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トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
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トーコさんと長い夜④

なんか自分で納得出来ない変なところでぶった切ってしまったので、

今夜零時に続きを投稿することにします。


 その日、遅くまで残業した山本警部はいざ帰宅しようとすると、自分の部下がまだ残って仕事をしていることに気付いて声を掛けた。


「藤井、今夜も残業か?」

「はい、警部。 もう少しでまとまりそうなのでやらせてください」


「そりゃぁ構わんが、お前は毎日仕事し過ぎだからな。 身体壊さない程度にしとけよ」

「平気です、これは仕事というより、気持ちの上では趣味ですから」


 趣味ねぇ……あれほどの美人だってぇのに、仕事が趣味かよ。

 もったいないねぇ。


 山本警部は部下である藤井警部補のザンネンな返事に首を振りながら帰宅する。


 連続猟奇殺人事件はこのところ目立った捜査の進展が無く、自分を始め多くの刑事が連日の残業で働きづめである。


 今日も、コレはという重要証言の一つがその後の調査で関係無しと判断されたばかりだ。

 期待されていたネタだっただけに、捜査の力も入ったし、それゆえ、落胆も大きかった。


 結果ダメでも経過報告書は必要だ。

 疲れた身体に鞭打って、この時間まで掛かって報告書をまとめた山本は、思わず溜息が出た。

 ヤレヤレ、俺もいよいよ歳かねぇ。近頃どうにも疲れが取れんよ。

 さっき別れた若い部下の、底なしの体力が少しだけ羨ましく感じた。




 陶子は、自分が関わった事件の報告書をまとめ終えたところだ。

 今日の昼間、女性アイドルグループの一人が一日署長を行うというので警護をしてる時、その事件は起きた。


 そのアイドルの追っかけをやってる高校生が無免許で親の自動車を持ち出し、その上余所見してさらにアクセルとブレーキを踏み間違え、アイドルグループへ車ごと突っ込みかけた。


 その場で事件を解決した陶子は、その事件の報告書をまとめなければならない。


 一日署長役のアイドルに近い位置にいた陶子は、暴走し突っ込んで来た車にいち早く対応、

 車を強制的に止め、少年を無免許運転の現行犯で補導したのである。


 暴走車を『足で踏み付けて』止めてしまった陶子の対応には、その場に居た誰しもが自身の目を疑うほどの出来事で、例によって警察会見では陶子の活躍は無かったことにされていた。


 けれど、その時の目撃者は大勢おり、その瞬間の映像も残されている。

 これらが後に世間を騒がせることになるのだが、それを語るのは別の機会で。




 報告書を所轄署へ送り、本来の自分の主業務である連続殺人事件について思いをめぐらす。


「やっぱり、考えられるのは高レベルゴーストからの【霊障:バックラッシュ】か」


 天太と珠璃には《Unreal Ghost Online》は事件に無関係だと説明したが、これだけ神出鬼没で、誰にも見つからずに短時間で証拠も残さず、あれほど遺体の損壊をまねくダメージを与えているため、UGOが完全に無関係だとは言い切れない。


 殺害方法が【霊障:バックラッシュ】だとするなら……

 それは誰かに使役されてない《霊》・《虚霊》であることを意味する。


 プレイヤーの誰かが使役してる《霊》・《虚霊》であれば、スキル【霊障:バックラッシュ】の能力は喪われているのだから。


 センパイが怪しんでいたPKクラン《ビシャス・クロス》や《レイディ》では直接手を下せる位置に居ないので的外れだったわけだ。


 天太たちも、PKでは【霊障:バックラッシュ】が起きない事実を知らないのか?

 親切に教えるべきなのか、陶子の立ち位置なら放って置くのが良いのか?


 天太や珠璃が、なんのメリットもないのにどうしてPKに拘っているのか?

 本当の所は陶子には判らない。


 それとも……

 彼らは何か、あたしには言えない理由で、あたしに付きまとっているのか?

 倉庫代わりのマンションに、放り込んできた彼らを思い出し、少し微笑んだ。


「なかなか面白いヒトタチを置き土産にしてくれましたよね、センパイ」


 あそこには《奴霊化》せず、自由意志を持ったまま陶子に服従させてる《堕天使アマリエル》を棲まわせている。


 天界を追われた彼?彼女?を、こき使うことで陶子が穢れを浄化していくという契約だ。

 いつか穢れを完全に浄化出来れば、元の天使に戻れる……ハズだがあと何年掛かる事やら?


 『信じない限り誠実な』同居人の顔が脳裏に浮かぶ。

 信じたとたん裏切るのが堕天使というモノだが、それさえ押さえておけば有能なサポーター役である。


 とりあえず今夜のところは、天太と珠璃に何かあれば連絡するように言い聞かせてある。




 それにしても、高レベルな野良《霊》がウロウロしているならば、プレイヤーの誰かが目撃しても良さそうなのだが……UGOの《エリア・チャット》や《ハンティング板》など、ユーザー・コミュニティーの何処にも、それらしい目撃情報や狩り情報は載ってなかった。


 その《霊》の移動が、誰かの目に触れるような方法や時間帯では無いのかも知れない。


 もしかしたら、たまたま運悪く、目撃してしまった人物がそのまま犠牲になっているのか?

 在り得る話だが、十中八九それだけではあるまいとトーコは考えている。


 この広い東京で、センパイがバッタリその《霊》に出会ってしまう確立は無いに等しい。

 誰かが悪意を持って、その《霊》を利用している可能性は高いだろう


 利用するとしたら一体どうやって?


「……予知」


 もし、犯人が珠璃と同じように予知系のスキルを持って居たならばどうだろう?


 神出鬼没な《霊》の動きを予知して、そこへ先回りし、何らかの方法で、例えば狩り募集などで誰か他人をその場所へ誘き寄せる。そこへボス・モンスター級の《霊》がやってくれば立派なPK行為の出来上がりとなるはずだ。


 チュートリアルで説明しないせいなのか、天太や珠璃は気付いてなかったけれど。

 プレイヤーはLv5まではシステム的に保護されるのがUGOの仕様だ。


 Lv5まではイベント・ボスやPKからはシステムの保護機能が働き、襲われない・襲えない仕様となっているのが《Unreal Ghost Online》だ。


 珠璃が犯人なら話は簡単だが、可能性としては著しく低い。


 重犯罪のケースでは、被害者の知人が真犯人であることが圧倒的に多い、そのことは過去の数値が物語っている。ならば、今回のケースでも珠璃と同じ能力を持っていると考えるより、シンプルに考えれば珠璃こそが、この事件の犯人である可能性も無くなったわけではない……


 ならばこそ、今の時点で珠璃の耳に捜査情報を入れるのはマズい。

 しばらくの間は、珠璃との接点も出来たことだし、このまま泳がせておくのが良いだろう。

 なぜ彼らがあたしに付きまとうのかも、それも見えてくるだろうから。


 UGOのサングラスを取り出して目の前に掲げる。

 これが役に立てばもっと楽に捜査が進むのに、と考えため息をついた。


 陶子は、サングラスのシステム・メニューから《GMコール》を幾度と無く試してみたのだが、応答が全く無かったのである。


「GMだったら、もっとお仕事するべきだと思うのよね。他のゲームだったらコレものよ?」


 指を真っ直ぐ伸ばして自分に向け、首の前で水平に動かした。



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