トーコさんと死者のプロポーズ①
「プレイヤー参加型?」
「えぇ、この《Unreal Ghost Online》は、守護霊サマだけに戦わせるんじゃなくて、プレイヤー自身がその戦いの最中にどのように振舞うかで、守護霊サマが強くも弱くもなるんじゃないかしら?って思ったのよ。守護霊サマだけ戦うんじゃぁ、ワザワザAR表示にしてる意味ないし、それこそパソコンのディスプレイに映す既存ゲームの形式で事足りるでしょ?」
トーコさんはたった一度、俺と珠璃の戦いを見ただけでそれを見抜いたのかよ。
珠璃はトーコさんに言われたことを理解すると、不満の声を上げる。
「それって、あたしにも《霊》と戦えって言うの!? そんなの無理よー」
「ムリに、とは言わないわ。でもゲームの幅が広がるのは確かね」
「幅が広がる、つったってさ、俺ら、トーコさんのように武道やってるわけじゃないし……」
「うーん、そうねぇ……さっき、あたしが自分の得意なカラテ技で戦ったのは見たわよね?」
「う、うん」
「そんな風にプレイヤーそれぞれが持ってる、自分だけのスキルってヤツを生かした戦い方すれば良いんじゃないかしら? 守護霊とプレイヤー二人の総合力が強さを決めるんだと思う」
「で、でも、あたし格闘技なんてやった事ないよ?」
「それなら、甲田さんは何が得意なの?」
「得意っていうか、お菓子作り? そんなの《Unreal Ghost Online》で何の役にも立たないよ」
「昔あたしが遊んでたネトゲじゃ、生産系で《料理スキル》ってのがあって、それで創った料理を食べると、様々なパラメータが一時的に上昇して戦闘に強くなるって仕様があったわ。甲田さんは作ったお菓子を守護霊に食べさせてみたことある? もしかしたらUGOでも出来る、カモ?」
「ええっ!? そんな事出来るの!? やったことないよぉ」
「でも、俺、普段からサングラス掛けてるけど、食べ物見て、何らかのステータスタグが表示されたことは無かったよ?」
「そうなの? それじゃムリかな?」
「あ、でも、あたしは調理部ではっていうか、普段はサングラス外してるし……」
珠璃はごそごそと学生鞄の中をあさると、調理部で作ったというお菓子を取り出した。
俺は、珠璃の手の中にあるそのお菓子を覗き込むように見てみた。
すると、なにやらARのタグでプロパティが表示され、色々なパラメーターが書かれている。
「おおっ!? なんかステータス出てるぞ、それ」
「ホントだ、ちゃんとアイテムとして認識してる……あ、解った。プレイヤーが自分自身で作らないと料理をゲーム内アイテムとして認識しないのかも。店屋物はプレイヤーが作ったわけじゃないから認識しないのね」
言いだしっぺのトーコさんは、ビックリしながらも考察を付け加えるのを忘れない。
「すっげー、でも《イチゴのミルフィーユ》って表示されてるけど、ソレに苺使ってんの?」
俺はじっくりとそのお菓子を見てみたが、苺なんて欠片も見えないゾ?
つーか、このお菓子ってミルフィーユって名前で合ってんのか!?
「う・うん、ホントはもっと多くのイチゴを使わないとダメなんだけど、お値段が高いからさぁ。練習で作ったこれには少ししかスポンジの中に挟まってないんだよ……でも、見えない苺まで認識するなんて、どういう原理なの?」
「幽霊が見えるサングラスで、見えないモノをどうやって認識してるのか議論しても仕方ないわよ、それよりそのステータス凄いわよ?」
《イチゴのミルフィーユ》
力+10
運+20
知覚鋭敏+20
体力回復+100
気力回復+200
「でもでも、守護霊って《虚霊》の一種でしょ? サングラスの中にしか居ないバーチャルな存在なのに、リアルで作ったお菓子って食べられるのかな?」
「ホントに食べるかどうかは解らないわね。でもサングラスは物体認識もするから、お菓子をゲーム内アイテムとして認識すれば、現実はどうあれバーチャルなアイテムとして消費出来るかも知れないわ」
「ホントに!? やってみるー」
期待半分、自分の守護霊にお菓子を差し出す珠璃。
受け取って、パクリと一口で食べる《メルカルト》
「おおっ!?」
「うわ、一口だ」
「どうやって、一口で食べたの!?」
イチゴのミルフィーユは一口サイズとはとても思えなかったが、どうやってかペロリと食べてしまったのだ。しかも、珠璃が手に持ってたハズのお菓子はいつの間にか消えてなくなっていた。
AR表示のクセにリアルのお菓子を食べれるのかよ!?
さすが守護霊サマ、パネェ。
「でも、今更だけど、そのお菓子って守護霊サマが食べても良いんだろうけど、もしかしたらプレイヤー本人が食べても効果出るのかも……」
「あ、もう一つ残りはあるよ、あたしは学校でいっぱい食べたから……どうぞ?」
そう言ってさらにもう一つ取り出す珠璃と、それを受け取るトーコさん。
「うふふ、いただきま……あ、そうか」
何かに気付いたトーコさん? しばらくミルフィーユを眺めて、
「えぃっ」
それを半分に分けたかと思うと、自分の守護霊に半分渡した。
エルは、くわっと大きく口を開き、トーコさんの手ごとミルフィーユにかぶりついた。
「ひゃっ」
思わずもらしたのか、トーコさんが妙な声を出す。
やはりどう食べたのか解らないが一口でペロリと平らげ、さらに割ったときに少しだけクリームが付いたトーコさんの手をペロペロと舐める。
たまらず、くすぐったそうに声を上げるトーコさん。
なんか、ィィ。
「も、もうイイから」
苦笑しつつ、いまだペロペロしている自分の守護霊を止めるトーコさんは、自分もまた半分となったミルフィーユを……
「あー……んぐっ」
一口で押し込んだ……けど、半分でも大きかったらしい、モグモグして飲み込む。
少し涙目だ。
くはぁっ やばい、なんかキてるよ、俺。
バシっ 珠璃が俺の向うずねを蹴飛ばしやがった。
「痛っ」
「何マヌケ面して見てんのよっ!!天太。 ったくもー」
「ふぅ、エルの真似して一口に挑戦して見たけど、やるんじゃなかったわ……思った通り、一切れサイズじゃなく一口サイズでも効果は同じみたいね。エルのステータスは上がってるし」
「いやぁ、UGOって凄いゲームっスね。 俺には何が出来るのかな……」
「ソレを探すのも楽しいわね」
「そうだなぁ、俺が得意なのは……っと」
「天太の場合、盗撮でしょ?」
珠璃がそんな憎まれ口を利いた時、巡回ゴーストが直ぐ其処まで歩いて来てたのに気付く。
俺と珠璃が気付いて行動しようとするより早く、トーコさんとエルは《虚屍鬼Lv5》を挟んで前後に立ち、タコ殴りを開始していた。反応はえぇ、さすが刑事さん。
と、虚屍鬼は腕を振りかぶり、エルを強打した!!
Lv5の打撃で、Lv2のエルは堪らず数メートル後ろへ弾き飛ばされる。
やべぇ! バックラッシュが来る!?
でも、トーコさんはまるで何も無かったかのように虚屍鬼に後ろ廻し蹴り放つ。
虚屍鬼はその蹴りでエルの方へと押しやられた。
エルは……まるでトーコさんを鏡で映したかのような上段廻し蹴りを決めて、虚屍鬼を倒す。
気付けば、エルのHPは1割程度しか減ってない。
「うっそー!? 殴られた時にHP半分くらい消し飛んでもおかしくなかったよ?」
「つーか、あの一発で沈んでも不思議じゃ無いのに、何でなんとも無いの?」
いくら何でも、エルの防御力高すぎでしょ? Lv2だぜ??
俺と珠璃は疑問符のオンパレードだけど、当のトーコさんは、
「ほら、もう次が来たよv」
そう言ってまた走り出す。
UGOを始める前からは、考えられないほどトーコさんは楽しそうだ。
奥から4体ほど敵がこっちへ歩いて来るのが見える。
「ちょっ!? トーコさんっ いきなり突っ込んじゃダメだって!!」
守護霊を敵にぶつけて、囲まれないよう動きながら一体ずつ倒して行くのがセオリーなのに。
トーコさんはいきなり手前の敵目掛けて、自分がまっさきに突っ込んでいく。
一番手前の敵が腕を伸ばして、トーコさんを捕まえようと飛び出して来た。
トーコさんはその敵の腕を右手で右側へ払い除けながら、左足を斜め左前へと踏み込み、左肘を敵の肩から脇腹へかけて叩き込む、右へヨロケ様とする敵にすかさず右中段蹴りを浴びせて手前の1体目を左奥へ吹き飛ばすと、
蹴った右足を前方へ踏み込むと、1体目の後ろにいた二番目の敵へ向かって左中段前蹴りを槍のように前方へと真っ直ぐ綺麗に蹴り出して、2体目をさらに後方へ蹴飛ばす。
さらに迫り来る三番目の右側へ回り込むように右足を踏み込んだと思ったその時には右回りで後ろを向き、左足軸足で右後ろ廻し蹴りを放っていた。
攻撃の軸がまったくブレる事が無いバネのような動きは、TVで観るようなカッコだけで威力なんか全然無い見せ掛け円運動的な廻し蹴りなんかとは比較にならない、まさに長年格闘技を修行して来た者だけが為しえる無駄な動きを削ぎ落としたシンプルにしてコンパクト、破壊のための玄人な動きその物だった。
トーコさんが3体と戦ってる間に、エルが4体目と戦い始めてた。
戦いが終りパーティステータスを見ると、エルは数体倒しただけでもうLv3だ。
Lv5とか喰いまくってるもんなぁ。
不思議なことに、エルの動きはトーコさんのカラテの形に似てる。
真似てるのか? だとすれば、武術を知らない俺の《アリアンロッド》より、下手したら強さで追い抜かれてるかも知れないな……とほほ。