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42 こたろーの高校三年生・10

放課後、茅乃を駅まで送ってその帰り道。

珍しくいつもなら通らない道を選んで、大型書店へと足を向けた。



なるべく、家に帰る時間を遅くしたかった。

比奈に会いたい気持ちと、口をきいて貰えない焦りが、内心の葛藤を引き起こす。

少し前に比べれば挨拶位は返してくれるようになったけれど、必要最低限のみ。

今までのように話す事を拒絶する比奈を避ける様に、俺の足は家とは別の場所へと向かった。




街の中心地である通りはちょうど帰宅時間という事もあって、うちの高校も含めて学生が結構歩いている。

そんな中を歩いていた俺の視界に、ふと、映った、二人の学生。



「……え?」



何かを話しかけている、男子学生。

その隣で笑みを浮かべながら、その言葉を聞いている、――比奈。




俺が中学生の時に着ていた学ラン姿の、見た事のない男。

その隣を歩く、セーラー服の比奈。




「……誰、だ?」




二車線道路を挟んで反対側の歩道を歩いていく二人を、立ち尽くしたまま目で追っていく。




あの男は、誰だ?

クラスメイト?

友達……?

いや、たまたま会っただけかもしれない……




「会っただけ……」




口にして、その可能性が低い事を感じ取る。

比奈の通う中学校から自宅や公立図書館のある方角は、今いる現在地の真逆に位置している。

何かの用事がなければ、この道をあえて通りはしないだろう。

何らかの理由のもと、あえて二人でこの場所にいる。



ならば。



「付き合っ……」



ぐぅっと喉をせり上がってくる何かに、思わず制服の上から胃を押さえた。

「う……」

何とか喉の奥で止めたそれは、感情を逆なでしていく。




どれだけ、自分が比奈への感情に振り回されてきたか。

気付いてしまった想いをなかったことにするために、自分がどれだけ馬鹿を晒してきたか。

なのにそんな俺には少しも気が付かないで、比奈は俺の知らない男と二人、楽しそうに目の前を歩き去っていく。




――じゃ、目の前で誰かと付き合うの、見てられるんだ




つい数日前、狩野に言われた言葉が脳裏を掠めた。

考えたくなくて、無意識に避けていた可能性。

それが、目の前で現実のものとなっている。



俺が、八方塞の想いに苛まれている間に――



八つ当たりだとわかっていても、止められない。



昂ぶった感情のまま二人のもとへ駈け出そうとした俺の目に、映ったのは。



「……あ」



柔らかい笑みを浮かべて、隣を歩く男の頭に指を伸ばす姿。

何かついていたのか指先でつまみ上げると、笑いながらそれを風に飛ばす。

そして一言二言、言葉を交わすと、再びどこかに向かって歩き去って行った。



……いやだ



足がアスファルトに縫いとめられたように、全く動かないまま。

じっとその二人の後姿を、俺は見続けていた。



――これが、自分の望んだ形だったんじゃないのか?



嫌だ、と叫ぶ自分を、理性が押し付ける。



――自分から遠ざけて、自分の気持ちを口にしないという事は、この状況を望んだって事だろ……?







奥歯を噛み締めて、比奈が消えた路地から目を逸らす。

両手をズボンのポケットに突っ込んで、行こうとしていた大型書店へと足を動かし始めた。



固いはずのアスファルトは、足を下ろす度にぐにゃりと感覚を伝えてくる。

ただ歩いているだけなのに、まっすぐ歩くことだけではなく一体自分がどこを歩いているのかさえ分からなくなってきた。





耳に響くのは、自分の鼓動。

雑音。

脳裏に浮かぶのは、他の男に笑いかけていた比奈の姿。

苛立ち。







しばらくして俺が顔を上げたのは、寂れた公園だった。

そこは幼い頃、比奈と遊びに来たことがある場所。


「……はは」

何も考えずに歩いて辿り着くのがこことか、どれだけ比奈が自分の中に住み着いているのかを実感させられる。

そのまま中に入ると、端のフェンスに手を伸ばした。

ぎしりと音をさせて、指が鉄線に絡まる。

その向こうは大きな川につながっていて、オレンジの夕陽が一帯を染め上げていた。


「……青春かよ」


公園に土手に夕陽って。

一昔前の青春映画のようで、思わず笑いが込み上げた。


「あぁ。もう、駄目だ」

独りごちて、目を伏せた。

もう、駄目だ。無理。

否定の言葉をいくつも並べ立てて、大きく息を吐き出す。



駄目だよ、比奈。

俺、比奈が好きでどうしようもないや。

受け入れられないと思っていた、受け入れてはいけないと思っていた自分の感情。

抑え込めばこむほど、どうにもならなくなってくる。



――たまたま好きになった子が、たまたま幼馴染で、たまたま年下だった。それでよくねぇ? 何をそんなに考え込むわけ?



「だな、狩野」



――お前さ。やってることが、無謀なんだって



「うん、カタセン」



狩野の言葉が、カタセンの言葉が、心にストンと落ちてきた。

今まで、頑なになっていた心に。


比奈を好きな自分を、消すことはできない。

遠回りをして、あがいて、周りを巻き込んで。

無かった事にしようとしたけれど、やっぱ駄目だ。




「……比奈」



俺は比奈が、好きだ――

















翌日。



「ごめん」


数日前の再現でもしているかの、シチュエーション。

放課後の屋上で茅乃を目の前に、深く頭を下げた。


「俺、やっぱり茅乃と付き合えない」


沈黙を守る茅乃に、頭を下げ続ける。


「俺の勝手で、茅乃を傷つけて本当にごめん」


自分がやった事は、消すことはできない。

つけた傷を、無かった事にはできない。

自己満足と言われても、これしかできる事はないから。


「本当にごめん」


「……もう、決めたって事?」


やっと口を開いた茅乃の声は、これ以上ないくらい震えていて。

思わず手を差し伸べそうになって、それを押しとどめた。



「無理しないことに、した。茅乃には、本当に酷い事をしたと思う」

本当にごめんと、幾度目かわからない謝罪を口にする。

「……本気になったって事?」

「ごめん」

ずっと、本気だった。


……比奈に対しては、ずっと。



大きく息を吐き出して、茅乃が一歩後ろに足を引く。

視界にあった上履きが端から消えて、屋上のコンクリだけが広がる。



「分かった、もう、いい」



その言葉に、伏せていた顔を上げた。

少し離れた所に立っていた茅乃は、歪みそうになる口元を必死にこらえていて。

泣きそうなその表情を隠す様に、茅乃は屋上の出口へと歩き出す。

その姿を目で追うと、ドアノブを掴んだ茅乃がふと立ち止まった。


視線だけ俺に向けると、口端を微かに上げて……でも失敗した様にすぐ前を向いてしまう。



「せいぜい、頑張れば? ひなちゃんが、小太郎を嫌ってないといいけどね」



くぐもった茅乃の声と共に硬質な軋みを上げて、鉄製のドアが閉まった。








力が抜けた様に、その場に座り込む。


「しんど……」


思わず漏れた本音に、もっと辛いのは茅乃の方だと自嘲する。

高校三年生。

色々と、自分の人生について考えて決めていかなければならない、きっかけとなる年。


進学をするのか、就職をするのか。



俺は……






「比奈……」






俺は、比奈が、好きだ。

これにて、こたろー過去編終了。

次話、比奈ターンから始まります。


なんか、うじうじでしたね^^;

私が書くお話って、うじうじが凄い多い気がする。

読みにくかったら、ホントごめんなさいですm--m

お脳が、ホント欲しいなぁ……


次の更新まで、少しお時間を頂く予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。 

                  篠宮

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