表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
22/51

トーコさんの裏事情③


 道着に着替えた陶子は、朝稽古のために道場を掃除しながら自身の事件への関わり方について考えていた。


 警察官となってから今までは《Unreal Ghost Online》のスキルを捜査の証拠集めに利用しては来なかった。現実世界で認知されていないゲームのスキルで得られた証拠は、証拠として採用されないためであるし、捜査で楽をしたいと思っているわけでも無いからだ。


 それに……

 まだ大学生の頃にAMGハンマーを振り回した件も含めて、つつかれたくない藪も多く、その時のアリバイ工作にUGOのスキルを使っていたのも事実。


 それについては、そもそも自分はセイギノミカタなんて物ではなく罪の意識もカラッキシ無いが、警察官という水が性に合ってる今となってはカミングアウトするわけにも行かないのだ。


 それでも相手が予知能力者なら、自分もそれなりの対応を行わないとダメかも……


 さてと、朝稽古にぼちぼち人が集まってきた。

 警察官(さつかん)の他に強化合宿中の学生さんもチラホラ見える。

 掃除を終えると同時に思考を切り替え、稽古のために身体をほぐす。




◆◆◆


 猪狩警視長が同室の伊藤巡査を連れて、その日たまたま覗きに赴いた道場で、スタイルの良い女性警察官が投げられ続けているのが目に留まった。


 あれはたしか藤井警部補だったか?

 キャリア警察官採用時の調査表にミスキャンバスやら、身長に占める股下が50%超などモデルと見紛うプロフィールがズラリと並び、職を間違えたのでは?と話題になったのは記憶に新しい。


 身体の線は細いし、あれではガタイの良い格闘技を得意とする男衆に混ざるのは無理だろう。

 そう思いながら眺めていると、奇妙な点に気が付いた。


 柔道において過去国体や社会人大会でその人在りと恐れられた猪狩警視長の目には、一方的に投げられ続けている陶子は全然疲れを見せないし、ダメージも受けてないことを見抜いた。


 逆に投げる側の人間が疲弊して交代しているほどである。


 格闘技の勝ち負けは実力で決まる。

 猪狩警視長の持論であるが、見たところ陶子は実力的にたいした事が無いので投げられている、そこまでは良い。


 だが、投げられた後の陶子の動きが人間離れしているのだ。


 投げられる直前までド素人に毛が生えたような陶子は、投げられた瞬間、宙に居る間に姿勢を入れ替えて畳みでの受身を完璧に行っている。

 どれほどの勢いで投げられても、畳みは「ポン」と気の抜けた音を響かせるのみだ。


 そこに気付いた猪狩警視長は、陶子へ声を掛けていた。

「藤井、どうだ?」


 もちろん陶子に嫌は無い。

「オスッ、胸をお借りします、警視長」




 最初の一本は様子見だ。

「柔道でやったら俺の圧勝だろう、好きに攻撃してこい。打撃技でもいいぞ」

「オスッ、お言葉に甘えさせて頂きます、警視長」


 猪狩警視長はお互いに礼を行い準備が出来ると、すぐに「はじめ」と開始の合図を出す。

 陶子は後屈立ちの構えから足技主体で警視長を崩そうとする。


 やはり、な。


 警視長は、予想通り陶子の攻撃に力が足りないことをすぐに見抜く。

 蹴りは両手の回し受けで簡単にさばける。

 悲しいかな体重が軽すぎて技に威力が無い。


 うかつに近寄れば捕まえられて投げられることを知っている陶子は、このまま足技で距離を保ちながら攻撃を続けるつもりであることも見れば解る。


 右足での中段蹴りから、引いた右足で上段へ回し蹴りへの連続蹴りにスイッチしてきた。

 それも受けると、右の後ろ回し蹴りへと流れるような連続技に繋げて来る。


 まるで教科書のようにバランスを保ったままの蹴りだ。

 形の演武ならどこの大会に出ても良い成績を残せるだろう。

 実際、今の後ろ回し蹴りなど当たれば相当の威力だ。


 ま、俺には当たらんがな。


 後ろ回し蹴りを強引に受け止め、背中を見せたままの陶子を捕まえるべく一歩前に出る。


 !!


 おっと危ない、サソリ蹴りか!?

 背中から近付く俺のさらに背後から頭部を狙って、サソリの様に後へ蹴り上げてくる。

 後頭部を狙うその足をウカツに手で防げば、開いた脇腹に猿臂(ひじ)が突き刺さるだろう。


 やるじゃないか。


 陶子の技は美しい。

 それは長年の修練の賜物であるから。


 体育会系の警視長は、ひたむきな自己鍛錬を行う者が好きだ。陶子はそれだけの努力をしても体格という理由で男に勝てない点がさらに良い。

 努力は必要だ、たとえ女であろうとも。ただし男を上回るのはヨロシク無い。


 微妙に男性上位で上から目線であるが、警視長はすっかり格闘技の教官モードで、娘のような歳の陶子の技をあえて引き出してやってるんだ、などと油断していた。




 陶子は右足でこちらの関節を狙って蹴りを放ってくるが、それは左足で受け止める。

 そのまま引いた右足で今度は上段回し蹴りを放ってきた。

 先ほどと同じ攻め方だ。


 ふむ、そろそろ攻めのバリエーションが尽きたか?

 左手で軽く受け止めてやろう、そう考えたときだった。


 ガッツッ

 いきなり側頭部に衝撃が走った。受け止めるつもりの右の回し蹴りが当たったのだ。


 ぐおっ

 同時に陶子が何をしたのかも判った。

 それまで陶子は背足(※1)で蹴っていたのに、この時だけ中足(※2)で蹴ったのだ。


 ※1)背足:足の甲を下に伸ばして、足の甲の部分で蹴る方法。

 ※2)中足:足の甲を上に曲げて、足裏の指の付け根で蹴る方法。足はL字の形となる。




 くそっ、油断した。


 悔やんでも時すでに遅し。

 さらに腹が立つことに、陶子は自分の頭を蹴りで捉えると同時に足を止めていた。

 憎たらしいことに、ワザと威力を抑えましたとアピールしているのである。


 陶子の体重の軽い蹴りなぞ耐えて逆襲すれば良いだけだが、技を止められてしまってはその機会は永遠に来ない。陶子は勝ち逃げしたのだ。


「大丈夫ですか? 警視長?」

 などと可愛らしくこちらを気遣うフリも忘れない。


 そもそも相手もキャリアなのだ、自分が不利にならないよう幾重にも手を尽くしてくるし、この程度でこちらを本気で心配したりするほどヌルイ相手ではない。


 全ては油断した自分が悪い。

 まぁ、良いさ。


「一本目はしてやられたな。二本目はやはり組み技でやろうか」

 自分の土俵に引っ張り込めばいかようにもやりようはある。


 少々……かなりセコイやり方だが、実を取るのがキャリア本来のあり方というものだ。

 やられっぱなしで終るようなヤツは警察キャリアには居ないぞ。


 猪狩警視長は二本目をさすがに気合込めて陶子と相対する。



やば、道場内で「はい」は無いわ。

コッソリ直しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ