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トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
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トーコさん天太と出逢う②


 その姿はまさに、蝶のように舞い、蜂のように刺すと表現するに相応しい。


 俺は《アリアンロッド》の戦う姿がとてもスキだ。

 べつに俺が彼女に着せてる服がミニスカで、パンティーが丸見えだからってワケじゃない。

 いや、もちろん、それもあるけど。


 《アリアンロッド》は現実のニホン女性では在り得ないプロポーションを誇る。

 銀の髪、透き通るような湖を彷彿させる蒼い瞳、小顔は黄金率のバランスで超美人だ。

 年の頃は俺と同じくらいにも、幼いようにも、年上の女性にも見える。

 ありていに言えば理想的な女性が等身大にして堂々と目の前で生き生きと動いているのだ。

 水晶のごとき透明な空気を纏い、深い洞窟の澄んだ湧き水のような爽やかな薄い微笑み。

 その清冽さに魅せられている、と言ってもいい。


 《アリアンロッド》の戦い方、というか、《守護霊》の戦い方は基本的に殴る蹴るだ。

 《Unreal Ghost Online》では武器という物を見かけたことは無い。

 チャットでもちょくちょく話題に出るけれど、誰かが武器をゲットしたって話も聞かない。

 武器って存在するのだろうか?このゲームで。


 なので《アリアンロッド》は徒手空拳で戦う。

 そして、彼女の格闘技には型が無い。一つとして同じ動きの技が無いのだ。

 野生の狼のように、身体の動かし方を知り尽くしたかのような動きで力強く、しなやかに動き、捕食者がそうであるように、動きの静と動の切り替えは人の反射神経を大きく上回る。

 その変幻自在な動きは、流れる水のように一時も同じ姿を留めない。

 銀の鎖帷子がシャラシャラと、まるで彼女専用のBGMのように聞こえ続けている。


 基本的な動作は俺が手で指示を出しているけれど、彼女の行動は俺自身の意思を越えて動いていると感じることも多い。

 障害物をジャンプで飛び越えて攻撃したり、その障害物を利用した三角飛びでの攻撃や、障害物を盾として戦ったりと、人間だったらそんな風に賢く動くだろうと思えるような行動をとる。

 時には俺の意思すら越えて自由に行動している、と考えさせられることも多い。




 《Unreal Ghost Online》では、戦うにあたって自動的に一定範囲のバトル・フィールドが築かれる。これは人払いの結界も兼ねているようで、戦ってる俺のマヌケな姿を赤の他人に見られずに済んでるんだ。

 《守護霊》に指示を出してるプレイヤーの姿は、《霊》や《虚霊》が見えない一般の人々からのハタから見て、独り芝居にも似て滑稽だろうと思えるから、この結界機能はスッゲー助かる。


 このバトル・フィールドの結界効果は人間の無意識下に働くようで、たとえ道路のど真ん中で戦っても、ヒトはもちろん車も全て俺たちを避けて通る。

 バトル・フィールドは《霊》と《アリアンロッド》と俺とを完全に覆い隠すように展開されるらしいが、《霊》と《アリアンロッド》は動き回るので、フィールドもそれに追従して動く。


 ビックリだったのは、以前《霊》が急に跳び付いてきたせいで、結果的に通行人を巻き込んじまったときだ、通行人のお姉さんに《霊》の攻撃が当たる!と思った瞬間、お姉さんがヒョイと何気に避けた。そのお姉さんは騒ぐでも無く、何でも無かったかのように歩み去ってしまった。


 どうやら本人は、自分がナニかを避けた、という自覚すら持たなかったらしい。

 人払いの結界マジパネェ。




 なし崩し的に始まっちまった老人の霊との戦いは、敵がLv8なのに対して《アリアンロッド》がLv10とレベル差もあって、わりとあっさりと勝負が付きそうだ。


 あと一撃で倒せる。

 そんな風に油断したのが行けなかったのだろうか?

 突然、死霊は己の片腕をもぎ取り、もぎ取ったソレを棍棒のように振り回して反撃してきた。


『ガッ』

 回避が遅れ、《アリアンロッド》の胸部に痛撃を受けてしまう。


「っガッ」

 同時に俺の胸にも強烈な痛みが走った。痛みに思わずヨロケて、うずくまる俺。

【霊障:バックラッシュ】によるダメージ・フィードバック現象である。


 いま俺が受けた痛みは、《アリアンロッド》が受けたであろうダメージのたったの数パーセントに過ぎないハズだ。

 それなのに、これほどの痛みなのか。


 だけど、このままうずくまってるワケには行かない。

 今は戦闘中なのだ。どんなに息が詰まりそうな痛みでも我慢する必要がある。

 俺は死霊のトドメを刺すべく《アリアンロッド》へ指示を出した。






「いってて、おー痛ぇ」

 あの自縛霊と化していた老人も、こうして戦いに負けることで霊力を奪われ続け、やがて此の世の未練・執着を完全に浄化され、成仏するんだそうだ。


 UGOというゲームは、ゲームという形を取っては居るものの、《除霊》という側面も併せ持ってて、単なる遊びでは終らないシロモノだった。


 近年、人の持つ欲望も複雑・多様化し、昔よりも未練を残して成仏出来ずにこの世で《幽霊》となってしまうパターンが増えているのだそうだ。


 この世にあまりにも多くの《霊》が溢れるようになると、あの世とのバランスが崩れて、世界にとって良くないんだとさ。誰かが《霊》を浄化して本来の転生の輪に戻してやる必要がある。


 《Unreal Ghost Online》ではゲームをただ遊ぶだけではなく、そういった成仏出来ない《霊》を倒すことで、浄化する役目も同時に兼ねているんだとさ。


 こういったことは、《Unreal Ghost Online》のチュートリアルでバックボーンの世界観として説明される。


 メイン・クエストを次々とこなして行くと、そういったゲームの世界観を深く識ることが出来るのだとチャットで聞いた。

 なんでも、最終的には神サマを尋ねて、直々に称号と世界の秩序守護者として今後も働いて欲しいと依頼を受け、クエストのエンディングを迎えるのだそうだ。


 そこまで辿り着いたヒトって居るのだろうかねぇ?


 そこまで行かずとも、こうして《除霊》に一役かって隔世のバランスを取ってる現状は、もはや、ゲームであってゲームでは無いシロモノだと思う。

 生と死の天秤を保ち、世界の霊的システムを裏から支えるボランティア活動そのもの。


 ゴースト・ハンターって職業はカッコ良いって思ってた時期もあるけど、実際、自分がやってみるとメンドクセーことコノ上無い。

 普通に考えれば、何ソレ、ウゼーってゲームなんだと思う。


 だがしかし! 俺にとって《Unreal Ghost Online》とは、すなわち男のロマンであり、メンドクサイ背景事情を背負ってでも何物にも変えがたく捨て難い、もはや俺の人生に無くてはならないツールとなっているのだ!!




 なんてカッコツケて気を紛らわそうとしても身体から訴えてくる、UGOのもう一つの特徴。

 今現在、こっちの方がよほど重要だ。

「痛ぇ……ホント、これがなきゃUGOは最高のゲームなんだけどな」


 ダメージ・フィードバック・システム。

 《Unreal Ghost Online》において、【霊障:バックラッシュ】と呼ばれる現象のそれ。


 UGOは《守護霊》を操って《霊》《虚霊》を倒すゲームだ、けれど、そこにはどうしても敵から攻撃を受けてしまう可能性が存在する。


 条件はまだ完全には判って無いそうだが、おそらく敵から強い攻撃を受けると、一定確立で《守護霊》が受けるダメージの数パーセントが、プレイヤーに跳ね返って来るという噂だ。


 家庭用ゲーム機でもフォースフィードバックとかでダメージを受けるとコントローラーがブルブル震える機能があるが、それの強化版って所なのだろう。

 さっきの戦闘で、老人の自縛霊から一発イイのを喰らっちまった(涙


 Lv10以下の低レベルのプレイヤーは、ボスを除くアクティブ・ゴーストから襲われないよう、UGOのシステム制約によってルール上は護られている。


 なので、こうして外を歩ってても予想外の戦闘に巻き込まれることはそうそう多くは無い。

 年中痛い思いをしなくて済む。


 けれど、Lv11以上からはPK含めた全ての敵から、見境無く襲われちまうのがルールだ。

 Lv11にレベルアップする際に自動的にポップアップするダイアログ画面で、その旨の警告と確認のメッセージは何度も行われる。


 その結果、俺の様にLv10からはレベルアップせず、ずっとLv10のまま留まってUGOを楽しむ『ヘタレ』なプレイヤーは多い。


 でもさぁ。

 敵のレベルが高いほど、【霊障:バックラッシュ】でフィードバックされるダメージも高くなって行きます、なんて警告メッセージで言われたら、ビビるぜ? マヂで。

 なんせ、たったLv8しかない敵のダメージですら、ムチャクチャ痛いんだからな。


「だがっ、こんなことでへこたれてたまるかっ!!」

 そう、お楽しみはこれからなのだから!!


 ミニスカポリスの婦警さん(妄想)、カマーン!!

 俺は待ち合わせ場所へ向かって自然と駆け足となる。


 これが男のネイチャーってヤツなのかねぇ?



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