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添い寝のために頑張る!  作者: 俺がスロウリィ!?
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プロローグ:All I need is SO・I・NE.

初めまして。小説を書くのは初めてなのでお見苦しい点があるかもしれませんが、よろしくお願いします。

「貴方、この世界に不満はないかしら?」


 草木も眠る丑三つ時。オンラインゲーム(ネトゲ)の小休止にコンビニで夜食を買って帰る途中の男性──相田行人(あいだゆきひと)は正面から聞こえた突然の声に顔を上げた。明かり一つ無い真っ暗な路地裏で向かい合う、女性と行人。淡い金色の長髪に白いワンピースのようなドレスを着た彼女は、行人より少し低い位置にある丸い瞳で彼の顔を見上げている。

 新興宗教の勧誘か、はたまた新手の詐欺か。行人は思案したが、そのような人たちが活動する時間帯でもないだろう。彼は別の可能性を考えた。


「まだ若いのに……可哀想に」


 精神的にこの世界とお別れした人なのだろう。可愛らしいとも美しいとも形容できそうな女性の顔立ちからは、正確な年齢は推察できそうにない。行人は少し迷ったが、彼女が学生であると判断して先を続けた。


「親御さんに心配をかけちゃいけないから、早くお家に帰りなさい」

「ご忠告はありがたいけれど、私は精神異常者でも不良少女でもないわ」


 女性は苦笑しながら続ける。


「私は『ルセッティオ』。貴方をこことは別の世界に招待しに来た──女神よ」


 それを聞いて、行人はこめかみを押さえながら唸り始めた。


「ネトゲのしすぎかな? 疲れてるみたいだ。早く帰って寝ないと」


 ゲームのしすぎで現実と虚構の区別がつかなくなる人もいるとは聞いたが、まさか自分自身がそうなるとは思ってもみなかった。少し遠回りになるがコンビニまで戻って大通りを通って帰ろう。そう思って行人が(きびす)を返した先には──数瞬前と変わらずたたずんでいる女性の姿があった。もう一度振り返ってみも、女性の姿が視界から消えることはなかった。それどころか、路地裏にいたはずの彼らの姿はいつの間にか何もない真っ白な空間の中にあったのだ。


「ここは『女神(わたし)の空間』。ただの精神異常者に、こんなことは可能かしら?」


 女神──ルセッティオと名乗った女性は、そう言ってクスクスと笑った。


「戸惑うのも無理は無いわ。でも、これは現実よ。受け入れられないなら──夢の中だと思えば、少しは楽かもね?」

「そうか、夢の中か。だったら何も問題はないな」


 行人は彼女の出した助け舟に乗ることにした。思考を放棄したとも言う。


「その女神様が、俺に何の用だ?」

「貴方を、異世界に招待しにきたのよ」

「……どうして俺なんだ?」


 彼に、女神に見初められるようなことをした覚えはなかった。何らかの地位を築いているわけでも、特殊な才能があるわけでもない自分が選ばれたことに、行人は疑問を呈する。


「人間には見ることができないけれど、全ての生物には魂があり、そして魂には色がある。貴方の魂の色が……あまりにも私とそっくりなものだから、興味が湧いたのよ」

「魂の色、ねぇ」


 まさしく中二病。だが彼はそういった展開が嫌いではなかった。


「改めて訊くわ。こことは違う世界に、転生してみたくはないかしら?」

「異世界転生か……。どこかで読んだファンタジー小説(ライトノベル)みたいな話だな」


 中世ヨーロッパのような異世界に召喚されて、反則能力(チート)を使ってハーレムを築く。最近ではありふれた筋書きだ。


「確かに舞台は中世ヨーロッパに似た場所だけれど……残念ながら、物語のような絶対無敵の力はあげられないわね。その世界の人達と同じように生き、同じように努力する。欲しいものは、自分で勝ち取らなければならない」

「……面白そうじゃないか」


 既に良い年齢の彼だが、まだまだ少年の心を失ってはいない。剣と魔法のファンタジー世界に憧れる気持ちは強くあった。チートがあまり好きではない行人は、その世界観にも好印象を受けた。


「その世界では、貴方は何者にでもなることができるわ。

 ただの村人として平凡に過ごすも良し。騎士となって王に仕えるも良し。世界を脅威から救い出し英雄となるも良し。

 ──貴方の努力と、才能の届く限り」


 行人は少し考え、疑問を口にした。


「そこでは、一夫多妻(ハーレム)は可能なのか?」

「法的にも倫理的にも認められているわ。ただし、連れ添う女性全てを等しく愛し、満足させられなければならない。金銭的にも、精神的にもね」


 そして、女神は問うた。


「さあ、貴方はそこで何を望むのかしら?」


 彼には切望する物がある。しかしそれを言って良いものか……行人は一瞬躊躇したが、どうせ夢の中だと開き直った。


「俺は……可愛い女の子たちと、添い寝がしたいッ!!」


 相田行人30歳、妻子なし。

 彼はぬくもりに飢えていた──。






 次に行人(ゆきひと)の意識が目覚めた時、彼の周囲には大きな田畑が広がっていた。田には巨大な稲穂が頭を垂れ、畑には青々としたキャベツが日光を受けて輝いている。はて、稲やキャベツとはこんなにも巨大なものだったかと思案し、下を向いて自分の体を確認した所で行人は疑問の答えを得た。

 彼の体は、4歳の幼子の姿になっていた。体が小さいために周囲の物が大きく感じたのだ。そして右手には細い木の枝。真正面には──


「たあぁーっ!」


 バシィッ!

 額を強かに打ち据えられ、行人は痛みにうずくまった。


「おーいアルトー! きゅうにとまるなよー!」


 今まで意識はなかったはずなのに、自分が今置かれている環境を行人ははっきりと認識していた。これが『物心がつく』というものなのだろうかと彼は自問するが、前世の記憶にもそれに関する物はなかった。

 新たに生まれ直した彼の名は『アルトレッド』。姓は一定以上の身分になった者が王より授かる物であるため、彼が持っているのは名前(ファーストネーム)だけだ。うずくまったままのアルトレッドは深い赤色の短髪の下から正面に立つ幼なじみの少年を見上げた。


「ごめんごめん、ちょっとぼーっとしちゃった」

「よーし、もう一回だ!」


 そう言って幼なじみの少年はアルトレッドから少しだけ距離を取り、彼と同じような木の枝を手に構えた。少年の名前は『ノクタール』。今、アルトレッドとノクタールは騎士ごっこ──日本で言う所のチャンバラごっこをしている最中だった。剣と盾を持って王や民衆を守る騎士という職業は、男児たちの憧れの的なのだ。


「アルト、いくぞー!」

「まけないぞ、ノクティー!」


 そうして二人は、日が暮れてアルトレッドの父親が呼びに来るまで小枝を打ち合った。

 30歳の精神を持つ行人は4歳児の遊びに退屈を覚えないか心配だったが、前世の記憶を持ちつつも精神年齢は現在の肉体にも順応しているらしく、心配は杞憂に終わった。






「おかえりなさい、ふたりとも」


 騎士ごっこを終えて村に戻ると、アルトレッド達と同じ4歳の少女が二人を出迎えた。ノクタールと同じくアルトレッドの幼なじみである少女の名前は『ルセッティオ』。淡い金髪を腰まで伸ばしており、くりっとした丸い目をしたその少女は──女神をそのまま幼くしたような姿だった。


「『ルセッティオ』」

「何かしら? 『アルトレッド』」


 アルトレッドの呼びかけで少女は察したようだ。


「パパ、ちょっとルセットとおはなししてきていい?」

「もうすぐ夕飯だから、すぐ戻ってくるんだぞ?」

「はーい」


 父親に許可を得て、アルトレッドはルセッティオと共に村の中央へ続く道から少し逸れた所にある広場へと進路を変えた。周囲に人がいないことを確認して二人は向かい合う。


「記憶が戻ったようね?」

「あぁ、タイミングが悪くてノクティに頭をぶっ叩かれるハメになったけどな」


 行人は額を軽くさすりながら肩をすくめた。彼が日本にいた時は『肩をすくめる』という動作をする習慣など全くなかったが、この世界に生まれてから記憶が戻るまでの間に学んだ習慣や仕草もしっかりと身についているようだ。


「それにしても……本当に転生できるとはなぁ」


 感慨深い様子で行人は自分の体や手足、そして周囲の景色を見回した。ファンタジー世界ではよくある、緑に囲まれた牧歌的な農村だ。夢でも幻覚でもなく、今まさに行人は『異世界』の大地に立っている。


「しかし女神さんはなんで前と同じ名前なんだ? 外見も、元のからそのまま小さくなっただけみたいだし。というか、なんで俺と一緒にここにいるんだ?」

「名前と外見については……女神の力で、チョチョイっとね? 最初に言っておくけど女神の力はこっちの体には持ってきていないからアテにしないようにね」


 今行人の目の前にいるのは女神の『分身』だが、特別な力を持たないただの人間の体だと女神は説明した。そして天界にいる女神の『本体』と、ここにいる『分身』は意識を共有している。


「なんというか……女神の力って、すげー」

「ふふふ、人間の体っていうのも悪くないものね。自分の思い通りにならない所が新鮮だわ」


 鈴を鳴らしたような澄んだ声で女神は笑った。人間としてこの世界に立つのは彼女にとっても初めてのようだ。


「どうしてここにいるのか、に対する答えは……面白そうだったからよ。

 天界からでもこの世界の様子は見られるけれど、遠くから眺めるだけでは味気ないじゃない?

 人間同士のふれあいというのも体験したことがなかったし、私と同じ『魂の色』をした貴方がどんな事を成し遂げてくれるのか、興味も尽きないわ」


 深い蒼の瞳を行人に向け、女神はもう一度鈴を鳴らした。


「ご期待に添えられるかは分からないけど、添い寝ハーレムのために精一杯頑張るとするよ」

「そういえばそんな目的だったわね。セックスではなく添い寝が良いの?」


 女神の口から『セックス』という言葉が出たことに行人はドキリとしたが、女神自身は何も気にしていないようだ。やはり人間とは感性が違うのだろうか、と行人は嘆息した。


「そりゃあそっちもしたいけど、添い寝ができればそっちはナシでも良い。俺はぬくもりが欲しいんだよ、安らぎとか癒やしとかそういうのが」

「動機はよく分からないけれど、やる気があるのは良い事だわ。

 さ、あまり長話をしていると怒られてしまうわね。そろそろ家に戻りましょう」


 行人は女神の言葉に同意し、二人はそれぞれの家族が待つ家へと再び歩き始めた。






 ファンタジー世界と言えば魔法が付き物だが、この世界──『セレストリア』にも『魔術』という名前でそれは存在している。より厳密に言うならば、『魔法』というのは魔力に関わる全ての『法則』に対する呼称であり、『魔術』というのはその法則に従って魔力を操るという『行為』の事である。

 この世界の人間には魔力を生成する器官が『ある』。全ての生物がその器官と『魔術回路』を持っており、魔術を一つ使用するためには魔術回路を必ず一つ以上使用しなければならない。『魔術回路』とは筋肉のような物である。体を動かすのに筋肉を使うように、魔力を操るのには魔術回路を使うのだ。

 ほとんどの人間は生まれながらにして魔術回路を一つだけ持っている。農村に住む人々や魔術をあまり使わない騎士などはそのまま回路が増えることはないが、この回路は訓練によって増やすことが可能だ。とは言え容易に増やせる物ではなく、一般的な魔術師で2つから3つ、王城に仕えるような魔術師でも4つがせいぜいと言った所だ。5つ使えれば天才と呼ばれ、6つ以上使える者は未だ現れていない。


「──と、これがこの世界での魔法・魔術に関する法則(ルール)よ。ここまでは良いかしら?」


 翌日の朝食後、ルセッティオの部屋で行人は女神の魔術講義を受けていた。彼の最終目的は添い寝ハーレムだが、複数の女性を(めと)るにはそれ相応の地位と力がなくてはならない。そのための下準備は早ければ早いほど良いのだ。


「オーケー。『魔』に関する『法』が『魔法』で、『魔』を操る『(すべ)』が『魔術』ってことだな。そして訓練すれば魔術回路を増やす事ができる」

「その通りよ。魔術回路を増やす方法はまだ完全には解明されていないけれど、一般的には『限界まで魔術を使用すること』だと言われているわ」


 4歳児の女神は満足そうに頷いて補足した。


「でもそれだと……がむしゃらに魔術を使い続ければいくらでも回路が増えるってことにならないか?」

「そうね。でも現実には5つすらも難しいと言われているから、他にも何かしらの条件があるのでしょうけれど……今のところその条件は不明ね」


 4歳児のアルトレッドに転生した行人はしばらくの間うんうんと唸りながら思考を巡らせたが、やがて諦めたのかルセッティオの方へと視線を戻した。


「今俺たちは4歳児な訳だが……今からでもできる訓練はあるか?」

「そうね……。この体では基礎魔力もまだまだ少ないし、魔術を使うことはできないわ。指先に魔力を集中すれば火種を作ることができるぐらいかしら?」


 女神は人差し指をピンと立て、指先に小さな炎を灯して見せた。それに倣って行人も指先を立てて集中してみるが──しばらく待っても何の現象も起こらなかった。


「むう……上手くいかないな」


 行人が残念そうに唸る。


「こればかりは仕方ないわ。本来ならこの程度の魔力操作ができるようになるのも6歳ぐらいなのよ? 私が炎を出すことができたのも、単にこの体に魔術の才能があるからだと思うわ」

「指先に何か力が集まってるような感覚はあるから、単純に基礎魔力量が足りないのが問題か……」

「炎が出せないとは言え魔力を集中させる事自体が訓練になるし、基礎魔力の底上げにもつながるから毎日続けると良いわ」

「分かった」


 ここでめげていても仕方がない。この先は長く、行人の第二の人生はまだまだ始まったばかりなのだ。

 理想の『添い寝ハーレム』を心に思い描き、行人は気合を入れなおすのだった。

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