4 蛇足・帰宅、そして自宅にて・こたろー
「比奈って、どーしてあんなに頑固なのかしらー」
「あの一刀両断オーラ、こっわいわぁ」
本当にそーですね、春香さん&かーさん。
俺もそう思います。
比奈が俺の話をまともに聞かない事は分かっていたけれど、最終下校時刻に鍵を返しに来たのにはある意味殺意を覚えた。
根つめるなっていったよな?
お前、女だからね?
最終下校時刻って言うのは、うちの学校でいうなれば19時。
十二月の19時。ふざけんな。
まぁ、俺的には助かったんだけど。
それはおいておいて。
19時に残っているとしたら、教師か届出をしている部活くらい。
どーして俺がこんなに詳しいかと言えば、五年前にここを卒業したOBだからなんだけどね。
そーいうつてもあって、臨採の事も早めに知る事が出来たんだけど。
担任とは仲良くしておくべきだと、心底思った。
あ、別にコネで入ってないからね。
ちゃんと採用試験受けて、トップだったらしいからね?
だってこれで、念願の「比奈の高校生活」に俺が存在できるんだぜー。いえーい♪
あ、ひくな、おいちょっと待て。
だってさー、五歳離れてるとさー。
制服姿は見る事はできても、同じ校舎に存在することはできないじゃん。
あ、まー。
俺の高校時代を比奈に見せたいかといわれれば、それはごめんこうむるんだけど。
ちゃんと、担任には口止め済み☆
ほら、若気の至りって……いうじゃんか。
ま、そんなこんなで19時に鍵を返しに来た比奈を促して、一緒に帰宅したわけですよ。
すんげー、嫌そうな顔をさらす比奈とともにね。
……くすん
んで、うちの母親。
料理が壊滅的でして。
たまにどころの頻度じゃなく、比奈の母親である春香さんにおんぶに抱っこ状態。
まぁ、俺的にはありがたいけど。
比奈と一緒に飯が食えて、母親の料理から逃げられるわけで。
今日も比奈んちにご馳走になりにいけば、キッチンカウンターの向こうに立つ比奈とダイニングテーブルのいつもの席に座る母親と目が合った。
珍しく母親が何を飲むか聞いてきたものだから、比奈が丁度図書準備室に来た時の自分の状況を思い出してビールを頼んだ。
疲れる事があったんだよ。……何があったって? そりゃ、おいおいね。
するとなぜか、春香さんと母親が大爆笑。
比奈にいたってはむすっとした顔のままダイニングに出てくると、手に持っていたビールを俺と母親の前においた。
あれ?
今、冷蔵庫開けてたっけ?
基本、俺は平日に酒を飲まない。
今日みたいに疲れてる時とかは、別だけど。
その疑問は、母親が明かしてくれた。
俺がビールを飲む事を予測して、既に用意していてくれたらしい。
愛!
比奈の愛!
なのに、なんでお前はそんなに不機嫌かね。
食事が始まった後も、不機嫌な比奈は相変わらずで。
さっさと食べ終えると、二階の自分の部屋へと上がっていってしまった。
それを見送って、三人で溜息をつく。
そして冒頭に戻るわけですよ。
「やっぱり比奈ちゃん、こたのこと嫌いなのかしらねぇ」
「うわ、かーさんてば。不吉な事言わないでくれよ」
箸でつまんだ餃子を口に放り込みながら眉根を寄せると、階段の方を見ていた母親が俺の顔を見て溜息をついた。
「外見は良く生んでやったのに、中身がこれじゃね……」
おいなんだ、その失礼な言葉は!
「あんまり構いすぎるのも、比奈の性格的に引いちゃうのかしら」
じゃぁ、構うなよ! 構ってるのは、おたくら二人だ!
「でも五年も言われてれば、情も湧くと思ったんだけど。あてがはずれたわー」
「小太郎くん、比奈溺愛しすぎて、ちょっとうざいから……」
……溺愛すぎて、ウザイ……
ピキリ、と身体が固まった。
溺愛しすぎてウザイ……、しかも比奈の母親である春香さんに言われるとか、どーなの俺。
「……かーさんたちは、俺とは反対だと?」
恐る恐る聞いてみれば、にこりとわらう春香さん。
「私は小太郎くん、好きよー? ウザイだけで」
「こたに比奈ちゃんはもったいないけど、うちの娘にしたいから妥協」
……俺の存在価値って!!(涙