トーコさんと死者のプロポーズ②
「トーコさんのカラテって凄まじい威力ですね、昔からやってたんですか?」
珠璃の問いに、一戦を終らせたトーコさんは、
「えぇ、子供の頃からやってたわよ」
「やっぱり! 動きがとても綺麗です。すっごく力強いし」
珠璃がトーコさんを褒めちぎる。
だけど、なぜかトーコさんは浮かない顔をして、
「力はねぇ、全然足りないのよね。ほら、こんなだし?」
力コブを見せようとしてるのだろうか? 全然もりあがってないけど。
あ、思い出した。
「力って言えば、聞きましたよ? トーコさん」
「え?なにを?」
「トーコさんってば、以前アーエムゲーム・ハンマー?とか言うのを二刀流で振り回して大暴れしたんだって?」
「何よソレ? 知らないわよ。 って、さてはセンパイだな、柏木君にそんな話をしたのは」
トーコさんは苦笑しながら答える。
「アーエムゲーム……??」
珠璃が首を捻っている。
「あー、うん、そんな感じ? 大学生の頃にそんなの振り回して大暴れしたもんだから、警察に入った今でも公安警察が監視のために張り付いてて、それで良く警察入れたなぁとか伝説があるって聞きましたよ」
「もしかして、アーエムゲー? アーエムゲー・ハンマーの事?」
珠璃は思い当たる単語があったらしい。
「お?それそれ、あーえむげー。 超美人だって聞いてたから、トンカチのデッカイのを二刀流で振り回すって、なんとなくお笑いっぽい姿だなーって話を聞いて思ったんだよね」
「お笑い……確かに、ある意味笑い話よね」
やば。なんか、トーコさんから黒いオーラが出てる。
もしかして地雷踏んじゃった?
「ですよね、いくらなんでもアーエムゲー・ハンマーはないですよね~。 天太、アーエムゲー・ハンマーってのはね、ドイツの高級チューニングカーの事よ? つまり車両を両手で振り回したって事なの、あんたカンッペキ騙されてるよ」
「ほんとよ。車を振り回すって、あたしはどこのウルトラマンだっつの」
あわわ、また余計な一言を言ってしまったよ~
「うわわ、すんません~。さっきもフルーツパーラーの外にそれっぽく背広着た男達が3人居たから、アレはてっきり公安警察のヒトなんだって思ってましたー」
トーコさんは、ハッと顔を引き締めると、
「ふーん、気付いたんだ。柏木君って目が良いのね。 でも、素人に気付かれるようじゃぁ、公安の教育不足を責める所かな?」
「「 え? 」」
「公安があたしに張り付いてるのは本当よ。その事件が発生した時、あたしはフランスに居て完璧なアリバイがあったんだけど」
「あーソレも聞いた。奥さんへのお土産を買うのに、日本の大臣と中国のお偉いさんが二人で買い物にパリの街へ出かけて、でも通訳不在だったから赤っ恥かきそうになったところへ、五ヶ国語を話す麗人がさっそうと登場した話でしょ?」
「まったく、センパイはナンの話をしたんだか?」
ん?トーコさんは……亡くなった刑事さんの話をする時、苦笑しながらも嬉しそうに話す。
……まぁ、故人に嫉妬してもしゃーないかぁ……
「ま、それで、ニッポンのお大尽サマと中国高官の二人の窮地を救ってあげたってワケ。メンツ丸潰れ直前だった中国高官からは感謝感激の嵐でね、このピアスをプレゼントしてくれたんだけど、それを公安は気に喰わないらしくて以来ずっとなの。 まぁ公安がいくら地団駄踏んでも、あたしの耳にこの赤いルビーのピアスが輝いてる限り、どんなイチャモンもヘイチャラなんだけど」
うわー、トーコさんの黒いところを見ちゃったよ。
色々とトーコさんの過去話やらを聞きながら、少しずつインスタンス・ダンジョンの敵を倒して、残るはボスだけとなった。
ん?途中はどうなったって? ザコを倒した話を延々聞かされるのもメンドウだろ?
《迷い小路》のラスボスは《虚悪霊Lv7エリート級》だ。
エルはここまでにLv4となっている。
《メルカルト》と《アリアンロッド》の二人ではギリギリ勝てる相手だけど、ここまでのエルとそしてトーコさんの活躍があれば、きっと楽勝だろう。
そして、ここまでの戦いの中で、俺には思いついた秘策があったり。
「それじゃ、チャチャっと片付けちゃおう」
トーコさんは上前方に片手コブシを突き上げて気合を入れる。
刑事として俺たちから事情聴取していた時のトーコさんは、如何にも理想的な婦警さん然としてたけど、こうしてUGOを楽しんでる姿も、またィィ。
だいぶ親しくなれた気がするんだよね。俺だけかな?そう思うのは。
ラスボスの前方に《メルカルト》、左右に《エルジェーベト》とトーコさん。
そして、俺の《アリアンロッド》はと言うと……
ドール・サイズと化してボス背後へと回り込み、ボスが《アリアンロッド》に気付かない状態から、人間サイズに戻すと同時に強襲させる。
狙った通り、気付かれない状態からの背後奇襲は大ダメージをラスボスへ与えた。
よーし、パーティープレイでの技の幅が広がった!!
なんつーか、あの大ダメージを叩き出した技を見つけただけで今日は満足って感じだぜ。
そして最後の一撃。
ラストキルは《メルカルト》が持っていった。
崩れ落ち、ポリゴンが爆散するラスボス。
同時に鳴り響くエフェクト音が3つ。
え?
「あら? レベルアップの音に、これは……」
「うわーーーい、やったやったー。《メルカルト》がエリートにランクアップしたよーーv」
珠璃がバンザイしながらぴょんぴょん跳ねてる。マジかよ!?
「ぉぉ?おめでとー珠璃、やったじゃん」
システム・ウィンドウを読むと確かに《メルカルト》のランクアップメッセージが出てる。
システム・メッセージ:《エルジェーベト》がレベルアップしました。
システム・メッセージ:《アリアンロッド》がレシオアップしました。
システム・メッセージ:《メルカルト》がランクアップしました。
ん? んん??
「あーっ!? 《アリアンロッド》もレシオアップしてるじゃん! すっごーい」
ホントだ(@@;;
「ぉ? ぉぉぉおおおおおっ? ユニーク!? すげーーーー、キタコレ俺の時代?」
なんつーか、今日は驚きと満足の連続だ。
「これぞ主人公補正。俺レジェンドの始まりだぜ~ だぜ~ だぜ~(エコー)」
「ふふ、おめでとう柏木君、甲田さん」
「お疲れ様です。トーコさんもv」
「これでトーコさんと珠璃のハートは俺にメロメロ!? うっは、あのシリが俺のモノに!?」
「……なんていうか、アケスケなのもここまでくれば可愛いものね」
「……ただのバカですから、相手しなくてイイですよ」
『ピッ』
システム・メッセージ:スキル《スニーク・アタック》を獲得しました。対象の感知外からの奇襲攻撃が行えます。
『ピッ』
システム・メッセージ:スキル《シェイミング・ペナルティー》を獲得しました。対象の羞恥心を呼び覚ますことで精神系の状態異常を回復します。
「おっ?新スキルきたーーっ
って《シェイミング・ペナルティー》? 精神系の状態異常を回復するだってぇ?
つーか、羞恥心ってなんだよ!? そんなの主人公のスキルじゃねーだろっっ!!!!」
「《シェイミング・ペナルティー》羞恥刑? いやだわ……さすが柏木君ね」
「ホント、盗撮小僧の天太らしい。いったんどんなイヤラシイ技なんだか」
ぅうう、せっかく覚えたスキルが……なんてトホホな技なんだ。
おかしいだろっ!? このパーティーは女性二人に男は俺独り。
ここからが見せ場だっつーのに、そこで羞恥刑ってどうよ?
女性陣の俺を見る目が氷点下まで下がってんゾ、どーすんだ俺?
「二人とも帰る? あたしはセンパイが亡くなった現場を尋ねてから本庁に戻る予定だけど?」
「あ、アニキの亡くなった場所へ行くなら俺も行きます。せめてお祈りくらいはしたい」
「あ、あたしもあたしも!」
「それじゃ、ここを出て行きましょうか」
俺達はインスタンス・ダンジョンを終了し、そこから出ると歌舞伎町方面へ歩き出した。
三人共に程なく、新宿の街が異常なことに気付く。
「なにコレ!? ヒトが誰も居ない!?」
「街の明かりが消えてる!? 大規模な停電なの!?」
新宿駅構内、その周辺にも、人っ子一人居ないし、車も走っていないのだ。
まだ宵の口なのに、見渡す限り明かり一つ点いてない街はすでに真っ暗で、俺達以外、誰一人存在してない新宿の街は、これまで無かったほど異様な静けさだった。
「これ、もしかしてクエストかも?」
珠璃が何かに気付いたように言葉にする。
「以前、ちょっとした町の小道に入り込んだ時に、やっぱりこんな風に誰も居ないし、小道沿いの家の明かりが消えてたことがあったんだ。この雰囲気その時のクエストに似てる。そいつの大掛かり版なのかも?」
「クエストならジャーナル見れば何か出てるかも?」
俺はメニューからジャーナルを開いた。
すると、いつの間にやら《ミッションクエスト:死者のプロポーズ》と言う物が受託されていた。
「死者のプロポーズ? なんだこれ?」