31 委縮するココロ
「……」
うっすらと目を開ければ、いつもと変わらない天井が見えた。
幾度か瞬きをして、周囲を見渡す。
あぁ、寝ちゃったんだ……。
真っ暗な部屋に、窓からぼんやりと光が差し込んでいた。
「……こたろーちゃん、帰ってるんだ」
窓の横は、こたろーちゃんの部屋についているベランダに面している。
そこから漏れてくる明りに、こたろーちゃんの在宅を知った。
ぎゅっと両目を瞑って、大きく息を吐き出す。
暖房もつけないままにいた私の部屋はとても寒くて、ぶるりと身を震わせて上半身を起こした。
机の上の時計は九時過ぎを指していて、寝すぎたな……ともう一度溜息をついた。
最近、あまり寝れてなかったから。
今日は茅乃さんの事もあって、パンクしちゃったかな。
頭が痛いのは、知恵熱?
思わず、くすりと笑う。
こたろーちゃんを幼馴染としてみるって、決めたのに。
茅乃さんの存在に、感情を左右される。
いくら過去の事があるからって、やっぱり、認めなきゃだめなのかな。
「……まだ、こたろーちゃんのことが、好きだ……って」
言葉に出してみれば、ストンと心に当てはまる。
分かってる。
本当は、ちゃんと自分の心なんて分かってる。
一生懸命目を逸らして、幼馴染としてみようとしているだけ。
「だって……」
信じられないんだもの。
いくら好きだと言われても、私が信じられないんだもの。
高三の時、私を好きだと言い始めたのは。
私が茅乃さんに会って、一か月も経っていなかった。
あの日、茅乃さんが言った通り、こたろーちゃんの首筋には鮮やかな赤い印がついていた。
言われなければ、気付かなかったけれど。
気付かせるために、あえて私に伝えたのだろうことくらい分かる。
その位、深い仲だった二人が。
数週間も経たず、別れた。
私には、全く理解できなかった。
二人の事も。
すぐに、私を好きだと告げたこたろーちゃんの事も。
ずっと私を好きで悩んでいたと言っていた、こたろーちゃん。
なら、どうして他の人と……
起こしていた上半身を壁にもたせて、足を投げ出す。
ひやりとした空気が足を撫でるけれど、布団もかけずじっと見つめる。
もし頷いて恋人になって、すぐにいらないって言われたら?
あんなに大人で、あんなに綺麗で、今時の格好をしていた同級生が駄目なのに私がずっとそばにいられるなんてことあるの?
そんな事言うわけないって、こたろーちゃんはそういう人じゃないって分かってても、信じきれなかった。
幼馴染さえ壊れてしまう状態に、足を踏み出せなかった――
窓に目を向ければ、煌々と明りの灯るこたろーちゃんの部屋。
本を読んでいるのか、仕事をしているのか、それとも転寝中か。
「ねぇ、こたろーちゃん……」
どうしてごめんって言いながら、全部話すって言いながら、都合の悪いところは秘密なの?
全部じゃないよ、それ。
なのに、信じてって私に言う。
大きく息を吐いて、ずりずりと壁をずり下がる。
ぽすりと枕に頭を沈めると、振動で目尻から涙が零れた。
「好きなのに、信じられない私が……おかしいのかな」




