α 雷雨の中に咲く
今日もまた雷が鳴っている。ボクには稲妻が光っているとしか分からないけど。
「ねえ、優羽。雷の音しか聞こえないの?」
「いや、大きな音しか……梨羽の声が聞こえる。けどトラックの音とか、もっと大きな音とかもいっぱい聞こえるよ」
生まれつきの聴覚障害があるボクには、ただ一つだけ聞こええる音がある。それが双子の兄の声。ボクの耳の代わりとして、音を音で伝えてくれる。
大きな音、か……。なんだろう。どんなんだろう。考えていても分からない。電気が無く真っ暗な部屋の窓からは何も見えなかった。夜だもんね。しょうがない。なんか、しょうがないことがいっぱいあるな……。ここには、ボクには。
突然、外が桃色の光に包まれた。一瞬だけ見えたのは無数の縦糸。雨かな?
「雷にも色々な色があるの?」
「う~ん。1色じゃないけど、今のは雷じゃないよ。花火だよ」
「えっ、だって……」
だって、外は大雨だよ。
「雨にも負けない花火があるんだね。今度は上を見てみようよ」
大雨の中に咲く、水と戦う火の花を。雷という強い光の中に咲く光の花を。見てみたかった。ただ、そう思った。珍しいから、とかいう興味じゃない。
窓を開ける。冷たい水と冷たい風が入ってきた。かまわず、ボクは優羽と外に出る。座って上を眺めはじめた。星は見えない。星どころか何も見えなかった。雷は音だけ、光はない。花火も上がらなかった。
それでもじっと待っていた。あの花火に負けたくなかった。
待つこと15分。上がった。同じ桃色をした花火が。形は歪だった。光が一瞬も持たなくて、散った部分もかなりある。それでも咲いた。負けない花が。
――――僕たちのように。