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トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
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トーコさんと犯人と①


 俺と珠璃がコンビニを出て直ぐのこと。

 《Unreal Ghost Online》のパーティー募集チャットに、妙なメッセージが流れた。


『レベル15のユニークモンスターを天王洲で見つけましたぁ、一時間以内に現地へ来れる人のみで、狩りPTのメンバーをレベル20以下で募集します!』




「天太ぁ、これって……」

「怪しいな、マップ上には俺たちと犯人以外のプレイヤーはこの辺りには居ない」


「って事は、このメッセは犯人が流したってことだよね?」

「そうなるな、Lv30ユニークレジェンドボス相手なのに、レベル15とはサバ詠み過ぎだろ、なるほどこうやって被害者を呼び寄せてたのか?」


「これまで一人づつ殺してたのに、このメッセの通りなら複数の相手をここに呼ぶつもりなの? どういう心境の変化かしら?」

「そろそろ足が付きそうだって気付いたんじゃね? 過去6回も同じように場所を指定して募集掛けてたんだろうし、毎回募集した場所でヒト死が有れば怪しむヤツが出てくるだろう?」


「なるほど、最後だからってなるべく多くの犠牲者を集めようと狙ってるのね?」

「ま、そんなとこだろうな」


 俺と珠璃は、これは逆に犯人へ近づくチャンスじゃね?

 そう考え、募集に応じることにした。


 ただし、万が一を考えて募集に応じるのは一人だけ、もう一人はログオフして犯人に見つからないよう(プレイヤーマーカーが映らないよう)隠れて犯人を写真に収めることにした。


 問題は、俺と珠璃のどっちが募集に応じるか、だが……


「お前に危ないことさせられるかよ、俺が行く」

「盗撮は天太の領分じゃん、あたしが行くから天太はこそっとデジカメでショット撮ってよ」


 俺が、いや、あたしが

 しばし言いあらそい、結局は……二人で行くことにした。


 決まり手は、珠璃の一言だった。


「どこにボスが出現するか判らない以上、犯人の近くが一番安全かもよ?」


 む、確かにイベントのボスであれば犯人にテイムされているとは考えづらい。

 これまでだって少なくても6回、犯人はボスから逃げ延びているはずだ。

 なら、何らかのボス対策を行っていると予想出来る。


 珠璃の言うことは一理あった。


 何だかんだ言っても結局のところ、俺も珠璃も怖かったんだと思う。

 かっこつけても一人で死ぬのはイヤだし、それ以上に、自分だけ助かってしまうのも。


 助かるならやっぱり二人ともに。

 だとすれば二人一緒に居た方が不測の事態でも対処法が拡がる。




「Lv10が二人なんだけど、ボス狩りに混ぜてもらってもいいかな?」


 珠璃が《ウィスパー》で犯人にコンタクトを取ると、答えは即OK。


『こっちLv5なんで、パーティーリーダーはお任せします』


 女にしてはちと不自然、男にしては妙に甲高く無理に裏声を出してる、そんな声。


 俺と珠璃は既にパーティーを組んでいて、俺がリーダーだ。

 俺はチャットの発言履歴から、犯人の発言を選んで、メニューから『パーティーへ招待する』を実行する。




『ピッ』

システム・メッセージ:グランマリエLv5がパーティーに加入しました。




 犯人の《守護霊》は《グランマリエ》というらしい。

 左上のパーティー・ステータスで表示された名前におかしい所は無い。

 普通にLv5の守護霊で、もちろん赤ネームでもなく非犯罪者の青ネームだった。


『ちわー、よろー』

「ばんわ」

「こんばんは~」


 サングラスの《パーティーチャット機能》で話す。携帯で話すより音声がクリアだし。

 上から犯人、俺、珠璃だ。


 『ヨロシク』なんて間違っても言いたく無い。

 俺はそっけなく返答する。

 犯人相手には無愛想キャラをロールプレイするぜ。


『天王洲まで来ればマップに居場所が映るんで、それ見てここまで来てちょ』

「あたしたち天王洲の近くに居るんだけど、そこってビルの中じゃない? 入れるの?」


『イベント扱いなんでクエスト中と同じで、ビルは出入り自由になってるよ』


 犯人の返事は、判るようで意味が通らない日本語だ。

 解釈すると、このクエスト結界の中であればビルのセキュリティを無視して中に入れるらしいってことか。 ある意味で予想通りだ。


 既に犯人はビルの中、ボスキャラはまだ出現してないらしく、ボスのマーカーは表示されては居ない。ここからは時間の勝負、ボスが出現する前に犯人をスクリーンショットに写すのだ。

 ボスが出現したのを目撃したら、一目散に逃げる。


 そのことをお互いに確認し合って、俺と珠璃は犯人が待つビルの中へと乗り込んだ。




 さて、犯人は何階に居るのだろうか?

 サングラスのマップは衛星視点って言うの?

 真上から見た図だから垂直方向の相対距離を把握するのが難しいんだよな。

 予知夢では、夢の中で犯人が居たのは10階あたりだと珠璃は言う。


 お、そうだ!

 同じパーティーなんだから、聞けばイイんじゃね?


「何階に居るんだ?」

『ここは10階かな? あ、エレベータは停電で止まってるから階段使ってね、ゆっくり上って来ても時間的に平気だから』


 こういう時に何を聞いてら平気で、何を聞いたら怪しまれるかが判らない。

 発言から犯人に俺たちの思惑を知られないよう注意していると、うまく話せない。


 普段の狩りの時に話してる事を話せばイイんじゃね?とか、普通にしろよ!とか思うけれど

 普通って何だ?


「なぁ、今は敵の白マーカーがマップに無いけど、どうしてビルの10階にユニークモンスターが居るって判ったんだ?」

『クエストに出たんだよ、ほらこの停電がクエストのそれだろ? おタクらはこのクエストを受けて無いだろうから、おタクらのジャーナルを見ても判らないだろうけどね』


「へぇ? 面白そうなクエストじゃん? 何て言うクエストで、どこを起点なんだい?」

『へへ、そこは企業秘密だよ、教えちゃったらレア狩りの独占にならないだろ? 自分一人だけで倒せない時にはパーティー募集するけどさ』


 犯人はクエストって言ってるけど、実際にそのクエストは存在するのだろうか?


 いや、超高レベルのクエストならいざ知らず、レベル5程度の犯人が受けれるような低レベルのクエストで《三岐大蛇Lv30ユニーク・レジェンド》なんてボスが出てくるハズない。


 嘘だとは思う。

 けれど、完全にそうだとまでは言い切れない。

 ちっ どうとでも取れる返事は、さすがに用心深いしボロを出さないな。


 9階に到達し、珠璃がそのまま10階へ上ろうとする。

 俺は《チャット機能》を、《パーティーチャット》から《ノーマル》へ切り替えると、珠璃へ話しかける。チャット機能を切り替えたから俺の声は犯人には聞こえない。


「珠璃、いざって時の逃走経路を下見しようぜ、この階はザッと見といた方がイイだろ?」

「あ、そうだね。 でもあんたってさ、いつもチャランポランなのにあんがい慎重だよね」


 一言よけいじゃ!


 犯人に何か言われたら、階を間違えた、とか言えば良い。

 そう思いつつ9階のレイアウト、非常階段の位置とかを確認しておこうと歩き出すと……


「あれぇ? 10階って言ったじゃーん、なんで9階に居るのさ?」


 慎重で用心深かったのは犯人も一緒だったらしい。

 そこには、居るはずのない犯人が居た。


「ん?ここって9階だったのか? 階を間違えちまったらしいな。してアンタはどうして10階じゃなくてここに居るんだ? ま、それはさておき『ハイ、チーズ』」


 ばれちまった以上、隠し立てしてもしょうがない堂々と行こう!

 正面から犯人のスクリーンショットを撮る。よし!バッチリだ!


「お~い何のマネだぁ? オイタするとオシオキしちゃうぞコラ? 素直に10階に行ってりゃちょっとだけ痛い思いするのが先延ばし出来るっつーの」


 うるせーよ! 何がコラだ。


 どうせなら、ついでだ!

 《Unreal Ghost Online》のパーティー募集チャットにぶっちゃけてやるぜ!


『さっき天王洲の狩り募集に応募して来てみたんだが、俺のクエスト・ジャーナルにはLv15ユニークじゃなくて、Lv30ユニーク・レジェンドが相手だって出てるんだが? もしかして、MPKかい? 《グランマリエ》のプレイヤーさんよ』


 モンスターを利用したプレイヤーキラー行為は嫌われる行為の一つだ。

 あんのじょうパーティー募集チャットでは……


『なんだそりゃ~!?』

『無理無理、それUGOで最強クラスのボスじゃね?』

『おいおい、レベル20以下が何人集まってもLv30レジェンドには勝てねぇだろ』

『それMPK決定』

『おまいさん釣られたクマー』

『募集に応じなかったオレ勝ち組』


 UGOの全員がこのチャットを見てるわけじゃないだろうけど《グランマリエ》のプレイヤーに悪評が立てば、今後何があっても犠牲者は少なくなるだろう。




 その犯人といえば……


「あったまキタ、ここまでコケにされたのは久々だよ。 それに思い出した、おタクら昼間この近くでタムロしてたヤツらだろ?」

「あたまにキテルのはこっちの方だよ! アンタさぁ、一週間前に新宿で同じようにMPKして人を殺してるでしょ!?」


「あぁ? あーあれか、刑事だったんだって? あれはサイッコーにシビレタよ」


 犯人はニタニタ笑いながらそう告白した。


「おい! お前ヒトを殺してんだぞ? わかってんのか!?」

「はぁ? そんな証拠どこに在るってんだ? 幽霊を操ってヒトを殺しましたッてか?おタクらの頭は大丈夫なのか?って逆に精神鑑定受ける羽目になるだけだろ?」


 憎たらしいことに、こちらの神経を逆立てるよう、ぎゃはははは、とけたたましく笑う。


「ちょっと! おとなしく自首しなさいよっ!」

「や~~だね、捕まえられるもんなら捕まえてみろ」


「おい、舐めてんじゃねーぞ? 手を出せねーと思ったら大間違いだからな?」


 俺は《アリアンロッド》に《エロティックリス》を構えさせる。

 現実世界へも影響力を持つこの武器ならば……

 珠璃も《メルカルト》に同じような臨戦態勢を取らせた。


「へっ、《守護霊》なんぞが脅しになるかよ、バーカ。 それにこれから死ぬおタクらにはそもそも何しようが無駄なんだけどなー?」




『『『 ブォーン 』』』


 辺りに響き渡る重い効果音。


「なんだっ!?」

「なんなの?」


「バーカ、後ろを見ろよぉ。はぁっはぁ~~~っ!」


 俺たちが歩って来た階段へ続くフロアの通路に紫に耀く不思議な形の模様。

 魔方陣!?


 俺のサングラスに、魔方陣からの攻撃予測線が表示される!

 狙いは……俺の左隣……珠璃!?


 とっさに身体を捻り、右手を珠璃の胸に手を回して体を押し倒す勢いで飛びのく。

 同時に魔方陣から"何か"が飛び出し、珠璃へ……


 《メルカルト》が珠璃をかばって間に入ったのが目に映った。




「ぅ……ああぁぁぁっ」


 誰も居ない暗いフロアに珠璃の叫び声が響き渡る。


 俺がすかさず身体を起こし、正体不明の"何か"へ視線を向けた時には、

 蠢く何かの大きな口?に咥えられ、足だけ見えていた《メルカルト》のHPが一瞬でゼロとなり、ポリゴンが爆散する所だった。


「ぁぁぁあああああっ」


 珠璃の叫び声は普通じゃ……なかった。


 俺は慌てて珠璃を見る。

 珠璃は、珠璃の右足が……


 噛み千切られたように太ももから下が……無い?

 物凄い勢いで血が吹き出ている。


 むせ返るような、絶望と虚脱感を伴う濃厚な死の臭いが、俺たちを覆っていく気がした。




「珠璃っ!」





魔法陣と魔方陣が入り乱れてたので修正しました。

エルフなら魔法陣だけど、トーコさんでは魔方陣かな。

これを機に統一します。

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