせたかっただけだろっ‼」

「あはははっ」


香椎駅の改札口付近に二人の女性が会話をするでもなく携帯端末を弄っていた。

新宅 由佳理はボートネックのワンピースで腰にブラウスを巻いている。

彼女の隣で落ちものゲームで何気に高得点を叩き出していた木村 まりえは、スキニーパンツにショート丈のカットソーを着ていた。

突然、由佳理が移動を始めると慌ててまりえも後を追った。

早苗が車から出るところに由佳理が駆けつけて大袈裟に抱きついた。

「さーなぁ‼おぉえぇ香りじゃのぉ~おぬしシャンプーに花を入れとるな!いや、そうかっ‼香りのついた洗剤を風呂に入れたじゃろ!えぇのぉえぇのぉ…スリスリ」

「入れてませんっ!」

早苗は密着して離れない10年放置したセロハンテープを剥がす如く由佳理の身体を自分から引き剥がした。

「お久しぶりです、吉井先輩」

「やぁ木村さん少し雰囲気変わったね?新宅さんは相変わらずだけど…」

まりえは助手席に乗り込み、早苗は由佳理に後部座席に押し込まれた。


車は古賀ICから九州自動車道にはいり門司港までは40分程の道のりだ。

車内では由佳理が昨夜見たドラマの話をしていた。

「監督がダメなんよ、ありがちな脚本を盛り上げようっちゅう意思がない‼」

持ち込んだペットボトルのお茶をメガホンのようにポンポン膝に打ち付けて由佳理は話を続ける。

「今どき階段から落ちて人格入れ代わっただけで喜ぶやついるかね?まりえ部長」

なぜ役職がついたのかを突っ込もうか迷ったまりえだが、愛想笑いを浮かべる吉井の横顔をちらりと見て止めることにした。

「喜ぶかは別として、身体が入れ代わっても気がつかないと思う」

まりえは膝の上に乗せたポテトフライを吉井の口許にやると、吉井はそれを美味しそうに食べた。

なんとなく怖がりながら馬に餌を与えている様で可笑しかった。

「なぜに…」

後部座席からにょきっと由佳理が顔を覗かせた。

「記憶データは脳に蓄積されてるし、仮に魂が存在したとしても記憶、人格は当人のままで魂はそれをダウンロードするだけだから…」

言いながら由佳理の口にポテトを突っ込む。

「そっか記憶を持ったまま身体を入れ代えるには脳も入れかえなきゃいけないってことね?」

吉井の後で早苗が呟いた。

「うへっ、可愛い顔してとんだスプラッタ野郎だわさなは」

「そもそも魂が存在するという仮定が間違えの可能性もある」

実際、まりえは魂などと不確かな存在を信じてはいなかった。


高速道路の脇にあった電工掲示板にはトンネルで事故があった事を告げていた。

どうやら3キロ先で渋滞しているらしい。

「この前テレビでさぁ魂についての特集やってたよ」

不意に吉井が口を開いた。

「どっかの天文学者がさぁ、ほら星とか惑星とかに含まれる元素を測る機械ってのがあって、面白半分で人体を測ってみたらしいんだけど…、なぜか全部足し合わせても100%にならないっていってたよ」

「わわっ、魂の元素記号あったらいやだわぁ~早苗君はTM1が35足りません、とか言われるんだわきっと」

「え?何で私?35足りないとどうなるの?」

「はははははっ」

爆笑する吉井。

「吉井さん何が可笑しいの?」

その時、車がトンネルの入り口に差し掛かった瞬間

「危ない‼」

まりえの声が終わらない間に吉井はブレーキペダルを渾身の力で押し込んだ。

車体は若干前のめりになり前方の車の5センチ前で停車し、車内で全員安堵した刹那。

早苗は壮絶な衝撃と音を体感した。

さっきまで由佳理がいたはずのシートが無く、巨大なタイヤの一部が見えた気がしたが、彼女の意識はなくなり、痛みを味わう事もできなかった。


死亡者 3名

重軽傷者 8名

意識不明者 1名








次回から現在進行形で物語が進む予定です。

まず、1章とか1話とかではなく「H」水素の原子番号順になってます。

次回は「He」という感じで…周期表はWebで参照ください。


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