ミミ
「ユミコ!私たち、ずっと友達だよね!」
友達のミミに、嬉しそうにそう言われ、私はコクンとうなずいた。
そう、私とミミは友達。
「生まれる前から友達だったんだよ~」
と、夢見がちなことを言われた時はさすがに苦笑しちゃったけど。
もしも本当にそうだったのなら、すごい運命を感じる。
私とミミが、幼い頃からずっと一緒だったのは確かなのだから、きっとこれからも何があってもずっと一緒なんだ。
世界で1番の友達であるミミ。
私と友達になってくれて、私と出会ってくれて、本当にありがとう!
「ねぇ、ミミってさ、何を言っても無視するよねー?」
「うん。信じられなーい」
午前の学校の授業を受け終わり、今は昼休み。
ご飯を食べようと口を開けると、教室のどこかからミミの悪口が聴こえた。
大切な友達の悪口を言われ、私はカッと頭に血がのぼる。
「……ううん、いいの。いいからね、ユミコ」
ミミの悪口を言う女子生徒に、何かしら言ってやろうとすると、私の隣にいたミミはそれを引き止めた。
どうして?と聞くと、ミミは微笑む。
「周りの人のことなんて放っておけばいいのよ!私はユミコがいてくれるのならそれで十分」
やりきれない気持ちもあったけれど、ミミにそう言われ、私は何も言葉を返すことが出来なかった。
それからというもの、女子生徒は暇さえあればミミの悪口を言う。
ミミが近くにいても、ミミの側に私がいて、女子生徒をジッと睨んでいても、女子生徒は気にせずにミミの悪口を言う。
一種のイジメだ。
でも、ミミに何もしないでと言われた以上、私には何も出来ない。
女子生徒を睨み、黙って耐えることしか出来ない。
大切な友達なのに、私はミミのために何も出来ないのだ。
そんなある日、ミミは物言わぬ人形になってしまった。
ピクリとも動かない、一言も話さない……そんな、人形に。
……死んでしまったんだ。
死んでしまったんだ、ミミは。
ずっと一緒だったミミは、私の前から、私の側から、いなくなってしまったんだ……。
許さない。
そりゃ、私だってミミのために何も出来なかったけれど。
「許さない」だなんて言う権利、私にはないのかもしれないけれど。
1つの命を奪った女子生徒の方が、私の何倍もひどい。
――だから私は、ミミの命を奪った女子生徒に、今から罰をあたえようと思います。
「なーに?ユミコ。こんなところに私達を呼び出して」
「……」
「あははっ!何も言えないよねぇ。だってアンタ、“もう”人間じゃないんだから」
「う……ぐぅ……」
女子生徒の1人にそう言われ、私のクチからは変な言葉が漏れた。
「アタシ、未だに信じられないんだよねぇ。
アンタ、交通事故に遭ったじゃん?
身体がバラバラになったじゃん?
『その身体の一部一部に生命が宿ったから仲良くしてやってほしい』
って、ハゲ教師から言われた時、『ハァッ?!』ってなったんだから。
きもちわりぃんだよ、お前。
お前も、鼻も、口も。
当然、耳も。
きもちわりぃんだよ」
「ユミコ。アンタ自身がさ、死んでくんね?」
その瞬間、プツンッと、頭の中にある何かが切れたような音がした。
交通事故により、バラバラになってしまった私の身体は、特殊な液体が入った水槽の中で生きてきた。
授業を受ける時は、教室の後ろに私が浸かった水槽をおいて、みんなと同じように勉強をする。
そして、生まれる前からずっと一緒だった口や鼻、耳。
事故に遭って身体の1つ1つのパーツに生命が宿った時、ビックリはしたけれど、お話ができて……友達ができて、私は嬉しかったんだ。
そんな友達を、あなたは殺した。
耳を精神的に追い詰めて、刃物より鋭い言葉のナイフで殺したんだ。
「ちょっ……ユミコ。アンタ、水槽からでて大丈夫なわ……け……ぐぇっ……うぇぇぇ……」
怒りに身を任せ、水槽からでた私は、一直線に彼女らのもとへ行こうとズルズルとはいずり寄る。
水槽から出た私の身体は、ドロドロになって溶けていく。
そんな私を見て、(気持ち悪い)とでも思ったのか、彼女らはその場で嘔吐する。
彼女らが顔を蒼白させていることなんて気にもしないまま、私は彼女らのもとへとはいずり寄った。
「くんな!くんなって……!いやぁ……っ!」
「私、知っていた」
水槽の中の口が言う。
「耳、泣いていた。『もう嫌だ』って泣いていた。だから……」
私の手が、彼女らのうちの1人の首に触れた。
「私も、あなたが『嫌だ』って言っても、やめないことにするね」
水槽の中の口はニヤリと笑う。
私の手は、彼女の首を掴み、ギリギリと音をたてていく。
苦しそうな声を出す彼女だけれど、私はやめない。
だってあなたもやめなかったものね?
耳の心の声、分かっていたのに無視をして、ずっとイジメ続けていたのでしょう?
だから私も、あなたが「やめて」、「もう嫌だ」って言っても、やめないことにするね。
「ね?私の頭」
END.