トーコさんの守護霊は吸血鬼①
書き上げてると思っても、いざ投稿前にチェックすると直したい所が
いくつもいくつも。
そしてここ一ヶ月忙しくてなかなかそのチェックのためにすら時間が
取れてません。
でも頑張る。
「それにしても」
周りをキョロキョロしている婦警さん。
「どうっスか?使えます?」
「えぇ、今度は大丈夫みたい、色んなモノが見えるのね……」
だろうなぁ、あのサングラスを掛けると周り中に変な物が見えるようになるから……
まさに世界が変わるんだよ。ビックリしないヤツなんていないよな。
この店の前を歩いてる人の流れをチラ見しただけでも……
そこを3人で歩いている女子高生のうち一人と、その後ろのOLの腰の辺りに浮かぶ靄。あれは水子だろう。
ベビーカーを押してる女性に憑いてるらしい暗い男からはあまり良くなさそうな印象を感じる。
試しにタグを見てみると《色情霊:猥褻男Lv3》とあった。
《Unreal Ghost Online》のこのサングラスを用いれば、ああいったタチが悪い《霊》を祓うことだって出来るんだけど……
『あなたに憑いてる悪い霊を祓わさせてください』
なんて面と向かって言った日には、コッチのほうが先に追っ払われるのは目に見えている。
頼まれでもしない限り、赤の他人に取り憑いてる《霊》なんてのは、ほっとくに限るのさ。
俺が狩るのはもっぱらその辺を単独でフラフラしてる《霊》だけだ。
俺は視線を婦警さんに戻した。
おそらく婦警さんも店内外に溢れるように居る《霊》たちを見て驚いてるのだろう。
内心では驚く顔を期待しつつ待っていると、婦警さんはなんだか妙に納得したように頷き、
「……予想通りね、借りただけじゃダメで、譲り受けると所有権が譲渡されたと認識されるのね。それで認証が通って、UGOのシステムが使えるようになるワケか」
「「え?」」
婦警さんはなんだかナゾな独り言を言ってる……どういう意味ですか?
「ううん、なんでも無いわ。 ん。なるほど、色々な霊が居るわね」
「なにその冷静な反応!? あたしなんか初めてそのサングラス掛けた時、不気味な幽霊が山ほど居るところを見て失神しそうになったわよー」
「俺も俺も、あまりの不気味さに数日うなされたっスよ。いまでもたまに夢でうなされるし」
「それじゃ、さっそく婦警さんの守護霊を呼び出してみようよ、見てみたい!!」
「あ……」
「あ、って何だよ?珠璃」
「んっと、あー、んー?」
「どうしたの?甲田さん?」
なんだか歯切れが悪い珠璃。
「えーっと、その……友達が引退しちゃった理由だけど、その……守護霊が……ね?えへへ」
「何だよ?変な守護霊なの?このサングラスのは?」
「守護霊って、そこに立ってる男性が甲田さんの守護霊で、ここに座ってる銀の人形みたいなのが柏木君の守護霊なのよね?」
「あたり! あたしのは《メルカルト》っての。そこのは《アリアンロッド》よ」
「珠璃が言いよどむなんて、よっぽど変な守護霊なんだな?」
「えーっと、えへへへ」
笑って誤魔化そうとする珠璃、お前ってばそんなとこばっか日本人らしくなってどうするよ。
「ま、悩んだって時間のムダってモノでしょ、呼び出してみましょうか」
「お、ィイネ~、どんなのかなー? ドキドキっスね」
「あたしは草タイプか、飛行タイプが好きなんだけどな……」
「婦警さん、それ違うゲーム」
まぁ、似たようなモノだけど。
「えーと、あ、メニューこれね」
婦警さんはAR表示されてるシステム・ウィンドウを見つけたようでそこを探ってるようだ。
右手が宙をさまよってる……けど、初心者にしては指の動きが妙に早くね?
「ん、守護霊召還、っと」
婦警さんの指がARのボタンを押したようだ。
その瞬間、何者かが婦警さんの隣に現われた。
「ぅぉっ!!」
俺は、婦警さんが座る椅子の隣に立ってる存在に視線を合わせて驚きの声を上げた。
なんっじゃ? この不気味な少女は!?
この娘が婦警さんの《守護霊》? マジか!?
珠璃はこの反応を予想していたらしく、視線を彷徨わせてコッチを見ようとしない。
その《守護霊》は……
《守護霊:カウンテス・エルジェーベトLv1》
頭の上のタグにそう表示されている。
元々は美少女なんだろうけど、ちょっと直視しづらいくらい不気味だった。
なにせひび割れて薄汚い肌、真っ赤な瞳と目の周りはクマなのか?瞳の3倍くらいの巨大な黒い隈となってるのがイタい、美少女の面影は皆無だ。
髪の毛は元は金髪だったのだろうけれど、泥で汚れたようにベッタリした感じで。
服装は、ゴシック風の白?だったのだろう、もう何十年も洗濯した事がないような埃まみれで、裾は擦り切れてとてもじゃないがドレスには見えない、ただのボロキレ。
まるで、ついさっき墓場から這い出してきたゾンビですって、まさにそんな感じ。
こんなのが《守護霊》なの!? 夜中起きて、これがベットの隣に立ってたら怖すぎる!!
俺と珠璃が引いている中、婦警さんはこの娘のある意味スゴイ格好に全く動じていない?
いや、なにやらまたもブツブツ言っている。
「なんでまた鬼なの……」
その気持ちはよーーーーっく解る。
誰だって自分の守護霊サマには愛くるしい天使やら、100歩譲ってコケティッシュな小悪魔系をイメージするだろうしな。
「こんにちは、もう、こんばんわかな? 貴女があたしの《守護霊》サマ?」
気を取り直したらしい、婦警さんが尋ねると、コクンと頷く不気味少女。
俺の《アリアンロッド》や、珠璃の《メルカルト》などの華美さや壮麗さがちっとも無い、ある意味ハズレ守護霊の不気味少女を前にして、この落ち着きよう。
すげぇ、婦警さんスゲーっスよ。
「この娘ってヴァンパイア?」
珠璃が尋ねる。
「吸血鬼と一言で言っても、伝承によってその姿は様々だから…… 白人だけどゴージャスな貴族サマって感じじゃないから西欧では無いわね? 東欧のノスフェラトゥの流れかしら?」
またコクンと頷く不気味少女。
「って事は、いかにも貴族サマなカッコした吸血鬼とか、東洋の吸血鬼なんかも探せばUGOの世界に居るのかな?」
「居たら楽しそうね」
と婦警さん。
俺は《エルジェーベト》こと、吸血鬼のプロフィールとステータスを表示して眺める。
他人の《守護霊》ステータスは、その全部は見れないけど、ある程度までは閲覧出来るのだ。
げっ!?
「うわ、この子、ものすごいステータス持ってる、基本値が《メルカルト》より高いよ?」
やっぱり珠璃も見てたようだ。
「うん、俺の《アリアンロッド》よりも高……い、ってナンジャこりゃ~~!?」
種族:ヴァンパイア
種族特徴:陽光下では全ステータスに-90%のペナルティが掛かり、さらに1分間に5ポイントのHPを消費し自然回復は行われません。陽光下ではなくとも昼間(6時~18時)は全ステータスに-75%のペナルティが掛かります。深夜(22時~2時)は全ステータスおよび回復力は3倍となります。それ以外は全ステータスと回復力は2倍となります。
「うゎぁ、こりゃ完璧夜型の《守護霊》サマね」
「昼間の12時間は-75%かよ! こりゃヒデェ。夜しか遊べないじゃん」
「社会人だし、そこは平気かな? 昼間特化型とかの方が逆に遊べなさそう」
婦警さんの物言いに、なるほど、そういうモンかと思い直す。
「貴女のこと、エルって呼んで良いかしら? あたしの事はトーコって呼んでね」
またまたコクンの不気味少女、あらため、エル。
「無口なのね。陽気なノスエフェラトゥよりかは良いか。これから宜しく、エル」
ニッコリ微笑むトーコさん、あぁ女神サマ……
そして、コックリと返事するエル。
「あ、あの、あたしもトーコさんって呼んで良いですか? もしくはお姉サマで!」
「それは……コホン、捜査上の関係者と個人的に親しくすることは禁じられてますから。刑事さんと呼んでくださいね」
「で、でも、あたし達は同性だし、これからは《Unreal Ghost Online》仲間だし……」
「例え同じ女性でもルールはルールですから。それにどうやらUGOが捜査に関係するとは今のところ思えませんし、それならばこれ以上の情報提供は不要かと判断します」
あの何事にもドライな珠璃が珍しく粘っているが、婦警さんの氷の微笑は揺るぎがない。
このままだと、この美人さんとこれっきりになっちまいそうだ!
それでイイのか?俺。
いーや、良くない!!
「俺はそうは思わない。アニキ……あの亡くなった刑事さんはUGOが事件に関係すると言ってたし。PKクランの《ビシャス・クロス》とそのクラン・リーダーの《レイディ》って人物が怪しいって行方を追ってたのを知ってますから」
くそ、柄にもなく真面目に話しちまった。
「そのPKクランとリーダーについては警察が調査します。あなた方はこれ以上、この件で首を突っ込まないでくださいね」
「!! 俺たち、カタキを取るまで犯人探しは続けますよ」
というか、そこまでの強い思い入れは無かったけど、パイメガ婦警改めトーコさんと今後も繋がりを持ち続けるには、今はこれで押し通すしかない。
「ハッキリ言えば迷惑なんです。素人が首を突っ込んで要らぬ刺激を犯人に与える恐れがありますし、それで追い詰められたと感じた犯人が暴走して余計な被害が生じた場合、この場合はさらなる死傷事件ですが、あなた方に責任が取れますか?」
うっ、そんな言い方は卑怯だよ……
「責任とか言われても……俺たちはただ犯人が許せないだけですよ。友人が殺されたっていうのに、警察任せで後は知らん振りなんて出来ませんから。 これがトーコさんならどうなんですか?警察に言われたら、あとはどうでもイイって割り切れるんですか?」
さりげなく、トーコさん呼ばわして食い下がる俺。
「それに、俺も珠璃もUGOが連続通り魔に利用されてるなんてイヤですよ。トーコさんがダメだって言っても、俺たちだけでも犯人を捕まえるつもりですから」
俺がそう言うと、トーコさんは少し考えてから軽くため息を吐く。
「このゲームは幽霊を題材にしてるだけあって、夜の活動が多くなるし……通り魔に遭う危険もそれだけ増すんですよ? 高校生が夜に出歩くのは感心しません」
トーコさんからそう説得されても、俺と珠璃の意思は変わらない。
というか、ここで諦めちゃうとトーコさんとの接点が無くなっちまうじゃないですか!!
「ふー、判ったわよ。連絡用にあたしのケータイ教えておくわ、その代わり危険そうな場所や怪しい人には近付かない、そういう時は必ず、あたしに連絡入れること。約束出来る?」
イェィ! 天太はトーコの携番をゲットした!