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トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
26/51

トーコさんとレイディと星の王子サマ③


「大丈夫か? 珠璃」

「ぅ……」


 俺はボスを睨んだまま、背後の珠璃に声を掛ける。

 どうやら生身で吹き飛んだことで相当なダメージを受けたようだ。

 珠璃も心配だけど、今はまだ邪霊の追撃に気をつけないと。


 それにしても……


 さっき珠璃は、邪霊《侍大将》から直接(・・)攻撃を受けた。

 俺自身、ボスらしいボスとの戦いは初めてだけど、そこらのザコ霊相手とはのっけから違いすぎる。


 やっぱり《Unreal Ghost Online》プレイヤーは、たとえこちらから攻撃しなくとも、ボスから攻撃を受けちまうってのは間違いない。


 俺が知ってる限りじゃ、ボス以外の《霊》ではアクティブ・ゴーストであっても、いきなりプレイヤーを襲ってきたりはしない。


 まず最初に《守護霊》と戦い、その後でプレイヤーを襲う。

 《守護霊》をすっとばしてプレイヤーを最初から襲わないのは、システムが働いてプレイヤーを保護しているんじゃないか?ってチャットで考察が出てる。


 ボスにはその"常識"が通じない。

 やっかいだな。


 俺たちが邪霊と敵対する限り何が何でも《守護霊》で自分の身を護らないとならないワケだ。


「珠璃、しばらく休んでろ」

 まだ起き上がれない珠璃にそう声を掛ける。

 チキンな俺と違って《アリアンロッド》はいつだって戦える状態にある。


 さーて、どう戦うよ?

 珠璃を吹き飛ばしたあの技に気をつけながら、あとは刀をどうにか避けて……


 《アリアンロッド》ならともかく、俺が本職の侍が振る刀を避けるとか器用なマネが出来るとは、我事ながらとても思えない。

 このプランは無理だ。




 手出しあぐねいていると、由里はまた海に向かって歩き出す。


 マジかよ。

 敵は俺たちより何倍も強いのに、肝心の護るべき相手は自分から死のうと行動する。

 どこの無理ゲーだって。


 くそっ 悩んでる暇なんてないか。

 とりあえず、今はっ


 俺は上体を前かがみにして、由里へタックルするように腰にしがみつく。

 俺を排除しようとする邪霊は、俺に向かって刀を振り上げた。


 《スニーク・アタック》

 当たり前だが、邪霊の刀なんぞを自分の体でまともに受け止めたいとは露ほども思わない。

 スキルのクールタイムを終えたアリアンロッドの技で、刀を振ろうとする邪霊を妨害する。


 すかさず俺は腰に抱きついた形の由里を、サイドステップしつつ自分の身体を中心に遠心力を利用して、海から遠ざかるよう由里を数mほど放り投げた。


 意識がハッキリしてないだろう由里は、投げられて地面を2回ほど転がって止まる。

 これで擦り傷とか出来ちゃうだろうけど、あとであやまる! 死ぬよりはマシだろう。

 つーか、この衝撃で目が覚めてくれないかね?


 白地に花柄でカラフルに彩られた由里のミニスカートがめくれあがってお尻が見えている。

 こんなときでも俺の目は吸い寄せられるように由里のお尻に目がイク。


 むむ、白にオレンジの横縞。

 こっ これはこれで……


 視界スクリーンショットを撮ってとりあえず保存する。

 お宝は命より大事なんだよ!

 そして、由里が起き上がるまでの数秒間、じっくり堪能してから気付いた。


 まてよ?

 いま、邪霊はなんでこっちを攻撃してこなかったんだ?

 俺スキだらけだったよな?




 ……………………………………………………………………………………


 !! もしかして?


 由里に取り憑いてるからか!?

 あいつ、由里の背後頭上から届かない場所には攻撃できないんじゃ?


 なら、近付かないようにして……

 だめか、それじゃ膠着状態になっても由里を助けられねぇ。


 そこまで考えて気付く。


 ん? よく考えれば。

 俺がいまやるべきことは、


 俺自身が怪我を負わないこと。(戦うにしても逃げるにしても怪我したら出来ないからなっ)

 傷付いた珠璃を護ること。(偽善者じゃないから、命を掛けて護るよ、なんて事は言わねぇ)

 可能なら由里を助けること。(最後の最後の選択支としちゃ俺と珠璃の命には代えられない)


 無理に邪霊に勝たなくても良いんじゃないか?

 そうだよ、時間稼ぎって選択肢だってあるじゃん?

 トーコさんが来るのを待ってから対応したって遅くないぜ☆


 そう考えれば、なんか、気持ち的に楽になった。

 気持ちに余裕が生まれた俺は、倒れたまま起き上がってこない珠璃を心配して後ろを振り向き、様子を確認する。


 ……珠璃もパンツ丸出しだった……濃い紫のオシャレなパンツ。

 とうぜん俺は珠璃のパンティーもドアップの視界スクリーンショットでお宝に加える。


 ついでに俺自身の『やる気アップ』のために、その写真を視界の隅に置いておいた。

 よぉっし。ミナギッテキタぁぁぁぁあああ~~




 なぁ~んて調子に乗ってた時代が俺にもありました。


 邪霊は刀を上に掲げると声高に叫ぶ。

『おのおのガタ、今コソ我らガ結束ヲ見せるトキぞ!』


 やられたっ

 トーコさんから言われてたあれだ。


『固有名詞でリーダー格を名乗っている場合には手下を召喚してくる可能性があるから』


 倒れたところからようやく頭を持ち上げた由里の左右、何かがボンヤリと浮き上がって来た。

 左側のはいかついオッサン、身体のあちこちに矢が刺さり左足は折れ曲がり引き摺ってる。

 右側のは女のような少年小姓でイケメン。 ただし、喉の所がパックリと切り開かれてる。


 ん? HPバーが普通よりも短いぞ?

 《邪霊:Lv10マイナー・エリート級》が2体か。

 おそらくHPが低くて倒しやすいけど、攻撃力はしゃれにならんってヤツなのだろう。


 新たに出てきた霊は2体とも視線は宙をさまよい虚ろだ。

 持ってる刀は錆びだらけで、小姓にいたっては途中で折れている。


 その2体はゆっくりではあるが、確実に俺に近付いてくる。

 《メルカルト》が居てくれたら……もう一度と珠璃を見ると、まだ倒れたままだ。

 地面に伏せてる形なので、顔色が解らない。

 大丈夫だろうか? 今は信じるしかない。




 えーいっ ままよっ


 どっちかというと見た目が弱っちそうな少年小姓を先に倒すことに決め、アリアンロッドで蹴りを入れる。

 とたんに反応し、アリアンロッドを挟み撃ちにしようとするオッサンと小姓。


 囲まれてたまるかよっ

 俺とアリアンロッドは、倒れたままの珠璃へ攻撃の矛先が向かないよう、俺から向かって右手側、小姓の方へと回り込む。


 オッサンと小姓が一直線になり、同時に相手するのが1体ずつとなるような形へ持って行く。

 狙い通り、2体とも俺とアリアンロッド狙いで迫ってくる。


 小姓にチクチクダメージを与えるが、このフォーメーションでは小姓の後ろに回りこめない。

 アリアンロッドが、オッサンに背後を取られちまうから。


 錆びた刀とは言え、当たれば痛そうじゃん?

 まずは小姓のHPを削らにゃ。


 小姓は折れた刀を振り回すが、そんなもの俺のアリアンロッドに当たるかよっ!

 マイナー級の少ないHPなので、チマチマでもなんとか半分削ることが出来た。


 その時だ、いつの間にか立ち上がっていた由里が、再び海へ向かって歩き出すのが見えた。

 気付いた俺は、急いで2体を中心に円を描きながら、なんとか由里の方へ走りよろうと……


 と、由里がクルリとこちらを向き、さっきとは逆に、俺に対してタックルを仕掛けて来た!?


 うぉっ


 そうくると考えてなかった俺は、ギリギリで由里のタックルを避ける。

 由里の背後に居た侍大将がすかさず刀で切りつけようとしたが、そっちは俺の予想内だ。

 タックルを避けた勢いでそのままバックステップ。


 しまったっ

 コッチは……


 背後を振り向くと、オッサンが俺に対して刀を振り上げている。

 この距離だと避けられない!

 手で頭をガードしながら、なんとか飛びのくも……

 オッサンは振り上げた刀を、俺のガラ空きの逆胴を狙ってカーブを描いて振り下ろす。


 まさに刀が俺に当たる直前、そんなことを命じてないにも関わらずアリアンロッドが俺を庇って間に入り、刀に切られた。

 愛!? アリアンロッドの愛を感じたぞ!


 ズドンッ


 横薙ぎに振られた刀は錆び錆びでアリアンロッドの身体を切るには至らなかったが……

 なんせ材質は鉄。本職の侍の本気の一撃。

 【霊障:バックラッシュ】で、俺の意識は容易くトんだ。


 顔面を地面に擦りつけ、その痛みが無かったらそのまま意識を失っていただろう。

 気付けば、地面に顔をつけてる。


 最悪なことにサングラスが飛ばされて無い。

 周りは暗く、こんな中でサングラスを探せるのか?

 一瞬、血の気が引いた。




 けれど……

 よかった、運はまだ俺を見放しちゃいない。

 目を凝らしてよく見れば、俺の手に届く場所にサングラスがあったからだ。


 急いでそれを拾い、顔に掛け素早く立ち上がる。

 顔が色々とヒリヒリして痛ぇ。

 だいぶ擦り傷が出来たようだ。


 近付いてくるオッサンに向かって、クールタイムが過ぎてる《スニーク・アタック》をアリアンロッドに指示した。


 だのに、どうしたことか?

 《アリアンロッド》が反応しない。


 え?


 なんで!?

 俺は必死になってアリアンロッドに指示を出す。

 でも……彼女は全く動こうとしない。


 うそだろ!?

 壊れちまったのか?


「天太! 大丈夫? ごめん、あたしも戦うよ!」

 ダメージから立ち直ったんだろう珠璃からそう声が掛かった。


 だけど……


 肝心のアリアンロッドが動かないんじゃ、これ以上は戦えない。


 動け! 動け! たのむ、動いてください!

 俺は必死にアリアンロッドを動かそうとする。




 システム・メッセージ:《アリアンロッド》の操作権限がありません。




 マジで壊れちゃったのか!?


「ダメだ、珠璃、逃げよう!」

 ここに至ってはもうソレしか手は無いだろ。

 珠璃が独りで戦っても勝てるとは思えない。


「逃げる?」


 その声に、なぜだか、ヒヤッ とした。

 珠璃の声が今まで聞いたことないほど、低い。


「今、あんた逃げるって言った?」


 ズガッ


「ぐあぁぁっ」


 後ろから……珠璃に蹴られた!?


「なっ なにを……珠璃っ」

「オメ~は此処で死ね! って言うか、あたしがあんたを東京湾に沈めてやるっ!」


 珠璃は……珠璃は怒りのオーラに包まれてて、その顔はとても怖い。


 前には《邪霊:侍大将》

 右にはオッサンと小姓の邪霊コンビ

 左は、東京湾

 後ろに鬼の形相の珠璃。


 なにこの四面楚歌。

 俺、ここで死ぬのかな?



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