第二王子
翌週、リプトン先生の授業で、騎士団へおさめるバッグ作りをすることになっていた。
戦争に行く騎士様が使うバッグだから、しっかりしたものを作らないといけないらしい。
物資が不足していて、縫製工場だけでは間に合わないから、学園も協力することになったようだ。
この世界にはミシンのようなものはなくて、すべて手縫い。
革を縫うのなんて、力がいるしすごく大変だ。
他の貴族令嬢も、四苦八苦して縫っている。
手を怪我して、癒やしの魔法で治している令嬢もいる。
仕上がるまで授業を延長するということで、終わったのはもう夕方だった。
そこへ、学園には似つかわしくない、騎士団の人たちが数人やってきた。
令嬢たちが「近衛騎士団の人よ」と、目を輝かせている。
仕上がったバッグをとりにきたんだろうか?
教室の前にずらりと並んだ騎士団の人。
その中心に、なんだか派手な服装の若い男の人が立った。
趣味の悪いひらひらの襟がついた上着を着ていて、成金貴族みたいな感じの人。
「本日は第二王子殿下が、授業の見学に来られました」
リプトン先生の紹介で、その人がこの国の第二王子であることがわかった。
先生は少し青ざめた顔をしていて、歓迎している様子ではなさそう……
戦時中に騎士と王子が学園にやってくるなんて、ロクでもない用事のような気がする。
「諸君は貴族の子女であるから、知っているだろうが、自己紹介してやろう。俺が第二王子のエウミール・ラン・デルフォンである」
デルフォン王国というのは、この王国の名前です。
ちなみに、ターニャちゃんがいると思われる隣国は、ウバル帝国という名前だった。
学園に入ってすぐに、図書館に行って世界地図を調べたんだよね。
デルフォン王国は大陸の南の半島に位置している小国で、隣接しているのは帝国だけなのです。
想像でしかないけど、国土の広さや人口などを考えると、圧倒的に帝国の方が国力があると思われ。
誰も口には出さないけど、今回の戦争は無謀だと思われているだろうね。
第一王子が手柄を立てるために先走ったなんて言われているみたいだけど、国民にとっては大迷惑だよ、ホント。
第二王子が片手で騎士に何か合図をすると、ひとりの騎士が一歩前に出た。
そして、ハンカチを取り出し、広げて見せた。
「このハンカチを作ったものは、名乗り出よ。大聖女候補として王宮へ来てもらう」
げっ……
あれはどう見ても、私が作ったやつだ。
リプトン先生はわかっているのか、困った顔をして私を見た。
他の令嬢たちは皆、うつむいている。
こんなときに王宮に連れていかれるなんて、嫌だよね。
大聖女なんて肩書き、戦時下ではありがたくもなんともない。
「それと、このクラスにいる結界魔法を使える者も、王宮へ来てもらう」
がーん。
それって、私はダブル招集じゃないですか。
神官候補の男子生徒三人は覚悟をしていたのか、すっと席を立った。
どうしよう……
とまどっていたら、リプトン先生が私のところへやってきて、そっと肩に手を置いた。
「ベネットさん。あのハンカチはあなたですね? あれほどの能力を持っている生徒は、あなたしかいません。こうなった以上、王家の意向には逆らえませんよ」
「はい、わかりました」
しぶしぶ席を立って、神官候補の三人の後に続く。
令嬢たちが、気の毒な者を見る目で、一斉に私を見た。
それほど付き合いのなかったクラスメイトたちだけど、一応同情してくれるんだね。
このまま王宮に連れていかれたら、どうなるんだろう。
戦争に行かされるのかな。
もう、レオンには会えなくなっちゃうのかな……
でも、少なくとも、私は死ぬことはないはずだ。
地球神との約束だもの。
戦争に行ったとしても、即死でなければ怪我は治せる。
神様の加護がこんな形で役に立つなんてね。
度胸を決めて、王宮へ向かう決心をする。
大事なものは全部腹巻きポケットに入れておいてよかった。
こういうの、虫の知らせって言うんだっけ。
バッグのほうには、キャンプセットや食料も入っているけど……
私の横につきそってくれたリプトン先生が、第二王子に向かって深々と頭を下げた。
「殿下、ベネット男爵令嬢はまだ成人しておりません。どうかご配慮を」
「ふん。そんなことは関係ない。我が国は成人していなくても結婚はできる」
……ん?
なんか今、第二王子が不穏なことを言いませんでしたか?
戦争じゃなくて、結婚?
嫌な予感がするんですけど……
やっと学園に入学して、まだ前期の授業すら終わってない。
こんなことになるんだったら、もっといろいろ予習しておけばよかった。
今、戦争にかり出されたとしても、私はごくごく初級の魔法しか覚えてない。
ポケットの中に、図書室から借りっぱなしになっている、「魔術大全」という本があったっけ。
悪いけど、このまま借りていきますよ。
それぐらいいいよね? リプトン先生。




