備えあれば憂いなし
さて、いよいよ、本格的なマジックバッグの制作に入ろう。
難しい方の魔方陣を書き写す作業だ。
これはスタンプが売っていないので、手書きで書くしかない。
ああ、やっぱり早く複写の魔法を覚えないと。
普通は革製などの丈夫なバッグを裏返して、内側に魔方陣を書くものらしい。
でも、私は革のバッグなど持っていないのです。
今使っていないバッグなんて、古い布製のバッグしかない。
布だと耐久性に問題がありそうだけど……まあ、一応ふたがついてるしいいか。
バッグを裏返して、図書館で複写してきた魔方陣を慎重に書き写す。
この魔方陣って、大きさは関係ないらしい。
小さく書いたとしても、容量に影響はないんだって。
だから、小さいバッグに付与してもいいんだけど、小さいバッグだと取り出し口が小さいから、あんまり大きなものは取り出しにくいような気がする。
書き写してから、何度も間違いがないか確認した。
いよいよ魔力を流すことにする。
うわわわ……
身体からどんどん魔力が流れ出ていくのがわかる。
魔方陣が光っている間は、魔力を流し続けないといけないと本に書いてあった。
まだかな……まだ光ってる。
私の魔力、神様は本当に無限大にしてくれたみたいだ。
魔方陣の光が消えるまで魔力を流し続けて、無事、魔方陣はバッグの裏側に定着した。
では、いよいよ実験だ。
本に書いてあった情報によると、この魔方陣なら大型の魔獣でも入るらしい。
だから、A級の冒険者などが、魔獣狩りに持っていったりするんだって。
とりあえず、私の部屋にある一番大きなものといえば、勉強机ぐらいだ。
入るのかな?
入るよね? 大型の魔獣が入るんだったら。
だけど、明らかにバッグより机の方が大きいんだけど、どうやって入れるんだろう?
ものは試しと思って、机を少し持ち上げて机の脚の部分をバッグに入れてみた。
そうしたら、すうっと吸い込まれるように、机がバッグの中へ消えた。
どうやら入れたいものの一部でも入れたら、全部入るということらしい。
取り出すときは、バッグに手をいれて取り出したいものを念じると引っ張り出せる。
ちょっとコツがいるけど、机も元の場所に取り出すことができた。
これはすごい。
この部屋にあるものはすべて持っていくことができそう。
私はいつも使っている学園から支給された学生鞄の中に、このマジックバッグを入れた。
これなら目立たないよね。
前世で暮らしていた国は、災害が多かったので、防災バッグというものがあったっけ。
いつでも避難できるように、医療品や着替えなんかを詰め込んで、玄関に置いてあった記憶がある。
せっかく秘密のバッグができたんだから、いつでも逃げられるようにしておくといいかもなあ。
義母や義妹が何を仕掛けてくるかもわからないし。
それに……
戦争が始まったっていうことだから。
まさか学園の子どもを戦争に引っ張り出すようなことはないと思うけど。
私は結界魔法が使えるしなあ。
うん。準備だけはしておこう。
万が一のときに、どこでも生きていけるように。
幸い、マジックバッグは中に入れたものを、入れたときの状態のまま保つことができるらしい。
食料だけは十分に用意しておかなくちゃね!
◇
週末、前々から約束していたカフェに、レオンと一緒に行くことになった。
少しお金も貯まってきたし、買いたいものがあるので街へも行ってみたかったのだ。
「どこに行きたいの?」
「えっとね。武器屋とか、防具屋とか、冒険者の人が買い物するようなお店に行きたい」
「なんでまたそんなところへ?」
「サバイバルグッズを買いたいの!」
「サバ……バル? 何それ」
うーん。なんて説明したらいいんだろう。
前世で言うところの、キャンプ用品みたいなのがほしいんだけどな。
たとえば、ガスコンロみたいに屋外で火をおこせて、料理を温められる道具とか。
テントとか寝袋とか。
だって、マジックバッグの中に入れておけば、どこでもサバイバル生活できるじゃない。
そういうの、夢だったんだよね。ソロキャンプ。
この世界でそんなことできるチャンスがあるかどうかわからないけど。
私はかなり結界を張るのが得意になってきたから、テントに結界はったらどこでも寝られると思うんだ。
レオンの案内で、冒険者ギルド御用達の、冒険者の店に連れていってもらった。
そう、これですよ! これ!
アウトドア用品の店みたいなところ。
そこであまり狭いのもなんだから、二人寝られるぐらいの広さのテントを買った。
考えたら布団や毛布はマジックバッグに入れておけば別に重くないし。
寝袋みたいなのは必要ないよね。
とりあえず、テントと、魔石ランプ。
魔石というのは、この世界にある、魔力でできた石炭みたいな燃料です。
高価なものではなく、普通に燃料として売られている電池みたいなものかな。
大きさはいろいろあるけれど、魔石ランプはごく小さな魔石で長時間使える。
あとは小ぶりのナイフとか、水を入れるタンクなんかも買った。
「何に使うの?」とレオンが不思議そうな顔をしていたけど。