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 「クエイク来る! リリさん今だ! よしあとちょっと! みんな行くよー!」


 ヘッドセットのマイクへと叫ぶ彼女の瞳は、ひたと目前の液晶ディスプレイに向けられている。

 サイズは24型、最高の対応リフレッシュレートを持つゲーム専用のそれには、猛り狂うアースドラゴンの強大な姿と、それに立ち向かう5人の仲間たちが映し出されていた。

 アースドラゴンから放たれたグレートクエイクは、バトルフィールドのほぼ全体を範囲とするふざけた全体攻撃だ。可能な限りHPを上げ、土系防御に特化した装備を固めても、まず全員が瀕死状態になる。

 そして、仲間の一人でも死んでしまえば、 そこからすべてが崩れてしまう。

 クエイク時の回復のタイミングに自信がない、と言っていた僧役のリリらんらんに、すばやく指示を飛ばした彼女は、押し寄せる土の波を飛び越える。これで、ダメージは受けても二十秒の行動不能は避けることができる。

 一気に削られるHPに、アバターの動きが瀕死状態のそれになるが、間髪を入れず、きらきらのエフェクトとともに回復魔術が降ってきた。


「リリさんありー!」


 感謝を込めて声をかけるが、リリらんらんは波を避け損ねたらしく、後方でひっくり返っていた。

 目の端で今回の相棒である社畜三十二号の無事を確認してから、彼女はコントローラをカカカと操りコマンドを選択する。


「ディープミスト!」


 声とともに、濃く重い霧がアースドラゴンの周囲に立ち込める。

 水系魔法のディープミストは、本来対象の動きと視界を阻害するもので、特にダメージを与えるものではない。それ単体ならば。

 だが。


『トルネード!』


 すかさず社畜三十二号の風魔法が加わる。少し待った分、ターンによるずれもなくぴったりのタイミングだ。

 現れた大竜巻が激しく霧を掻き回す。

 パチパチッとフラッシュのような光が竜巻の周囲を走り、それを皮切りに、バリバリと空を引き裂いて、幾条もの光が蛇のように絡まり合いながらアースドラゴンへと突き刺さる。

 

「やた! サンダートルネード成功ー!!」


 数秒の間、稲妻の竜巻という、現実にはありえない現象がアースドラゴンを蹂躙した。

 既に残り5分の1を切っていた難敵のHPバーが、見る見るうちに減ってゆく。ついにゼロになり、アースドラゴンが断末魔を上げながら、その巨体をゆっくりと倒してゆく。それを背景に、華やかなファンファーレが鳴り響いた。


《アースドラゴン撃破! おめでとうございます! あなた方は全ヴァーランドにおける、初のアースドラゴン撃破パーティです!》


「いやたーー!!!」

『ふぉおおおおおおおおおおおお!』

『勝った! 勝ったよおぉぉぉーーーー!』

『長かったー!』

『ちょーうれしー! みんなありがと! まじありがと!』


 画面にはメインストーリーのムービーが流れているが、ヘッドセットのスピーカーからは、パーティメンバーの喜びの声が聞こえてくる。

 仲間との一体感と、込み上げる達成感に、彼女は満足のため息をついた。

 今回は本当に特別だ。ワールド内初撃破はさすがの彼女も始めての事である。

 彼女はさらに喜びを分かち合おうと、ギルド内へとテキストチャットを送る。


〈アースドラゴン撃破ー!!! ワールド初! やったあぁぁぁあぁぁぁ!〉


〈まじで?〉

〈しゅげええええええ!〉

〈おめーーーーーーー!!〉

〈超おめ!〉


 開いたギルドのタブが、瞬く間に祝いのレスポンスで埋まってゆく。


〈初撃破アイテムもらった?〉

〈まだw ムービー長そう~〉

〈まあメインの最新ボスだしねー〉

〈サンダートルネード効いた?〉

〈効いた効いた! でもミストにトルネドかけるタイミングで効果が違うね、ずれるとパチパチだけで終って泣いたwww〉

〈マジか〉

〈じゃあ一人で合成は無理か〉

〈でも今これ出来るの、たぶんレナちんだけだよねー〉

〈トルネドはともかく、ミスト系錬度MAXまで持ってく変態はレナちんくらいwww〉

〈うっせーうっせー! 勝ったからいいんだよ!〉


 彼女のワールド内の名前はレナリナラーメンという。キャラメイクの時に感性と語呂だけで決めた。ギルドやフレンド内では、もっぱらレナちんと呼ばれている。

 真白の髪に褐色の肌、とがった耳と小柄な体、真紅の瞳のダークエルフが彼女のアバターだ。


〈まさに今、ザコ相手にミスト打ちまくってる俺w おとといから頑張ってるのに未だに錬度6ー〉

〈錬度はねえ、ある意味レベらげより厳しいからね〉

〈効果的な相手にやったほうがいいってよ〉

〈状態異常系は攻撃と違って判定どころが分からん〉

〈ふふふふーん、何なら手伝うからいつでも言ってねー、って、ムービーおわた〉


 画面が元のフィールドに戻ると、パーティメンバー達が、ぴょんぴょん飛び回ったり、ポーズをとったり、踊ったりと、思い思いの方法で喜びを表現していた。

 もちろん、彼女自身もその中の一人だ。

 そんな彼らの前に、虹色の光の渦が湧き上がり、金色の宝箱を落として消えた。


『報酬キターーーーー!』


 喜色に満ちた声を上げ、駆け寄る彼女と仲間たち。

 パーティ内はボイスチャットなので、感情が伝わりやすい。宝箱を前にした彼女の声も分かりやすく上ずっている。


「ここここの中に噂の初討伐報酬が――!」

『もちつけ』

『無理無理ああああくぁwせdrftgyふじこ』

『音声でふじこ言う人初めて見たよ』

『ある意味器用』

『そんな事よりお宝ー!』

「よっしゃ、いい? 開けるよ? いい?」

『おk!』

『あけちゃってー!』

『いいよいいよ!』

『You開けちゃいなyo!』

「よし行くよー! 来い!」


 いつものお約束でちょっとだけためて、彼女はがちゃりと宝箱を開いた。 

 聞きなれた効果音とともに、報酬内容がテキスト表示される。


《アースドラゴン初撃破報酬:覇者の紋章・トパーズ》

《アースドラゴン撃破報酬:アメジストリング》

《ドロップ(レア):ダイヤのティアラ》

《称号:大地の守り手》


「――――…………」


 数瞬の沈黙が訪れる。


「――――やた」


 彼女の声を突破口に、彼らは爆発した。


『ひょおおおおおぉぉぉーーー!』

『やったー! まじやったー!!』

『レア来たコレ!』

『すっごおおおおおーーーい!』

「夢にまで見た覇者の紋章ーーー!」

『もうもうもーー! ふじこふじこでルパン! ルゥパァーーン!』

『その言い方3chで見たで』


 喜びのハレーションで、彼女と仲間たちは高揚は狂乱レベルに達した。装備全解除の素っ裸で踊る。3D白鳥パンツのネタ装備で踊る。とにかく踊る。

 高まりに高まった物欲が完遂されて、ぷっちーんとタガ切れした状態である。誰にも止められない。


(ああもう嬉しくて死にそう! って、死んじゃだめ私! まずはアイテムのスペックを確認するの! そんでもってギルドに自m……いや報告しなくちゃ!)


 コントローラーを操る指も震えがちに、彼女は装備ウィンドを開き、まずは”覇者の紋章”を選択した。さらに詳細を開いて、その素晴らしいであろう性能を堪能しようとした、その時。


ドンドンドン!


 ドアが叩かれた。





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