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実技試験

 午後からはいよいよ実技試験。

 どんなことが行われるのかよくわかっていないので、不安だ。

 魔術科の会場に行ってみると、意外なことにほとんど女子だった。

 男子もちらほらいるけど、居心地が悪そうにしている。

 女子同士は知り合いもいるのか、立ち話をしている人もいるけど。

 試験開始のベルが鳴ると、昨日受付にやってきた年配の女性職員が入ってきた。

 あの人、もしかしたら魔術科の先生だったのかな?


「これから魔術科を希望する人の実技試験を始めます。この学科は主に、神官や聖女を目指す人向けの学科ですので、治癒、結界、祈りの実力を見せてもらうことになります。どれかひとつ得意なものを見せてください、やり方は自由です。魔力量が少なくても、入学試験で不利になることはありません。今できることを精一杯やってみることが大事ですよ」

 

 髪をひっつめにして、厳しそうな印象の先生だけど、言っていることは優しい。

 ちょっと緊張が解けたような気がした。

 魔力量が試験結果に影響しないなら、全力を見せる必要はないよね。

 ヘタに目立たないように、気をつけよう。

 

 それにしても、この世界の魔術って、聖女と神官向けだったんだ。

 アニメで見たファイアーボールみたいな、攻撃の魔法はないのかな。

 

 先生に名前を呼ばれた人から、順番に前に出て、自分の得意な魔術を説明する。

 男子は結界を選んでいる人が多いようだ。

 どんな方法で見せるのかと思ったら、自分で上に向かって石を投げて、落ちてくる石を結界で防ぐ、というやり方をしていた。

 他の男子も似たようなやり方だ。

 結界の実技はこれ、という定番でもあるんだろうか。

 あれなら、私でもできるなあ。小石ぐらいは防げると思う。

 

 次に女子が呼ばれ始める。

 多分、高位貴族から順番に呼ばれているみたいだ。

 服装を見ていると、豪華な人ほど先に呼ばれている。

 最初に呼ばれた人は、ドレスを着た侯爵令嬢だった。

 

 すごい。この世界に来て初めて見た、本物のご令嬢。

 美人だし、身のこなしは優雅だし、いかにも貴族令嬢という感じ。

 私なんて薄汚れた一張羅を着ているから、知らない人が見たら平民にしか見えないだろうな。

 

 女子は治癒を選ぶ人がいたり、祈りを選ぶ人がいたり。

 治癒の人は、用意されていた枯れかけの植物に治癒魔法をかける。

 祈りの人は、好きな魔方陣を選んで、お札に書かれた加護を祈る。

 ちなみに魔方陣のお札は、学園側で何種類か一般的なやつを用意されていました。

 わざわざ書かなくても癒やしのお札があったので、よかった。


 私は一番最後に呼ばれたので、ほとんどの人は実技を終えて教室を出ていった後だった。

 癒やしのお札を選んで机の上に置き、祈りをささげる。

 ポワっと魔方陣が光ったので、あわてて祈りを止めた。

 あんまり祈りすぎても良くないよね。

 

「はい、結構ですよ……あらっ」

 

 先生がお札を回収しようとした瞬間に、窓から風が吹いてきてお札が飛んでしまった。

 それがひらひらと枯れた植物の上に落ちて、みるみる花が咲き始める。

 

「えっ……これは……」

 

 先生が絶句して、私の顔を見た。

 まずかった……かな?

 

「あなたは昨日、学科の変更を申し出ていた人ですね? 最近大けがをして聖魔法が発現したのでしたか?」

「はい。そうです」

「わかりました。あなたは商業科には向いていないようですね」

 

 先生はふんふんと納得したようにうなずいて、書類に何かを書き込んでいた。

 もしかして、これで魔術科に合格できるかも?


 試験を終えて寮の部屋へ戻って、久しぶりにゆっくりと寝られた。

 男爵家にいるときは、命の危険があるかもしれないので、常に緊張していた。

 また階段から突き落とされるとか、食事に毒を盛られるとかいう可能性もあったし。

 いくら怪我や病気が治せるからって、実際に痛い思いや苦しい思いはしたくない。

 

 学園の寮の部屋は、狭くても快適で、ここで暮らせたらいいなあと心から思った。




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