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28 蛇足・過去の人 イマノヒト・こたろー

「比奈……」

 いきなり走り出した比奈を、流石に追いかけることはできなかった。

 いくら外でも、学校の真ん前。

 まだ生徒もいる時間帯に、一生徒を教師が追いかけていたら確実に問題視される。

 いや、比奈って呼んでる時点でどうなんだという感じなんだけど。


「ねぇ、小太郎。あなたこそ、なんでスーツ着てここに? 職場近いの?」

 そっと袖を引かれて、傍らに立つ茅乃に目を向けた。

 じっと俺を見上げてくる表情は、あの時のまま。


 ……あの時の、まま?


 何か違和感を感じつつ、それが何かわからなくて首を傾げるだけにとどめた。


「あぁ、俺も茅乃と一緒。カタセンに教えてもらって、高校で臨時教師やってんだ」

「え、本当!?」

 驚いたように笑みを零す茅乃に、そうだ、と提案した。

「カタセンに会ってく? 今なら喫煙室にいるし」

「うん!」

 嬉しい、と言葉を続けて歩き出す茅乃と高校へと戻りながら、走り去った比奈の後姿を人混みに探していた。


 ……見つけられなかったけど。






「あー? お前、何拾ってきてんだよ」

 片山先生は俺が飛び出して行った時のまま、喫煙室の定位置で煙草を銜えていた。

「酷い、カタセン! 嬉しいでしょ~? 私が会いに来て、嬉しいよね?」

「マァ、ウレシイ」

「棒読み!」

 ぱちんと、カタセンの腕を叩く茅乃の姿に、こいつはこういう奴だったと内心納得した。

 大人しそうな顔をして、結構スキンシップが多かったような。

 つい腕を組んだまま二人を見ていたら、それに気づいたカタセンが片眉を上げて小さく首を傾げた。

「で、お前は幼馴染ちゃんに追いつけたのか」

「え? あ、うん。追いついた。追いついたけど……」

 ちらりと茅乃を見て、目を伏せる。

 まさに逃げられた場面を見られていた奴目の前に、あんま喋りたくないんすけどー。


 カタセンはそれだけで察したらしく、わざとらしく息を吐き出して肩を竦めた。

「お前さ、勤務中に目瞑ってやってんのに、他の女ナンパしてくんなよ。早く、仕事に戻れ」

「茅乃相手に、ナンパなんてするかよ。あー、でもまぁ、仕事戻ります」

 腕時計を見れば、ここを飛び出してから三十分は経ってる。

 臨採の俺には二十分の休憩が認められているけど、もう超えてしまっていた。

「超過した分、大目に働いていきますんで。じゃーな、茅乃」

「あら、もういっちゃうの?」

 寂しそうなその声にぴらぴらと手を振って、俺は比奈のいない図書室へと足を向けた。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ねぇ、カタセン。小太郎、ひなちゃんの事好きなの?」

 喫煙室に残された茅乃は、我関せずと煙草を吸い始めた片山にぼそりと呟いた。

 その声はさっきまでとは違っていて、煙草を銜えたまま片山は視線を窓へと逸らす。

「そんなの、高三の時からわかってんだろ? お前、まだ梶原の事諦めてないとかいうんじゃねーぞ」

 茅乃は、小太郎が一番最後に付き合った元彼女。

 茅乃と別れてからは、比奈一直線で誰にも見向きしていない。

 確か二人が別れた時、いざこざがあったとは記憶していないが。


 茅乃は目を細めて小太郎の出て行ったドアを見つめると、口端を上げて笑みを浮かべた。

「さぁ、どうかしら」

 ほんわりとした無邪気な笑顔とは、全く合わない嫣然とした言葉口調。

「お前……」

「カタセン」

 片山の言葉を遮るように、茅乃が声を上げた。


「ありがとう、小太郎を雇ってくれて」


 それじゃ……と身を翻すと、茅乃はドアの向こうに消えた。

 窓に目を遣ると、無表情のまま正門へと歩いていく茅乃の姿が街灯に照らされていた。

 思わず、天井を仰ぐ。



「あーあ。梶原、なんちゅーもん拾ってきたんだよ」



 別に俺が雇ったわけじゃねーし、と片山のぼやきが部屋に響いた。

しばらく更新が滞ります。

お読み下さる皆様、大変申し訳ございません。

年内に、もう少し進めたいとは思っているのですが……

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