37 こたろーの高校三年生・5
茅乃の事を考え、比奈の事を考え。
どつぼにはまった俺の思考は、正しい判断なんて下せるはずがない。
大体、比奈への気持ちに気が付いた時点で、正常な頭からかけ離れた行動をしているわけだから。
「お前、ほんとーに最低な男になったな」
必要以上に一緒にいようとする茅乃から逃れるように、いつもいる屋上ではなく倉庫裏のベンチでだらけていた俺は、後ろの窓が開いたことに驚いて背もたれから状態を離した。
「カタセン……」
そこには火のついていない煙草を口に銜えたカタセンが、ライターを手に立っていた。
「……校内って禁煙じゃなかったっけ」
部屋から漂ってくる煙草の臭いに、思わず顔を顰める。
カタセンは特に気にもせず、銜えていた煙草を傍らの机にある携帯灰皿に置いた。
「ここは、学校公認の喫煙場所。そこにお前がいるのが悪い」
「……そ」
それだけ返すと、ベンチから腰を上げる。
茅乃から逃げたいけれど、それと同じようにカタセンに会うのも面倒だった。
言われることは分かってるから。
そんな事、自分でも理解してるから。
「おーっと、逃がさんよ。小太郎くんや」
立ち上がりかけた体が、肩を抑え込まれて再びベンチに逆戻りになる。
「何すんだよ」
「何すんだは、お前だろう」
「……っ」
その言葉に、思わず肩を揺らす。
「お前さ。やってることが、無謀なんだって」
口を噤んだ俺に、カタセンがため息をついた。
「まぁ、なんてーの? 俺らセンセイは、とりあえずお前らより長く生きてるわけで。他の職業の人より、長くお前らを見てるわけで」
肩を掴んでいた手に、力が入る。
「……お前は、自分を守るために周りを巻き込んでるわけで」
「……っ」
どくり、と鼓動が大きくなる。
「お前も、それが分かってるわけで」
今まで、面と向かって言われた事のなかった言葉。
けれど自分が一番分かっている、理解している言葉に体と感情は正直に反応した。
不自然なほど早く大きく鼓動を刻む心臓に、耳を侵されていくような感覚。
目の前が白くちらついて、自分がどれだけ動揺しているかを思い知らされる。
「俺が言いたい事、分かるか?」
目を真っ直ぐ見据えられて言われた言葉に、脱兎の如く、その場から逃げだした。
逃げ出した=分かっている
と、いうこと。
カタセンから逃げ出して教室に戻ってみれば、がらんとした教室に茅乃の姿があった。
思わず目を見張ってしまった俺を、茅乃の視線が捉える。
「小太郎、どこに行ってたの?」
そう問いかけてくる茅乃の声は、驚くほど普通だった。
こんなにも俺が避けているというのに。
違和感を感じてそのまま立ち尽くせば、茅乃は自分の鞄だけではなく俺のも手にして目の前へと歩いてくる。
「帰ろう? 小太郎」
そう言って小首をかしげる茅乃に、俺は自分がしたことの罪を目の当たりにした。
お久しぶりの更新となりました。
やっぱりまだのろのろ更新になりそうですが、なんとか不定期にならないように頑張りますm--m
お待たせして、本当にすみません。