私の私による私の為の話
初投稿、処女作です。
生暖かい目で見てやって下さい。
目の前に並ぶ有象無象(ヒトの群)を一閃。バラバラに落ちる欠片はまるで殺虫剤を吹きかけた虫のようだ、なんて呑気に考えながら巨大な太刀を肩にかける。
一息吐いて自分を見下ろせば、丸太のように太い腕、分厚い胸板、女性の腰程はあるだろう筋肉質な太股、がたいのいい身体をどっしりと支える大きな足、肌の色は黒くそれらを覆う着物もまた黒い。
地面との距離は遠く「前の自分」とは正反対な現状に深い深い溜め息が漏れた。
「副隊長、こちらも終了しました」
「…帰るか」
部下の報告に短く返すとゆったりとした足取りで…歩幅が大きいのでそこそこの速度はあるのだが…戦場だった場所を後にした。
さて、「前の自分」と聞いて既に察しているとは思うが私には今の自分以外の記憶がある。
結婚こそしていなかったがどこにでも居る極普通の女だった。何が起きて今の世界に生まれ落ちたのかは知らないし、前を思い出したのは物心ついてから少しずつだった。
正直その辺をすっ飛ばされたのはありがたいと思う。
おかげで前の世界…地球の日本と呼ばれる場所とは違う景色や言葉を違和感なく受け入れられたし、性別も今回は男となっていたが当たり前だと思えるようにもなっていた。
が、どうしても受け入れられない事がある。
それは…
「キャー!シアン様素敵ぃ!黒光りする角が美しいわ!」
「あのぐりぐりの目で全てを見透かされたい!」
「少しまがった大きな鼻や分厚くて大きな口も格好いいわ!キスされたい!」
「芋虫のような指がセクシー!抱いてー!」
この世界の美的感覚おかしくない!?
この世界はいわゆる剣と魔法のファンタジー世界だ。
科学の代わりに魔法が使われ、魔物が居てそれを討伐して日々の糧を得る職業もある。
王政であり騎士団なんてものも存在している。ちなみに私は×××王国の騎士団第二分隊副隊長、なんて肩書きである。
自分が超脳筋な自覚があるので参謀的な役割もありそうな副隊長とか今もって解せないが…。
話がそれた。実はこの世界、亜人が主流であり人間は疎まれる種族となっている。おまけに美的感覚もおかしい。
私視点で美形揃いが醜いエルフ扱い!私視点でちょっと…な容姿のトロールやオークは超絶美形!ゴブリンはマスコット!逞しいオーガ(私の種族でもある)は正統派美形!
獣ヘッドの獣人達は普通に美形だそうな。そこは激しく同意する。
男女共にどころか世界共通の認識のようで、私視点で厳ついだけのブサイクな自分はモテモテである。
あまりよろしくない容姿の女性達に。
訓練時には男からもうっとりと見られている気がするが…まぁ、きっと腕力への憧れだ。素手で盾とかぶち抜けるし。そうに違いない。
それに隊長(オーク種)よりはマシだ。ファンに囲まれる様子はさながら百鬼夜行…、…あれで女性が苦手になった気がしなくもない。
私は激しく神に問いただしたい。
なぜ美的感覚を前世仕様にしやがったのかと!!
なお、ならこの世界のブサイクを相手にすればいいじゃん、と気がついたのは大分後になってからである。