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トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
34/51

トーコさんと長い夜①


 ♪♪♪~


「あたしのメール」


 珠璃はスマホを手早く操作してメールを確認すると


「あ、うちの家族今夜は皆でお出かけだって。 これじゃぁ帰っても独りになっちゃう」


 独りになっちゃう、をやたら強調した珠璃は期待感を込めてトーコさんをチラチラ見る。


「言っとくけど、あたしはこの後本庁へ戻って仕事を片付けないといけないの」


「え~~っ!? 今日はもうお仕事終わりで良いじゃないですかぁ~っ」


「ダメダメ、こうしてる今だって仕事を途中で抜け出して来てるんだから」


「う~、それじゃ……徹夜でお仕事ってわけじゃないんですよね? なら、明日の朝食には腕を振るっちゃうんだけどなぁ?」


「あのねぇ、未成年者を泊めるわけには……」


 トーコさんはそこで口を閉じて、何かを考えてる。




「そうね、深夜になってから未成年者を帰らせる方が非常識よね、判ったわ。

 その代わりに、天太っ」


 え? 俺?


「はいはい?」


「あんたも一緒に泊りなさい。ただし部屋は別々よ」


 まじかっ!?

 なにこれ? 棚からドラヤキ?(注:正しくは、ボタモチ)


「了解ですっ!! こんなこともあろうかと何時も持ち歩いてますからっv」


 財布からソレを取り出そうと、チラっと引き出したところで、


「そんなに永眠したいの?」


 しょぼ~っん

 しかたなく、俺はソレを財布に戻す。


「使いもしないくせに財布に入れとくなんて、見栄張っちゃって(くす」


 く、くそっ/////

 珠璃のやつぅ




 トーコさんは国立府中インターに降りて、中央道上り線へと乗り換えた。

 ここからなら珠璃の家は目と鼻の先なのに、どうした心境の変化なのだろう?




「トーコさんの好みの男性ってどんなタイプですか?」

「ん~? そんなの聞いてどうするの? まぁ良いけど。

 そうね、理想はフランシスコ・フィリォとか、グラウベ・フェイトゥーザかな?」


 誰? それ……


「ごめんなさい、誰なのかワカンナイ」

「む~、最近で言うならエヴェルトン・テイシェイラか、タリエル・ニコラシビリとか?」


「ますます判んない……」

「テイシェイラ様を知らないなんて! カラテ世界選手権を制覇したあの雄姿!」

(注:小説のタイミングは、2011年世界選手権でニコラシビリ選手が優勝するより前です)


「知らないです……あ、でもカラテ家なら、ジャン・クロード・ヴァン・ダムとか、ドルフ・ラングレンとかなら知ってますっ」

「いいわね! そんな感じなら、誰でもおっけぇよ」


 な、なんだってぇ!


「はいっ はいっ 俺、俺、立候補!!」


 トーコさんも珠璃も無反応……

 くそっ、ガンバレ、俺。


「誰でもオッケーって言う人ほど好みがうるさいんですよねっ」


 それじゃぁ例えば、と珠璃は続ける。


「トーコさん、このビーエム選んだとき、どうして国産車選ばなかったんですか?」


「また唐突な質問ね、国産の高級車って呼ばれてる車でもね、コストダウンの跡がどうしても目に付いちゃうのよねぇ」


 いわく、ドアを開けた時の足元にあるロゴ、国産車はプラスチックの安物を貼付けてる

 いわく、ドアシールドのゴムパッキンの空気穴を国産車は隠そうともせず手抜きである

 いわく、トランクリッド金具、国産車は危険な凸そのままにして大変危険な設計である

 いわく、座席に座った視点から見えない場所の処理が非常に雑である

 いわく、板金の余った部分の処理が皺となって見苦しい、外国の高級車ならあり得ない

 いわく、ワイパーや、車体下のもろもろがゴチャゴチャしてて美的センスがまるで無い

 いわく、純正キャリアのサーフボードアタッチメントに金属凸を平気で付ける無神経さ

 いわく、……

 いわく、……


 でるわ、でるわ。

 国産車のコストダウンありきで普段気付かない所の処理甘さを次から次へと指摘する。


「なるほどっ、いまので結局トーコさんが好みに五月蝿いって十分判りましたv」


「……自分でもそう思ったわ/////」




「そもそも、トーコさんは草食男子とか相手にしなさそうですものね」


「草食男子? ナニそれ? そんな生物、あたしの周りじゃ見ないなぁ(・・・・・)


「あれ?トーコさん草食男子知らないの?」


 無視され続けて話に混ざる機会を狙ってた俺は、ここぞとトーコさんに教えてあげる。


「草食男子ってのはね……」

「天太、トーコさんが言ったのは、眼中に無いって意味よ?」


 げふぅぅぅ、なんてこったい!!


「ふふ、天太の知ったかぶりの顔が面白くて言い出せなかったわv」


 トーコさぁ~~~っん






「「おじゃましま~~っす」」


 マンションの最上階ワンフロアが全部トーコさんのお家って……


「ここはね、警察官は官舎に住むのが原則だから、倉庫代わりにしてる場所なの」


 ここが倉庫……


「なんて贅沢な倉庫なんだ」


 リビングには、ガラス張りの大きな棚が目立つ場所に置かれている。


「うわー、キレイなナイフが並んでるね。トーコさんってナイフ収集でもしてんの?」

「そういうワケじゃないんだけど、結果的にそうなっちゃったかな?」


「これなんて、特に綺麗」


 ナイフのことなんて何も知らない珠璃も、波紋が綺麗なナイフを指差してる。


「それはね、インドネシアの短剣で《クリス》って言うの。 ウンプっていう本物の職人さんに作ってもらった物だから、霊的なパワーがあるのよ」


「本物って、ニセモノもあるんだ?」


「そうね、霊的パワーが欲しいなら神様・仏様を正しく奉って、自分自身穢れを祓った鍛冶師さんに作って貰わないとダメね」


「こないだの銀の鈴も?」


「ええ、あれはコネを最大限に使って、どうにか人間国宝と呼ばれる方の過密スケジュールを何とか空けてもらって創って頂けた物だから。量産品だとどうしても、そこらの工房で作られちゃうから霊的パワーなんて望むべくもないわね」




 俺は、ガラスのケース内に収められたそのクリスを取り出し、カッコ付けて構えてみせる。


「どう? トーコさん、こんな感じ」


 ぴゅんぴゅん、と振り回した。


 それを見たトーコさんは、俺にツカツカと近付いてくると……

 左手で、クリスを握った俺の右腕を掴み上げて、

 右手を、掲げ上げた俺の右手に向かって振り下ろした。




『ガチャ』




「え?」


「柏木君、貴方を銃刀法違反で逮捕します」

「えぇーーーーーっ!?」


 俺の右手には手錠が掛けられていた。


 思わず、珠璃を見ると、


「アホだ……」


 両手のヒラを上に向けて広げ、首を横に振ってる姿が見えた。


「ちょ……ちょっと待ってよ! トーコさん」


「柏木君、刃渡り15センチ以上の刀剣類を所持するには相応の理由と届出が必要なの。もちろんあたしは祭礼に用いるからって届出をしてこうしてケースに仕舞っているから平気だけれど、貴方のように手に持っちゃうと携帯と見なされるから銃刀法に違反しちゃうのよ。


 知人を逮捕しなければならないなんて……残念だわ」


 俺はワッパを掛けられた右手を見ながら呆然とする。


「ウソぉ……」


「うん、もちろん冗談よ、天太」


『カチャン』


 どうやったのか、一瞬で俺から手錠を外して、それを指でクルクル廻すトーコさん。


「家の中で手に持ったからって携帯とは見なされないから大丈夫よ」

「まったく、アホだ……」


 そのくらい普通に気付け、とばかりに珠璃は呆れた風に首を横に振っている。


 と、トーコさぁああ~ん!!




「天太はこっち使って。珠璃はこの部屋ね、ドアには鍵が掛かるから」

「当然ですねっ、天太に襲われちゃうもの」


 珠璃はちらっと俺を見て、ふふん、と哂いながらのたまった。


「それと大事なことだけど、向こうのあのドアから先へは絶対入らないで、良い?」

「わかりましたトーコさん。天太が入らないよう見張っときますね」

「絶対に入らないから大丈夫さ」


 昔話にもあるよな、こういうの。

 ツルの恩返し、見るなの座敷。

 共通するのはタブーを破ってしまうと破局が訪れること。


 俺、子供の頃から不思議だった。見るなっつーんだから見なきゃいいじゃん?


「トーコさん、どこかへ出かけるんですか?」

「あたしはまだお仕事が残ってるのよ。この家の鍵をここに置いておくから、明日帰る時に鍵閉めて帰ってね。鍵は1階にあるこの部屋のポストに入れとけば良いから」


 そう言ってトーコさんはカード型のキーを置いて、再びお仕事へ出かけて行った。


 親切心で泊めるほどトーコさんは御人好しじゃない、きっと何か狙いがあるのだろう。

 それが何なのかは判らないけれど……


 それはそれ、これってチャーンス、だよなっ!?



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