トーコさんセンパイと再び逢う②
「レベル15ユニーク・エリート!?」
やっべ、勝てねぇよ、あれ。
攻撃で吹っ飛ばされた俺は、立ち上がりながら珠璃にアイコンタクトで『逃げるぞ!』と……
ってこっち見てねぇし。珠璃が向いてる先は
トーコさんだった。
トーコさんは攻撃を受け流したのか? 無事に立っている。
読経をあげながら合掌ポーズのまま微動だにしていない。
「トーコさん! 逃げなきゃ!!」
俺のあせった呼びかけに
「大丈夫よ。 七人ミサキなんてたいしたことない」
こんな時だというのに、不思議とトーコさんの声は落ち着いている。
どうして、たいしたことないなんて言えるのだろう?
もしかして、相手の実力を知っている??
《怨霊》の他に6体現われた陰は、一体一体がそれぞれさっきまで戦っていた《怨霊》並みのプレッシャーを放っている。
そんなのが合計して7体だ。とても俺たちだけでどうにかなる相手じゃないのだけど。
「柏木君、甲田さん、良く聞いて」
どこまでも冷静なその声に、色々考えながらぐちゃぐちゃだった頭をいったんリセットして、俺はトーコさんの次の声を聞き逃さないように注意を向ける。
「この《怨霊》たちは7体が合体することで《七人ミサキ》へと変化するの。あの事件ではこれまでにセンパイを含めて7人が犠牲になっているから、このヒトたちは同じ犯人に恨みを持つ犠牲者たちという共通点を持ってる」
そうか、TVではアニキが7人目だって言ってたからな。
「彼等は合体する際に、魂性境界面……魂の自我領域の境目が緩むわ。防御スキルが働かなくなるその時を狙えば今のあたし達でも何とかなる! あたしが合図したらセンパイに一番近いヤツから順に攻撃して合体を阻止して!! それと、センパイはあたしに任せてちょうだい」
「魂性境界面?? なんだか解んないけど、やったろうじゃない!」
「ったく、美女二人が戦うってのに、俺一人逃げていられるかよ」
ぅぅ、出来れば逃げだしたいのはヤマヤマ。だけど男のミエってのがあるんだよなぁ。
男はつらいぜ!
そう内心苦笑して身構えると、こちらをチラ見するトーコさんと目が合った。
くすっ
え?いま……笑った?
ぬぉぉぉぉおおおおおおおっ やる気出てきた!!
6体の陰はアニキの《霊》に近付くと、一声高く呪わしい声で叫び声を上げる。
「「「「「「「 ォォォォオオオオオオオッ 」」」」」」」
『ピッ』
システム・メッセージ:《怨霊:七人ミサキ 1~7》は、スキル《カンフルエント》を発動しました。
「センパイ、解き放ってあげますね」
トーコさんは両手で複雑な印を結びながら、縦横に手を振り、気合高らかに言葉を放った。
「臨」
すると今まさに合体しようとしている怨霊たちそれぞれの頭上に、
【退魔法:九字祈祷:壱】
と合わせて7つのメッセージが表示される。
「な・なんだ!?」
俺はこんな現象を、これまで《Unreal Ghost Online》で見たことが無い。
横を見ると、どうやら珠璃も同じらしい。ぽか~んとしてる。
「兵」 【退魔法:九字祈祷:弐】
「闘」 【退魔法:九字祈祷:参】
「者」 【退魔法:九字祈祷:肆】
怨霊頭上のメッセージは、トーコさんの掛け声と手の動きに合わせて変化していく……
「皆」 【退魔法:九字祈祷:伍】
「陣」 【退魔法:九字祈祷:陸】
「裂」 【退魔法:九字祈祷:質】
「在」 【退魔法:九字祈祷:捌】
「前」 【退魔法:九字祈祷:玖】
最後にトーコさんが「ハッ」と気合を込めると、【退魔法:九字祈祷:縛鎖】と表示され、怨霊7体全てに薄ボンヤリした何かが絡み付き、合体しようとする彼らの動きを妨げている。
「今よっ!!」
何が起きてるのか判らないけれど、俺はトーコさんの合図で《アリアンロッド》に戦いの指示を出す。狙うは指示通りアニキに一番近いヤツで《怨霊:七人ミサキ 4》だ。
《メルカルト》と《エルジェーベト》も同じ相手を攻撃し出した。
おおおっ!?
「すげぇ、減る減る」
一撃でHPがグングン減っていく。
俺は今殴っているヤツのHPが5割を切った時点で、次のターゲットを選ぶ。
そいつの頭上には《怨霊:七人ミサキ 3》と書かれている。
「次は《3番》」
それだけで珠璃は解ってくれる。
ここら辺の『次タゲ取り』は手馴れたモノで、すでに阿吽の呼吸と言っていい。
続けて、トーコさんはさっきから手に持つ銀鈴を自分の前に掲げて、振り始める。
『リーン……』
透明な鈴の音が夜の空気を裂いて鳴る。
すると、今度は怨霊7体の頭上に
【調伏儀式:■】
のメッセージが浮かび上がり、メッセージの最後にはカーソルが点滅していた。
さらに鈴を細かく連続的に振り続けるトーコさん。
『リリリリリリ……』
怨霊たちの頭上メッセージはやがて変化する。
【調伏儀式:降魔法:アナライズ】
鈴の音は鳴り続け、しばらくしてメッセージが変化する。
【調伏儀式:降魔法:カタルシス】
そして、
【調伏儀式:降魔法:リムーブ・カース】
と表示されたとたん、まだ倒しきれてない怨霊たち、そして、アニキの怨霊が薄れていく……
陰は急激に薄れ、やがて生前の本人たちの姿が見えてくる。
「霊脈から流れ込む呪いの源を断ちました。安らかに眠ってください、センパイ」
トーコさんが、もうすぐ消えようとしているアニキにそう別れの挨拶を送る。
「フ・ジイ……」
消え行くアニキはトーコさんに近付いて、左手を取るとその指に何かを……
トーコさんは逆らわず、アニキがするがままに任せている。
路地裏から7人の霊が完全に消えてしまった後、合掌したトーコさんの読経と玲瓏と鳴る鈴の音だけが、厳かにこの場を支配した。
俺と珠璃も読経が終るまで何も語らず、合掌しアニキと犠牲者たちの冥福を祈る。
「最後のアレ、スゴイです!! 何なんですか? どうやったんですか?」
珠璃が興奮してトーコさんに詰め寄る、なんだか瞳がうるうるでキラキラしてるぞ。
俺はソッチも気になるけど、銀鈴の方がより気になる。それまさか?
「その銀鈴、まさかの戦闘補助アイテムですか? 俺、UGOで武器って初めて見ました」
俺もスゲースゲー連発しながら、どさまぎでトーコさんにくっつく。
あ~、ィイー匂いだ。ス~ハ~・ス~ハ~
最初から色々と違和感は在った。
だけど、ことここに至って俺にもようやく解った。
トーコさんは少なくとも、ただの素人じゃあり得ない。
同時に今のところは、聞いても答えてくれないだろうし?
まずは仲良くなってからだよな、うん。
という事で、スキンシップを図ろうとする俺の行為は正しい!!
トーコさんは俺と珠璃の勢いに仰け反りながら
「あ、あげないわよ。この鈴はお金に代えられないんだから」
変な勘違いしてるようだけど……
銀鈴を隠すように身をよじっている。
そのトーコさんの左手には、赤い大粒の光る石が付いた指輪が、中指にはまっていた。
アレぇ?
アニキ~~っ!!
ここは薬指にはめる流れだろーーーーっ このヘタレ!!
少しだけ、天を仰いでバチ当たりなセリフが心をよぎったけど、しかたないよな!?