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トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
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トーコさんの裏事情②


 いつもならこの時間は官舎で寝てる陶子は、今日に限っては早朝から本庁で働いていた。

 もう少しで朝の6時、着替えて道場を掃除していれば朝稽古にちょうど良い時間となる。


 午後からTVタレントが一日署長するからと警備の仕事を行わなくてはならない。

 そのため必要な業務は午前中にこなさなければならず、今から準備しておく必要がある。


 刑事部のあたしがなんで警備の仕事をしなければならないのか。

 などと思わなくもないが、上が決めたことだ。

 どうせまたお偉方のミエなのだろう。

 見栄えのする女性警察官をタレントの後ろに並べておけばTVに映えるからと。


 トゥルルルル、トゥルルルル……

 こんな朝早くから連絡を寄越すなんて誰かしら?

 携帯を取り出すと画面には『柏木天太』とあった。


 相手はヘンタイ君か。

 自分の中では彼の呼称はもう固まってる。


「はい、藤井です」

「チューッス、柏木です。トーコさんに折り入って頼みたいことがあるんスけど」


 夕べ出逢ったばかりで、もう頼みごと?

 あつかましい態度に呆れて物も言えないけど、こういうのは嫌いじゃない。


「あら、何かしら?」

「実はトーコさんに写真のモデルになって欲しくて、ヌードなんですけどダメですか?」

 ブチッ ツーツーツー……




「バッカじゃないの!?」

 何考えてんの? あの子。


 そもそも出逢いからしてあり得ない。

 いきなりスカートの中を盗撮してくるってどういうの?

 見えないフリしてるから黙ってただけで、アンタのやってることなんてお見通しだっつの!

 あの場で鉄拳制裁した方が良かったかしら?


 トゥルルルル、トゥルルルル……

 懲りずにまた掛けて来た。

 通話ボタンを押し、


「キミのやってる事は犯罪行為よ。出逢ったばかりの女性へ非常識な時間帯に電話を掛け破廉恥で相手の嫌がる話題を故意に行っている。この番号消去するわね」

 かなり本気で頭に来てたから、電話を切り、即座にヘンタイ小僧の携番を消去しようとする。


「うわ、待って待って! 珠璃が予知夢を見たとかで、その内容を相談したかったんスよ」

 予知夢?

 甲田珠璃が?


 夕べ出逢った甲田珠璃の容姿を思い出しながら、ヘンタイ小僧へ返答する。

 頭の中では事件の目撃情報との一致点を確かめながら、自分なりの推察も含めて。


「……予知夢?」

「ええ、友達が自殺する夢を見たから、一緒に助けてくれって」


「いつ? どこで? 友達の名前は?」

「あ……そういや聞いてねぇ……」


 聞かなかったから言われなかったのか。

 それとも、そんな事実は最初から無く、甲田珠璃の作り話である可能性もあるか?




 彼氏彼女だと思ってたけれど、聞けばそうではなく、2ヶ月前に知り合ったばかりだと言う。

 一連の事件では、不確かな目撃情報として金髪で170cm以上の大柄な女性、という物があった。

 さらに、えてして重犯罪では顔見知りの犯行であるケースが多い。


 そして、肝心なのは被害者全員が《Unreal Ghost Online》プレイヤーだったということ。

 それは陶子だけが知る情報だ。


 彼らがUGOプレイヤーだったという証拠は何も残っていない。

 UGOのサングラスが残されていたのはセンパイの時だけで、他は日記の中でUGOらしき事に触れられていたケースが一件在っただけ、残り五件ではUGOに関わる事実は出てない。


 けれど、


 何の事はない、たまたま陶子は彼ら7人全員を見知っていた、というだけだ。

 この東京にUGOのプレイヤーはせいぜい数百人。

 入れ替わりも激しく、ここ1~2年で新規参加したメンバーまではさすがに知らないけれど。


 そして、予知夢。


 陶子自身は予知系のスキルを持ってないけれど、もし、予知などと言うスキルを保有しているなら、一連の連続殺人事件で考えられる殺害方法が、ひとつ存在する。




 センパイや柏木君はPKを怪しんでいたけれど、他ならぬ陶子だけはこの事件を赤ネームが直接手を下したのでは無いことを知っている。


 被害者の遺体の損傷から、現実の猛獣がやったのではなければ、UGOの《霊》《虚霊》が行う【霊障】の類だ。


 【霊障:バックラッシュ】の他にも【霊障:ダメージスタン】【霊障:オーバーキル】。

 これらのスキルはMobいわゆる敵性NPCのみが保有するスキルである。


 《守護霊》へダメージを与えると同時に、プレイヤーへもダメージを与えるこれらのスキルは、物理的に説明できない傷であろうとも、あり得る話なのだ。


 この【霊障】スキルを持つゴーストを《捕獲》して《奴霊》化しても、ヒトに使われるようになった時点でこれらのスキルを喪ってしまうのがUGOの仕様だ。

 だから赤ネーム《守護霊》のスキルでは、ああした傷を遺体に残せない。


 イベントで現われるボス級はクランのメンバーが監視していて、低レベルなプレイヤーが不用意に近付けないよう注意を払っているけれど、ランダムにポップするボス級には対応しきれない。

 予知が出来るなら、そういった監視漏れしたボスをプレイヤーにMPKすることだって可能だろう。


 まだ甲田珠璃がクロだという確証は全く無い、どちらかと言えば空想レベルに近い。

 それでも……現時点において一番犯人に近い位置に居るのが甲田珠璃だ。

 柏木から話を聞けば聞くほど、甲田珠璃が怪しく思えてくる。


 目撃情報に一致する容姿、被害者とも顔見知りで、予知能力もある。

 この東京におそらく数百人しかいないUGOプレイヤーの中で、この条件を満たせる者が果たして何人いるだろうか?


 危険だわ。


 思わず、これから甲田珠璃と会うというヘンタイ小僧に警告を与えた。

 けれど、下手な事も言えない。

 言えば本当に甲田珠璃が犯人だった場合に、警戒感を植えつけてしまう。


 それなら。

 あたしは、ヘンタイ君と朝稽古の後で会う約束をして電話を切った。



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