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35 こたろーの高校三年生・3

自宅以外で。自分の行動範囲内で。

地元の中学校に通う比奈と会う事は、ほとんどなくて。

だから、高を括っていた。


誰かと一緒の時、比奈に会うことはない、と。




「こたろーちゃん? どしたの」

固まったまま動かない俺を、怪訝そうに覗き込む比奈の姿に無意識に後ずさる。

そんな俺を少し傷ついたような表情で見つめると、比奈は口元を引き上げた。

「ごめん、こたろーちゃん。驚かせちゃったみたいだね。じゃ、私行くから」

するりと目の前を通り過ぎていく比奈の腕を、慌てて掴む。

驚いたように振り返る比奈に、いつもの”こたろーちゃん”の表情で微笑んだ。

「こっちこそ、悪い。比奈が駅の方にいるの珍しいからさ、少し驚いただけ。帰るんだろ? 一緒に行こう」

比奈はぱちぱちと瞬きを幾度か繰り返していたけれど、ほわりと笑みを浮かべて頷いてくれた。


「……」


比奈の腕を離して、背中を軽く押す。

促されるように足を踏み出した比奈と、肩を並べて自宅を目指して歩き出した。




ふっ……と、体が軽くなる。

気持ちも、落ち着いていくのが分かる。

どれだけ、他の人の前で気を張っているのか。

どれだけ、比奈の傍が元の自分に戻れる穏やかな場所なのか。

離れようとしているからこそ、余計に感じる。


反面――



「こたろーちゃん?」

「……っ」


いつの間にかまた考え込んでいたらしく、不思議そうな表情で見上げてくる比奈に罪悪感を覚える。

「悪い、ちょっと呆けてた」

あはは、と、ぎこちない笑い声を上げれば、比奈は小さく首を傾げた後ふわりと笑った。

「ぼけぼけなのは、いつものことじゃない」

そうやって、俺を気遣ってくれる比奈が愛おしくて苦しい。


「――」



……いとおしい――?



何でもないように、思い浮かんだ言葉に愕然とする。

愛おしい。

離れようとしても、忘れようとしても。

比奈の傍にいれば、すぐに感情が引き戻される。

スタート地点よりも後ろに、離れようとしたからこそ余計マイナスへと。

気持ちが、膨れ上がる。




心の中で落ち着かない部分が、インクが滲む様に意識に広がっていく。


手に触れて。

頬に……


思考と一緒に視線が比奈のその部分を辿っていたことに気が付いて、慌てて目を逸らした。


少しずつ、気持ちを落ち着かせていく。



ただただ、触れたいとそう願う。

手を握るだけでいい。頬に触れるだけでいい。

けれど……


十三歳。

俺は十八歳だけど、比奈はまだ十三歳。

やっと制服に着られないようになったばかりの、まだ子供の領域から出ていない比奈。


触れたいと願う事さえ、比奈を汚す気がする。



もし、好きだと伝えたら。

きっと俺以上に親しい異性がいないだろう比奈は、親愛と恋愛を取り違えて頷いてしまうだろう。

生まれてからずっと傍にいた俺がいなくなる事を恐れるその気持ちを、恋愛感情だとそう思うかもしれない。

そしてそのまま、……比奈が勘違いしているのを知っていたとしても、きっと俺は手に入れてしまう。

丸め込める、自信がある。

きっと比奈は訳が分からないまま俺に流されて、そういうものだと思い込んで……。




自分の感情を抑え込むために一度目を瞑ると、首を傾げたまま俺を見上げている比奈に笑みを一つ零す。



「比奈、早く帰ろう。春香さんのごはん、早く食べたいし」

殊更ふざけたように言えば、うん、と比奈が笑ってくれた。





……喉に刺さった骨のように、後悔が感情を侵食していく。


篠宮です。いつもお読み下さり、ありがとうございます。

力試しに、投稿している連載小説でアルファポリスの恋愛大賞に挑戦してみました。

投票は市民登録をしておられる方のみに限定されてしまうのですが、バナー表示でもポイントが入るようなので(たぶん…)どうぞよろしくお願いいたしますm--m

更新、頑張ります^^

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