トーコさんと赤ネーム①
「この銀の鈴はね、人間国宝とまで呼ばれた方に無理くりスケジュールをあけて作っていただいた物なの。 日々のお祈りと禊それに精進潔斎を欠かさずしていらっしゃる方だから、創作物に穢れが一切なくて、ゆえに魔を祓い霊を遠ざけるのね」
「へ~~、だからプレイヤーメイドでも無いのにUGOのアイテムとして認識されるんだね。なら、そのヒトに武器を作ってもらうことって出来ないかな?」
「それは無理でしょうね、とても忙しい方だから。 穢れを清めて鍛冶を行っている方は今の日本にはとても少なくなってるの、そういった方々にはあちこちからの依頼が絶えないのよね」
「やっぱ、だめ……か」
「そもそも、柏木君が刀なんて持ち歩いてたらタイホしちゃうわよ」
た、タイホ!?
『ねぇ、天太ぁ、アナタの逞しいカタナを早くあたしの鞘に収めてぇ~んv』
『ふふ、俺のはカタナというより、キミの官能を叩く槌さ(きらーん)』
『ぁあ~ん、槌大好きぃ~ マウントポジションでぎゅっとしちゃうぞ~v』
『慌てないで、ゆっくりタイホしてくれよ』
『ぅふふ、ほぉ~ら、捕まえちゃうわよ~んv』
『くぉ、こんな奥まで捕まったら、もう抜け出せないz『ズドッ』 「ぐふぉっ」
「柏木君の脳内に棲んでるあたしは、どんだけ痴女なわけ?」
「@*$#5=:;!!」
正拳が……み・ぞお・ちにはぃ……った。バタン。
「考えてる事をそのまま口に出すバカは救いようがないね」
珠璃ぃ~、せめてフォローしてくれよ。
「ふーん?」
トーコさんはアニキから貰った指輪をしげしげと眺め、
そして指から指輪を抜き取り、珠璃に渡してしまった。
「ぇっ? えっ?」
「あげる」
えー? アニキの遺品みたいなモノじゃん、渡しちゃうの?
「もらえませんよぉー、刑事さんからのエンゲージリングでしょー?」
「いちおう言っておくと、それレッド・ダイヤモンドよ。 3カラットくらいかな? たぶん5千万てところかしら? ホンモノだったら、だけど」
「「 5せんまん!? 」」
あ、はもった。
「それ、センパイの遺品なんて物じゃないから、あたしには不要な物よ」
「「 え?? 」」
「で、でも、もしかしたら? って事もあるんじゃ」
「ノンキャリアの刑事がそんな高い指輪を買えるワケ無いでしょ?」
うわ、スーパークールだよ、トーコさんってばミもフタも無い。
「プロパティよく見て、それある種の霊体で出来た品物よ、見るだけなら浮世の世界でも見えるから指を飾る分にはホンモノに近い輝きを提供してくれるだろうけど。でもそれじゃ、あたしにとっては意味が無いの」
「でも、せっかく刑事さんがトーコさんへ最後に手渡した品物なのに……」
「センパイから貰ったモノは、ちゃんとココにある。だから平気」
トーコさんは自分の胸にそっと左手をあてた。
アイテム銘: レッドダイヤ・エンゲージリング(付喪神)
分類: アクセサリー
属性: 神聖
魔力: 20
効果: スキル強化+3
クエストが終り、いつの間にか新宿の街には喧騒が戻ってて。
俺と珠璃、そしてトーコさんは新宿駅へ向かって歩く。
「トーコさんはお経なんてどこで覚えたんですか?」
俺も珠璃ももうすぐこの楽しい時間が終ってしまうかと思うと妙に寂しい感じでイッパイだ。
それもあって、次から次へとトーコさんに質問をなげる。
「どこって、家で。あたしの実家はお寺だったの、真言宗の■山派。毎日お経を聞いてたわよ。
父が亡くなって従兄弟にお寺を継いでもらったんだけど、父のコネでこの銀鈴を手に入れることが出来たわけ、中僧正サマサマよねぇ、父は偉大だってあの時初めてオモッタわ」
「それダメでしょ……」
きっと今頃あの世で苦笑いしてるに違いない。
「それはともかく、やっぱり《Unreal Ghost Online》と事件の関連性は薄いわね。貴方達も素人が事件に首を突っ込む以前に、学生としての本分をまっとうしなさい。イイわね? UGOをやり過ぎて遅くなるまで遊んでてはダメよ」
「え~~っ!? だってアニキとも再会出来たのはUGOのおかげでしょー? もっとやり込まないと事件との関連なんて見えて「天太! PKだよっ!!」 え?」
珠璃が先にPKに気付いて警告を発した。
珠璃のひと声に、俺はとっさにサングラスの右上に映っているレーダーマップを確認する。
このマップ表示には周囲数百mの状況が映し出されてるんだ。
俺の隣にいる珠璃とトーコさんは緑色のマーカー表示され、俺と彼女たちの守護霊3体が青色のマーカーとなって表示されている。
そして……
こちらへ向かって動いてくる赤いマーカーと、そのすぐ後ろに表示されたオレンジマーカー。
青は非犯罪者の《守護霊》
緑は非犯罪者のプレイヤー
赤は犯罪者の《守護霊》
そして、オレンジは犯罪者プレイヤーであることを示している。
プレイヤー・キラー。
PKと呼ばれているゲーム内の嫌われ者達だ。
彼等はまっすぐに俺たち目掛けて走り寄って来ているのが見て取れた。
「先頭のマーカーは……湍津姫神。うわ、またビシャス・クロスの『龍』だよ」
「その後ろも有名どころだな、《エウリュアレ》と《ハイドラ》そして《オーロラ》かよ」
俺たちに近付いて来るのは、PKクランのビシャス・クロスって所に所属しているメンバーで、その中でもアクティブに活動してることで有名なヤツラだった。
《湍津姫神》のプレイヤーは『龍』。
《エウリュアレ》のプレイヤーは『ドラゴン・ブレード』
《ハイドラ》は『ソニック』
《オーロラ》は『おでん』
こいつらAR表示される《クラン名》の下にわざわざプレイヤーネームもAR表示してるもんでPKされた側が広域チャットで『△△△△に殺された』と毎日のようにメッセージが流れる。
広域チャットでの《ビシャス・クロス注意報》をこまめにチェックしながら狩りする毎日で、まったく迷惑なヤツラなんだよ。
「こりゃ今から逃げても追いつかれるな。あーぁ仕方ない抵抗するだけして派手に散りますか」
「だよね、くやしいなぁ」
俺のヤケクソの特攻意見に、高レベルのPK相手に勝てないのを知ってる珠璃が同意する。
「有名なの?」
「初心者のトーコさんは知らないだろうけど、こいつらめっちゃレベルが高くてさ」
「もう毎回瞬殺だよぉ、レベル差あるんだから、あたし達を襲ってもつまんないだろうに」
「きっと暇なんだろ」
「相手のレベルが映らないってふざけてるよね。 レベル差が20以上で見えないんだっけ?」
「ああ、PKは高レベルが多いからな。 あんまりレベル差があり過ぎると相手のレベルが表示されないんスすよ」
俺はトーコさんにも判るように珠璃の言葉を通訳する。
「来たわよ」
トーコさんはレーダーマップに映る相手が、肉眼でも見える位置に近付いたことを告げた