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2 蛇足・図書室にて こたろー

「本ばっか読んで、目、悪くするよ」


声を掛けても、比奈は振り向かない。




図書室に入って壁伝いに右手、奧。

唯でさえ来る人が少ない図書室の、これまた人気の無い貸し出し禁止本エリアの、もっと奧。

たった一つだけある机と、椅子二脚。

そこにいつも陣取るのは、俺の最愛の幼馴染。

長い髪を三つ編みにして、きっちり丈の制服スカート。

高校指定のカーデに、顔を上げれば見る事ができるだろう濃いブルーのフレームメガネ。

冗談か? と突っ込みを入れたくなるほど一昔前のガリ勉スタイルを貫く彼女は、図書委員長の三嶋比奈。

高校三年の彼女が十二月に入ったこの時期、受験勉強以外でここにいる事は周りから見たら奇異の範疇かもしれない。

けれど彼女は既に推薦入試を終えていて、合格しているのだ。

故に、不思議は無い。

これは比奈にも確認したし、彼女の担任にも確認済みだから間違いない。

幼馴染って言うのを隠して聞き出すのに、すんごい苦労した。

担任がおどおどしながら言い難そうにしていたのは、きっと個人情報保護とか脳裏に浮かんだんだろうな。

俺、九月から来年三月までの契約で来た、臨時採用の司書教諭だから信用とか余り無いだろうし。


しかし比奈ってば、幼馴染だってばらすのなんで嫌がるかな。

俺としては公言して、比奈に悪い虫がつかないように牽制したいんだけどね。

何の為に、ここの臨採に応募したと思ってんだ。まったく。



そんなことを考えながら、目の前で本を読みふける比奈を見つめる。

比奈が誰にも邪魔されないようにこの場所に来るのは、俺にとって好都合でして。

教師と生徒という態度を貫く比奈に、唯一幼馴染として接する事が出来る場所なのだ。



しかし、全く振り向きもしねーな。


俺の声をあっさり無視して大好きな本に没頭している比奈の姿も可愛いけれど、そろそろ声を聞かせてもらいたいわけで。

まん前に立って、のほほんとした声で話しかける。



「ねー、比奈ってばさ。思いっきり俺を無視してるの、気付いてるー?」


「……」



返答無し。

こいつの集中力は半端無い、が、きっと今は脳内トリップ真っ最中なんだろう。

小さく息をついて、ゆっくりと横に回りこむ。

古事記を読んでいるらしい彼女の手元には、大学ノートと筆記具。

司書教諭をやってはいるが、自分の専門は中世文学ゆえに古事記なんて全く読めない。

これ読むくらいなら、外国語の翻訳をしたほうが楽な気がする。



あぁしっかし可愛いなー、三つ編みで目を伏せてるから白い項が丸見えなのよー、比奈ちゃんてば。



さすがに校舎内でどうこうすつもりはないし、それ以上に簡単に比奈に手を出すつもりもない。

気持ちはあるけどね。

え、あってもダメ?

それは許そうよー、ねぇ?

好きな子が目の前にいりゃぁ、触りたいし抱きしめた……あ、これ以上の想像はやめよう。

大変な事になる(涙


まぁでも流石に、十八歳女子高生に二十二歳……もうすぐ二十三歳の男があっさり手を出しちゃいかんでしょう。

それにあの顔で拒絶されたら、へこむわ。



と言うことで、今日も今日とて梶原小太郎二十二歳、最愛の幼馴染に無視され中でございますー。






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