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銀河鉄道はじめました。

作者: 世幡 知 

かなり短いです。

携帯のブザーが鳴った。公衆電話からの電話だった。


「もしもし?どちらさまですか?」

「もしもし。春ちゃん今夜1時駅で待ってるから。」

「・・・!!」


返事をするまえにぷつんと切れて、携帯からツーツーツーという音が聞こえた。確かに雪乃の声だった。彼女は今電話をかけられるはずがなかった。

私は玄関の鍵も閉めずに外へと飛び出した。今は一時五分前ちょうどだ。走れば、間に合う。私は坂道を全速力で駆け下りていった。吐く息は白く、冬が来たのだと知らせてくれた。首のマフラーは風にひるがえった。なぜか体がふわふわ浮いているように思えて、こんなに体が軽ければどこまでも走ってゆける。そう思えた。坂道のとおりは人もいなくて、虫の鳴声もなにも聞こえない。時間が止まっているようだった。

丘の上から見える駅は青くて深い色に包まれていた。ちょうど夜の空をひからせたような色だった。

あそこに雪乃がいるんだ。

私は一気に丘を駆け下りて駅に向かった。駅にはひとつの人影が見えた。




「春ちゃん!一年ぶりだね!」

彼女はにこにこと人懐っこく笑って、私の手をとった。彼女の手はひんやりと冷たいように思えた。

「雪乃!」

私は不覚にも涙がこぼれてしまった。彼女ともう二度と会えないのかと不安に思っていたからだと思う。

「どうしたの?」と彼女はうれしそうに笑った。

「いや、なんでもないよ。」私はいそいで涙をぬぐった。

「ねえ!電車に乗ろうか!」

電車はもう走っていないはずだった。しかし彼女は私の手をとって、改札口をふわりと飛び越えた。

「切符なら中の車掌さんがみるよ。」

「え?でも私切符なんか・・・。」

彼女は私の話を聞かずにホームへと降りると、そこには電車ではなく年季のはいった列車が待ち伏せていた。真っ黒な車体に青い光が反射してまぶしい。到着したばかりらしく、煙がもくもくとあがっていた。

「ちょっと中に入って待ってて。すぐ戻ってくるから。」

そういうと彼女は駆けてどこかに消えた。

中には誰も乗客がいなくてがらんとしていた。中も古い列車のようで、すべてが木でできていた。席はすべて向かい合うような造りになっていて、赤いシートはクッションのように柔かかった。

 しばらくすると、隣の一号車からガラガラと音をたてて誰かが入ってきた。こっそり見てみると、それはみごとな車掌姿の雪乃だった。

「切符を拝見します。」

「私、切符なんかもってないよ?」

私は両手をポケットの中につっこんだ。そうすると右手になにかが触れたような気がした。取り出してみるとそれは切符ちょうどの大きさで、紺色の紙だった。

「その切符は帰りたくなったらいつでも帰れるよ。」

私はその紺色の紙を眺めた。光の当て方を変えると紙はきらきらと輝いた。

いつのまにか、列車は走り出していた。

「ねえ雪乃、雪乃は・・・・」

私はその言葉をごくりと飲み込んだ。わかりきっていた。私がその現実から目を背けていただけのことにすぎないのだ。

彼女はお医者さんも知らない重い病気にかかっていて、1年前から隔離されている。

きっと彼女は一年もベッドに横たわったままの生活を送っているんだ・・・。私は涙と嗚咽をぐっと下唇を噛んで我慢した。

「・・・・・ねえ、私以外に乗客はいないのね?」

私が問いかけると彼女は首をふった。

「今日は春ちゃんのためにはじめて運転するの。あしたからはたくさんの人を乗せて走るんだ。」とにっこり笑った。

「どんなひとが乗るのか、楽しみだね。」

「うん。この列車はどこまでも行ける。時代だってこの列車には関係ないんだ。乗る人も人間、生物、動物誰でも乗れるんだ。」

「そうかぁ。雪乃らしいや・・・。」

「そういってもらってうれしいよ。」

二人の間には気まずい雰囲気の沈黙が流れた。なかなか私は言い出せなかった。

 私は窓の外の風景を眺めた。もうどこか知らない場所だ。湖が地平線まで広がっていて、うす桃色の睡蓮が数え切れないほど満開に咲いていた。湖は黒い鏡のようで空の天の川の星、流れ星ひとつぶひとつぶをきれいに反射していて、私たちの列車が空の上を走っているような錯覚におちる。

「次の駅で降りるからね。」と雪乃が口を開いた。

私は不安になって「一緒におりよう?」と念を押した。

彼女はうっすらと微笑んだままだった。

また沈黙が流れた・・・・。

私は決心して聞いてみることにした。



「ねぇ、雪乃は今病院?」

私が胸をどきどきさせている間、彼女は一瞬考えたような顔になって口を開いた。

「そうだね・・・。でも本当の私はここにいるよ?」と彼女は胸に手をあてた。

彼女はそう言ったけれど、私は彼女が生と死の境目を彷徨っている気がしてならなかった。でも彼女は目の前にいる。私と一緒に旅している。私は彼女と会えるだけでしあわせだけど、実際に時の流れる世界の中で会いたかった。

「もうそろそろ、次の駅だ。」

私たちは立ち上がると、扉の前に二人でたった。列車はいつもの見慣れた通学の駅に到着。

もう私たちの間に会話はない。私は列車を降りると彼女のほうを振り向いた。彼女はにこにこと笑っているだけで列車から降りようとしない。

「降りようよ!」

彼女は静かに首をふった。 私は彼女の手を必死につかもうとしたが、空気のようにすり抜けた。

「さようなら。春ちゃん。」

彼女はそういって手をゆっくりふった。

「雪乃・・・」

我慢していた涙がぼろぼろと零れ、頬につたった。

「さようなら、雪乃。」

扉がゆっくりと閉まり、奇妙な音をだして走り出した。私は青くてまぶしい光に思わず目をつむった。















私は目を開いた。

そこは自分の部屋で、ベッドの上に倒れていた。外からはちゅんちゅんと小鳥の鳴く声が聞こえた。よく見ると自分のひざの上に見覚えのない手紙がのっていた。私はそれに手を伸ばしてそっと開いた。その紙の上に並んでいる字はあきらかに雪乃の字だった。






春ちゃんへ


本当に久しぶりだったね。列車の旅、楽しかった。

今はたくさんの乗客を乗せて走っているよ。こっちでの生活は楽しいから心配ご無用。

ずっと一緒に乗っていたかったけど・・・。春ちゃんは時のある世界で私のぶんまで元気に生きてください。しんだわけじゃないけどね。みじかい手紙でごめん。さようなら。


P.S

列車が走る記念に!



  「銀河鉄道はじめました。」

                           雪乃より。





今回はかなり短いです。短い分のあいだに内容詰め込みすぎたかもしれません。すみません。なんとなく雰囲気が伝わってくれればうれしいです。「銀河鉄道の夜」が好きな方、本当にすみません。

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