12 蛇足・幼馴染と後輩と先生と・こたろー
渋る比奈をやっと連れ出せたと思ったら、邪魔な奴までついてきやがった。
つーかさー、本性出していいならマジ泣かせてもいい?
どっちかってーたら、穏やかとか間のびしてるとか言われる俺だけどさ。
比奈との逢瀬を邪魔するなら、マジキレるよ?
先生と生徒とかめちゃ萌えるシチュエーションなのに、そんな甘さを一欠けらどころか砂粒に匹敵するくらいしか感じさせてくれない比奈との数少ない逢瀬だっつーのに。
しかもただ単に逢瀬だけを邪魔されるなら仕方ないけど、仕事上の意見を聞きたくて連れてきたのにそれ邪魔するとか、効率悪い。
諦めたように俺からリストを受け取った比奈はざっと目を通すと、貸し出し禁止本エリア傍に貼ってある分類表を見つめた。
分類ごとの増減を大体把握して、このスペースをどう増やすか。
もしくはエリアごと、違う場所に移動させてしまうか。
生徒である比奈の意見を鵜呑みにはしないけれど、意見として聞くには彼女はうってつけだ。
図書委員長であり、読書好き。
理系に関しては難しいかもしれないけれど、文系に関しては彼女の意見は重要だと思う。
確かに比奈と図書室で一緒に過ごしたいという邪な願望もないわけではないが、つーか六十%以上はそれで満たされて入るが、ちゃんと司書としての職務の上で彼女を連れてきたのだ。
故に。
邪魔だ、乳!
そんな事を考えつつ、表面上は穏やかに比奈を見つめる。
比奈は少し首を傾げて指先を口に当てると、んー、と喉の奥で声を出した。
猫、だな。ホント。
構いすぎれば逃げるけど、構わないと様子を伺う。
いや、様子伺われたことないけど。
昔はなー、嫌になるほどまとわりついてきたのに、本当最近は逃げるばっかりで。
ツンデレのツンのみじゃ、俺が報われない(涙
比奈が考えている最中、もう一枚コピーしておいたリストをポケットから出して見ながら、ふぅと溜息をついた。
全部じゃないけれど、貸し出し禁止本はページ数が結構半端無い。
て言う事は、かなり幅を取るよな。
やっぱ、カウンター前に移動して広めに場所をとるしかないような気がする。
しっかし、この本の概要のデータ化とか、マジ辛ぇ。
まぁ、嫌いな仕事じゃないけど、量を考えると冬休み中もある程度出勤する事考えた方がいいかもなー。
すると比奈がふぃっとこちらに視線を向けて、俺を見た。
「こ……梶原先生、ちょっとカウンターに言ってきていいですか? 十分くらいで、戻りますので」
少し動揺したように言い直した比奈は、俺が頷くと同時に少し早足でカウンターへと戻っていった。
あー、集中しすぎて忘れたな。
今の状況。
こたろーちゃんと言いそうになって動揺した比奈、なんて可愛いんだろうー。
ちょっと目元が赤くなっていたのを、本人に言ったら恥ずかしがるんだろうなー。
で、回し蹴りされそう。
そんなことを考えていたら、Yシャツの腕の部分をくいっと引っ張られて顔を向けた。
「……何か」
そこには、まぁお分かりのように伊藤先生。
見上げるように、俺を見つめている。
「あの、私では役に立てないのかしら」
またさっきと同じ言葉。
いい加減うんざりだ。
そうは思っても、一応先輩だし、同僚だし。
聞えないように小さく息を吐き出して、目元を和らげる。
「いえ、色々な意見を聞いて大体の骨子が決まったら、ちゃんとご報告いたします。伊藤先生には割り当てられた担当箇所がありますし、ある程度は私と担当教師で整えようと思いますので」
比奈の名前は、一応出さない。
何を考えているのか、比奈を牽制しているようだから。
お前が何したって無駄だよ。
俺の意識は、比奈にしかむいてねぇ。
伊藤先生は少し悲しそうに目を伏せて、でも……と呟いた。
「生徒に聞くのでしたら、私の方が説明できると思うんですけれど」
……しつこい。
困ったように演じつつ、左手で首元を押さえる。
「あー、彼女がよくあの奥で読書をしているのを知っているので、図書委員長として生徒としての意見を聞きたいだけですよ。鵜呑みにする訳ではないですし、参考程度に聞きたいだけですから」
比奈が嫌がるから、仕方なく図書委員長と生徒という言葉を強調する。
そしてやんわりと伊藤先生から腕を取り戻すと、一・二歩横にずれた。
そのままカウンターへと、顔を向ける。
「でも……、生徒の意見を聞いても……」
少し馬鹿にしたようなその声音に、流石の俺もイラッときてつい口を開いた時だった。
「お待たせしました」
比奈の落ち着いた声に、口を閉じる。
嫌悪感に昂ぶりつつあった感情が、一瞬にして穏やかに凪ぐ。
穏やか、間延びしているといわれる俺だけど、比奈の事を持ち出されるとどうしても沸点が低くなってしまう。
大人だというのに、駄目だな。
比奈はこっちの微妙な雰囲気も気にせずに、早足でそばに来ると机に持ってきた数枚の紙を置いた。
「これ、貸出の実績情報なんですけど」
そういって俺に示したのは、ここ二・三年の図書室の貸出実績だった。
どのような分類が、どの学年に、どのくらい借りられているか。
それを文系と理系に、大まかに分けた資料。
それを踏まえた上で、必要と思える本の要望書。
「どうしたの? この資料」
意見を聞こうとは思ってたけれど、こんな資料が出てくるとは思わなかった。
比奈は少しバツの悪そうな表情を浮かべて、ちらりと伊藤先生を見遣る。
俺は少し体をずらして比奈から伊藤先生を見えなくすると、答えを促した。
「貸出実績は……、普通にデータがあるのでそれを加工して学年別・科別の資料として纏めておいたんです。あとはたまにもらう要望とか、一年生に話を聞いて纏めたあったらいいなっていう本の傾向とかを……その……」
声が尻つぼみになっていくのは、確実伊藤先生に何かを言われると思っての事だろう。
けれど俺は、反対に彼女に今の話を聞かせたくて仕方なかった。
ここまでとは思わなかったけれど、確実あなたより役に立ってくれますよ?
俺の比奈は。