38 こたろーの高校三年生・6
茅乃に引っ張られるように、駅へと歩く。
いつもの道だというのに、俺は落ち着かない感情のままただ足を動かしていた。
何か楽しそうに話す茅乃の言葉も、頭の中を通り過ぎていく。
拭い去ることのできない罪悪感。
無謀なんだと言った、カタセンの言葉が脳裏を掠める。
気付けば、すでに駅の目の前に立っていた。
茅乃とは、ここで別れるのがいつもの習慣。
ホッとしてしまった自分に、嫌気がさす。
「じゃあな」
そう伝えれば、ぎゅ、と腕を掴まれた。
驚いて見下ろせば、縋る様に俺を見上げる茅乃の姿。
傍から見れば、きっと寂しそうに見えただろう彼女の表情。
なのに俺は、その表情に手を振り切って逃げだしたくなっている。
けれど何とかそんな感情を隠して、口端だけを上げた。
「どうした?」
「……小太郎、もう少し一緒にいない?」
その言葉に、罪悪感が膨れ上がり貧血にも似た感覚が体を侵していく。
「悪い、用があるから」
そう言って腕を外せば、茅乃は一瞬だけ泣きそうな顔を見せて、それでも気丈に取り繕った。
「わかった、ごめんね?」
するりと横を通り過ぎ、改札の向こうへ消えた。
一度も振り向かない茅乃が、今どんな顔をしていたかわからない。
けれど、想像はついた。
そして、俺を責めたてる。俺、自身が。
茅乃と別れた後も家に帰りたくなくて、ふらりと駅前から自宅とは違う方向へと歩き出した。
もう、茅乃とは別れよう。
何処までも落ちていきそうな感情の中、それだけを何とか決めた。
元々、自分でどうにかしなきゃいけない事だったんだ。
分かっていた事なのに、周りを巻き込んだ。
カタセンの言う通りだ。
自分を守るために、周りを利用したんだから。
分ってたくせに逃げ出した自分の所為で、他人を巻き込んだ――
ふと顔を上げれば、そこは懐かしい自分の母校。
通っていた中学校の近くだった。
無意識に慣れた道を辿っていたらしい。
「比奈、もう帰っただろうな」
俺が通っていたこの中学校に、今は比奈が通ってる。
ここの図書室は小さいから、比奈は中学に上がってから公立図書館に通っていて、早めに帰宅しているのだ。
歩きながらぼんやりと校内を見れば、部活に励む生徒やどこかに行くつもりなのか浮かれた顔で帰宅していく生徒達の姿。
ここで日々過ごす、比奈がいる。
なんで、もっと近い年齢で生まれてこれなかったんだろう……。
言っても仕方ない事だと、分かっているけれど。
比奈の生活するその場所に、自分がいない事に諦めようのないいらつきが生じる。
「はは、は……」
乾いた笑いが、自分の耳に届いた。
こんな時でも、頭は比奈の事を考える。
茅乃への罪悪感も、巻き込んだ人達への感情もすべて覆い尽くして。
……茅乃に、謝ろう……
どうするにしても、それだけは確実にやらなくちゃいけないことだ。