43 そして、いまのこたろー
深い所から、ぼんやりと意識が浮上する。
薄く目を開けてゆっくりと閉じてから、もう一度めをあけた。
今度は、現状を把握して。
「夢、か」
ぼそりと呟いて、投げ出していた両手で顔を覆った。
思い出したくもない、最低男だった高三の自分の夢。
なんだってこんな時に……
そう考えて、顔から手を離す。
「こんな時だから、か」
大きく息を吐き出してから、後ろに手をついて起き上がった。
煙草を吸い終えてベッドに寝っころがった所までは覚えているが、その後いつのまにか寝てしまったらしい。
机に置いてある置時計は、深夜を少し過ぎた時刻を表示していた。
「えらい、リアルだった、な」
体中が言いようのない倦怠感に、鈍い悲鳴を上げている。
ベッドから足をおろし、着ていたTシャツを脱いで床に放った。
「さむ」
一つ身震いをして、ベッドに置いたままのスウェットに手を伸ばした。
冷たいそれを身に着けてから、ベランダへと出る窓を開けて顔を出す。
相変わらず、闇に沈んだ比奈の部屋。
吐きだした息が、白くなって闇に溶ける。
それをぼうっと見つめながらもう一度溜息をつくと、俺は部屋に戻った。
思い返してみても、本当に最悪な高三の俺だったな。
再体験をしたかのように、苦しい感情が心だけではなく体も支配している。
比奈を好きだという事を認めたくなくて、汚い自分から比奈を守りたくて足掻いていたあの頃。
本当はそんな俺を見せて、比奈に嫌われないかを恐れていたあの頃の俺。
カタセンに、言われた言葉を思い出す。
――この期に及んで、自分を守るっつー奴?
呆れの混じった、カタセンの言葉。
思い出して、じわりと指先から冷たくなっていく感覚。
「こえーよ」
自分でも最低だと思っている、あの時の自分。
それを比奈に曝け出して、嫌われるのが……すげぇ怖い。
「自分を守ってるって言われても……、仕方ねぇよな」
だって、マジで怖ぇんだから。
ぼすりと、ベッドに腰を下ろす。
そのまま膝に両肘を置いて、掌で顔を覆った。
「比奈……」
どうやったら、比奈に信じて貰えるんだろう……?
どうすれば、比奈の傍にずっといられるんだろう……?
高三から全く成長してない自分に、嫌気がさす。
それでも。それでも――
「比奈が、好きなんだよ……」
掠れてしまった声は、自分の耳にさえ届かない――




