呪い
買った品物は、店の外まではレオンに運んでもらった。
人通りの少ないところまで運んでから、マジックバッグにしまう。
小さな鞄にテントが吸い込まれていくのを見て、レオンが呆然としている。
「ルーチェル、マジックバッグなんて持ってたの? それすっげえ高いんじゃないの?」
「へへへ。これね、作ったの。私が」
「えっ、ルーチェル、マジックバッグ作れるの?」
「図書館でね、調べて作ってみた」
「すげえなあ。それって、高位の神官にしか作れないって聞いたことあるけど……」
「私ね、魔力だけはたくさんあるんだ。ナイショだよ?」
「うん、誰にも言わないよ。でもいいなあ。俺も欲しい……」
ふっふっふ。
うらやましそうな顔をして、しげしげと私のバッグを見つめているレオン。
レオンにはいろいろとお世話になってるからね。
ちゃーんと、用意してきたよ!
「実はね、レオンの分も作った」
「えっ、ほんと?」
「うん、簡易マジックバッグだけど、これ」
鞄から腹巻きを取り出して渡すと、レオンがきょとんとした顔をしていて面白い。
学園の購買に売っている、ラクダ色の腹巻きを差し出す。
「何? これ。腹巻き?」
「うん、ここにね、ポケットあるでしょう?」
「あ、ほんとだ……もしかしてこのポケットが?」
「うん、そう。これは旅行バッグぐらいの容量だけど、大事なものを常に身につけておけるように、と思って。私も同じやつ作ったんだ」
「うれしいなあ。でも、なんで腹巻き?」
「だって、マジックバッグなんて持ってることばれたら、盗まれるじゃない」
「そっか。そうだよな。ルーチェルってほんっと賢いよなあ」
レオンはにこにこしながら、腹巻きのポケットの中に荷物を入れたり出したりしている。
子どもみたいに無邪気に喜んでいる様子を見ていると、私までうれしくなってくる。
ということは、レオンは魔力あるんだよね。
よかった、無駄にならなくて。
「大きい方のマジックバッグは、もうちょっと丈夫な素材じゃないと付与できないの。だから、レオンが持ってるバッグで付与してほしいのがあったら、持ってきてくれたら付与できるよ」
「あ、だったら俺、バッグ買おうかな。ちょうど革のやつが欲しいと思ってたんだ」
「じゃあ、見に行く? 私も腰にさげるようなベルトのついたポーチが欲しいんだ」
「よし、じゃあ行こうぜ」
バッグ屋さんで丈夫そうなバッグを買った後は、お目当てのスイーツカフェに。
人気のお店みたいで、カップルがデートで使うようなお店だ。
「ここならルーチェルの好きそうなお菓子がいっぱいあるだろ?」
「うん、私、おなかすいちゃった。ここに入ろう!」
「今日は、俺がおごるよ。なんでも食べて」
「え、そんなの悪いよ」
「いーの、いーの。ルーチェルにはすっげえいいものばっかりもらってるから」
ふたりともお腹がすいていたから、パンケーキセットやら、サンドイッチやら、食べたいものをたくさん注文した。
ふたりで分けて食べていたら、とっても楽しかった。
レオンと一緒にいると、気を遣わないし、なんだか昔からの友達のような気がしてくる。
「そういえば、レオン、体調はどう?」
「どうって? 別に普通だけど?」
「前に、時々調子が悪いって言ってたから……」
「そういえば最近は全然大丈夫。やっぱりルーチェルのハンカチのおかげだよな」
「それだったら、いいけど」
「あのさ。俺、ルーチェルだから話すけど……小さい時に身体が弱かったって話しただろ? これが原因なんだ」
袖をめくって見せてくれた左腕の二の腕のところに、黒い痣があった。
百合の花のような形の、ちょっと毒々しい痣だ。
「これは……何?」
「呪い」
「えっ! 変な冗談言わないでよ!」
「冗談なんて言ってないよ。ほんとなんだってば。今でも時々、何が理由だかわからないけど、この痣がうずくんだ。そうすると頭痛がしたり、気分が悪くなったりする」
「それは、お医者様にみてもらった?」
「うん、俺が赤ん坊の頃に、しょっちゅう熱を出して、そのときにみてもらったらしい。そしたら、これは呪いだって」
「そんな……呪いをとく方法はないの?」
「わからないけど……でも、ルーチェルにハンカチをもらってから、体調が落ち着いてるんだ。だから、聖魔法が効いてるのかなって思ってる。ルーチェルには本当に感謝しているんだ」
「そう……私の力が役に立っているならいいけど」
この世界には呪いなんてものがあるんだ。
まあ、聖魔法があるなら呪いがあっても不思議ではないか。
でも、なんか気の毒だな。
誰が赤ん坊だったレオンを呪ったりしたんだろう。
「レオンって、ご家族はどこに住んでいるの? 実家に帰ったりはしないの?」
「俺、家族いないから。母は病気で亡くなったし、父親の顔は知らない」
「ごめん……知らなかった。余計なこと聞いちゃったね」
「ルーチェルはどうなの? なんで男爵令嬢なのに、隣国に逃げないといけないようなことになってるわけ? 俺には話せない?」
「ううん、特に隠しているわけではないの。リプトン先生には事情を話してあるんだけど……」
私も実の母は亡くなっていて、男爵家には義母と義妹がいること。
元々の跡継ぎは私だったんだけど、家族は義妹を跡取りにしたいと思っていること。
跡取りにならないのであれば、王立学園を卒業する必要はないので、いつ連れ戻されるかわからないこと。
連れ戻されないために、リプトン先生が奨学生に推薦してくれたことなどを話した。
「なるほどなあ……ひでえ話だな。俺なんかより、ルーチェルの方がよっぽど苦労してる。俺の母親は普通にいい人だったし、ある程度の財産も残してくれたから、こうやって学園にも通えているし」
「うん、でもさ。私は神様から魔力をもらったから、ラッキーだったと思ってるんだ。なんとかこの力で生きていけると思うし。私の魔力のこと、家族は知らないの」
「へえ。それは隠しておいて正解だな。ルーチェルの魔力は特別だから。そっか。そういう事情だったら、俺にできることがあったら、何でも協力するから遠慮なく言えよ?」
「うん。ありがとう。レオンも体調が悪くなったりしたときは、いつでも言ってね」
なんだか、レオンとは少し境遇が似ているような気がした。
母親を病気で亡くしているところは同じだよね。
レオンは父親の顔を知らないって言ってたけど、私にとってもベネット男爵はほとんど他人だ。
義母や義妹ほどあからさまに嫌な人ではないけれど、愛情も感じない。
このまま二度と会えなくてもいいと思っている。
レオンは呪いを持っているらしいけど、私の聖魔法で落ち着いているなら、出逢ったのは運命かもしれないなんて思ってしまう。
まだ、恋という気持ちではないけれど。
レオンは大切な友達で、相棒のような存在になりつつある。




