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死んだ理由

「貴族を選んだあなたの転生先は、この人よ。申し訳ないけれど、あまり上位貴族の転生先ではなくて、男爵家ね。裕福ではないかもしれないけれど、それでも一般の平民よりはマシな生活だと思うわよ」

「ルーチェル・ベネット……」


 どんな人だろう。この人も死ぬ運命だったんだろうか。

 身体をもらってしまうなんて、申し訳ないような気持ち。


「ベネット男爵令嬢は、ちょっとワケありね。貴族令嬢がこんな若さで死ぬなんて」

「ワケアリなんですか? やっぱり私も平民にしようかなあ……」

「平民で聖女オプションは、あんまりおすすめできないわ」

「なぜなんですか?」

「めずらしいから悪いやつらに狙われるの。平民で身を守りたければお金持ちオプションがおすすめよ」


 そういうことか。確かに、平民聖女ってヤバそうだよね。

 でも、『聖女』っていう響きは魅力的なんだよなあ。

 前世でラノベ大好きだった私としては。

 あ、そうだ。あとひとつ気になることがある。


「お姉さんは、どうしてここで働いているんですか? 転生するでもなく」

「ああ~それはねえ。あまり大きな声では言えないんだけど、私は死ぬ前にちょっとやらかしちゃってねえ。罰としてここで働かされているってわけ。あと三百年ぐらいは生まれ変われないのよ」

「へ? 罰なんですか」

 ということは、ここで働いている人たちはみんな前世でやらかしたのね……。

 でも、これが罰だとしたら、ずいぶん気楽な罰じゃない?

 私が働いていた会社の方がよっぽどブラックだったぞ。

 ここでしばらく働くのもいいかと思ったけど、さすがに三百年は長いなあ。


「私はやっぱり貴族にしときます。聖女オプションで」

「それがいいと思うわ」

「はい! 質問があります! この空白の備考欄はなんですか?」

 書類を読んでいた女の子が、元気よく手をあげて書類の空欄を指さした。

 備考欄って特別注意することがなかったら、空欄だよね、普通。


「いいところに気がついたわね! いつもは聞かれなかったら説明しないんだけど、聞かれたからには教えちゃうわ! その備考欄はね、どうしても次の人生でこれだけは叶えてほしいという譲れない条件を書いておく欄なの。うっかりミスをした神様への指示欄なのよ」

 えっ!

 そんな重要なこと、いつもは聞かれないと説明しないんですか?

 それは職務怠慢というものですよ、お姉さん。

 女の子ちゃん、グッジョブ!


「それって、願い事はなんでも書いていいんですか?」

「その空欄に収まるぐらいなら、なんでも書いていいわよ。だけど、叶えられないこともあるけどね」

「たとえば、どんなことですか?」

「人を殺したいとか、他人を不幸にするような願いはダメね」

「じゃあ、家族が全員健康で長生きできますように、とかは大丈夫?」

「もちろんよ。その願いはきっと神様も叶えてくれるわ」


 女の子は、真剣に考えながら、願い事で空欄を埋めていく。

 一生お金に困りませんように、とか。かわいらしい願いだ。

 平民の女の子に転生して、一生お金に困らないためには、家族が長生きしてくれないと困るよね。

 なかなか現実的でしっかりした子だ。


 こんな良い子がどうして死んだのか聞いてみたら、病死だったそうだ。

 あんまりお金がなくて、高額な治療はできなかったんだって。

 そっか。それならお金や健康にこだわるのも当たり前だよね。

 転生できると知った女の子は、とても嬉しそうだ。


 私は何を書こうか。せっかくだからぎっしり書こう。

 というか、私、なんで死んだんだっけ。

 同じ失敗は繰り返したくないから、死んだ原因、知りたいんだけど。

 

「あのう……私が死んだ理由って、教えてもらえるんですか?」

「知りたいの? 知らない方がいいこともあるわよ?」

 お姉さん、ちょっと悪い顔になってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 この人、前世で何をやらかしたんだろう。


「知りたいです。同じ失敗をしたくないので」

「あなた、会社で昼休みに社内の自動販売機で缶コーヒーを買ったでしょう?」

「そういえば……買いました。それが何か?」

「その時、誰かに出会わなかった?」

 ああ……そういえば、同僚の和也と玲奈が自動販売機の横にいたな。

 なんだかヒソヒソと話してるみたいだったから、声はかけなかったけど。

 まあ、玲奈は私と和也が付き合ってることを知ってるし、後で合流するつもりだった。

 私は一足先に食堂に行って席を確保しておこうと、階段を駆け下りようとして……


 思い出した!

 空き缶を踏んだ!

 で、階段から真っ逆さまに落ちる瞬間、玲奈が笑ってこっちを向いているのを見た……

 

「その同僚の女の子が空き缶を蹴ったのよ。あなたの方へ向かって」

「なんで玲奈がそんなこと……わざとじゃないよね?」

「さあ、どうかしら。死ねばいいのに、って思っていたかもね?」

「嘘よ! 嘘! 玲奈は会社員になってから、ずっと友達だったのに」

「友達だったなら、人の彼氏に手を出すかしらねえ?」

「嘘……玲奈と和也が……?」

「だから、知らない方がいいこともあるって言ったじゃない。あーあー泣かないの! そんなことで。同じ失敗をしないように、教えてあげたのよ?」

「そんな……ふたりが私をだましていたなんて……」


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