第6話:オリジナル魔術を作りましょう
三人称で頑張ってましたが書きづらく限界を感じたので、今回からアルトレッドの一人称で進行します。
朝は元々の3人にナナイを加えた4人で遊んだり模擬戦をしたり、昼は公爵家で剣術の訓練を受け、夕食後はルセットの部屋で魔術の練習をする。そんな日々が始まってから1週間ほどの時間が過ぎた。
「なあ、ルセット。ここ最近ちょっと考えてたんだけどさ……武器を作り出す魔術みたいなのはないのか?」
夕食後の魔術の練習中に、思いついたことをルセットに訊ねてみた。
「一応あるけれど、デメリットが多いから使う人はいないわね」
ルセットの解説によると、大気中の魔気を使って物体を生成する魔術は存在するらしい。しかし、それを維持するために体内の魔力を少量だが継続的に消費し続けるのに加え、物体を生成している間は魔術回路を1つ占有してしまう。一般的な騎士は魔術回路を1つ、多くても2つしか持っていないため、それならば魔術回路は炎弾などの放出系の魔術に使って武器を携帯したほうがよほど有利に立ち回れる、ということだ。
「何故急にそんなことを?」
「いやぁ、異世界転生といえばやっぱりオリジナル能力持ち、ってのが多いんだよ。だから俺もそういうの出来ないかなーと思ってさ」
チートは好きではないが、オリジナル能力というのは格好いいし──男子の夢なのだ。
「なるほどね。だったら……ヒントになるかは分からないけれど、2つの魔力について教えてあげるわ」
魔力には2種類ある。1つは自分の体内にある自前の魔力で、もう1つは大気中にある魔気だ。魔術発現のプロセスは、まず魔術を発動させたい場所に体内の魔力を集中させて大気中の魔気に働きかけ、魔気を変質させることで魔術が発動する。
「内なる魔力を使って外部の魔気を操る。これが魔術の基本よ」
「なるほど……。ふと思ったんだけど、魔気を変質させて自分の魔力を……魔術回路を体外まで伸ばす事はできないのかな?」
自分から離れた位置に魔術を発現させられるなら、戦術の幅はかなり広がるだろう。回路を敵の背後まで伸ばしてそこから魔術で不意打ちとか……卑怯な気もするけど。
「誰も考えたことがないから、分からないわね。試してみる価値はあるんじゃないかしら?」
「……よし、ちょっと試してみるか」
やり方なんて全くわからないので、とりあえず人差し指を立てて指先に魔力を集中し、指先から線が伸びるようにイメージをしてみた。
<灯火>
その状態で明かりを灯す魔術を発動させてみると──いつも通り指先に魔術が発動した。
「……そう簡単にはいかないか」
「こればかりは未知の領域だから……その方法が合っているのか、そもそもそれが可能なのかすら分からないわ」
「じゃあ、部屋にいる時にでもいろいろ試してみるよ。ありがとうな」
ルセットにお礼を言うと、女神は微笑みで返した。
「貴方なら、完成させられると信じているわ」
「おう、お姫様の期待を裏切らないように頑張るよ」
淡い金の髪を軽くなでてやると、ルセットは目を細めて薄っすらと頬を染めた。
好きな女に期待されてるんだから、なんとしても完成させないといけないな。
あれから一週間、ずっとオリジナル魔術──魔術回路の体外拡張を試しているが、一向にできる気配がない。指先から線を伸ばす、というイメージ自体が間違っているんだろうか?
「回路の拡張なんて不可能なのかねぇ……」
今まで誰もやらなかったんじゃなく、やろうとして出来なかった?
「いや、ルセットは『誰も考えたことがない』って言ってたよな。だったらまだ諦めるのは早い」
土の刺を隆起させる初級の魔術『グレイブ』は、地面を伝って離れた所に出すことができるんだから──
「そうだ……もしかして」
グレイブを使う時は、自分の魔力を伸ばすんじゃない、『地面と同化する』イメージだ。ならば『空気と同化する』ようにイメージしてやれば……。
指先ではなく手のひらで空気を『掴む』ように意識し、そこから自分と空気が同化するようなイメージ。
<灯火>
その状態で光球を発生させる魔術を使うと、それは俺の手から10cmほど前方の空中に発生した。
「できた……できたぞ!」
まだたったの10cmだが、鍛えればかなり強い魔術になるかもしれない。
まさか初級の魔術がヒントになるとは。
「むしろ、今までなんで気づかなかったんだ……」
「……やっと気づいた?」
「うわっ!」
横合いから突然声をかけられて、俺は反射的に体をのけぞらせた。
「アルト……気づいてなかった?」
その声の主は、ナナイだった。
「ナナイ、いつの間に来てたんだ?」
「むぅ……何度もノックしたのに、全然気づいてなかったから……来ちゃった」
来ちゃったって……ちょっと可愛いじゃないか。
「ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ」
「……ライトの魔術を使いながら?」
手から離れた位置に出していたとは言え10cmだけだったし、その事には気づかなかったらしい。別に隠すような事でもないけど……まだ完成したわけじゃないし、話さないほうがいいか。得意気に話しておいて、結局使い物になりませんでした……って事になったら赤っ恥だし。
「まあちょっとな。それより、何か用か?」
「……朝ごはんの時間。みんな、お腹空かせて待ってる」
そう言うと同時に、ナナイのお腹が可愛らしく空腹を主張した。その事に顔を赤くするナナイ。聞かなかったことにしておいてあげよう。
「もうそんな時間か……すぐに行くよ。呼びに来てくれてありがとうな」
「……ん」
ナナイははにかんだように微笑むと、パタパタと小走りで食堂に向かった。あまりみんなを待たせすぎるのも悪いし、俺もすぐに向かうとしよう。