謎の手紙
魔術科に合格しました!
別名「聖女科」と呼ばれているクラスで、合格者は二十五名。
つまり、あの日教室にいた人はほとんど合格したはず。
まあ思えば、難しい試験などなかったし、高位貴族なら全員合格するよね。
そして、私はなんと希望通り「奨学生」として合格して、発表の日に呼び出されました。
奨学金の申請をするためです。
教科書や制服、学費などがぜーんぶタダになるのですよ!
やったー!
これで、もうベネット男爵家に文句を言われることもない。
高齢の貴族の後妻になる必要もない。
後は、この世界の生き方を学んで、自由に生きていけるといいな。
王立学園を卒業した聖女は、王国の中央教会で働くこともできる。
一応職業聖女になるんだし、仕事に困ることはないよね。
呼び出された職員室に行ってみると、そこには先日の先生が待っていました。
「ああ、来ましたね。ルーチェル・ベネット男爵令嬢。合格おめでとう」
「ありがとうございます」
「あなたを奨学生に推薦したのは、私です。それで、少し聞きたいことがあって呼びました」
「はい。なんでしょうか」
「実はあなたのご実家から、学園に連絡が入ったのです。試験など受けなくて良いので早く帰らせるようにと」
「それは父からでしょうか? 父には路銀も頂いて、許可をもらって試験に来たのですが」
「どなたかはわかりませんが、ベネット男爵家の印が入った書面が届いています」
確認すると、封筒には確かに我が家の印が押されている。
中身の手紙は明らかに義母の字だ。下手くそなのですぐわかる。
こんな汚い字を書く貴族なんて、先生も呆れているだろうなと思うぐらいだ。
「何か事情があるのであれば、最初に聞いておきたいのです。それから奨学金の申請をしましょう」
私は、もともと男爵家の跡継ぎだったこと。
しかし、母が亡くなって、義母と義妹がやってきたこと。
今は私を跡継ぎにしないために、義母と義妹が邪魔をしていること。
家で階段から突き落とされたことなどを、包み隠さず話した。
だって、本当のことだもの。
先生は難しい顔をして話を聞いてくれていたけれど、私が話し終えると大きなため息をついた。
「そういうことでしたか。あなたが教会に届け出をしていないという話を聞いたときに、何か変だと思っていたのです。どんなに魔力が少なくても、聖女としてできる仕事はありますから、普通の貴族であれば届けを出すはずです」
「父は私に関心がありませんでしたから、忘れていたのかもしれません。この試験に落ちたら、私はヘルツ子爵の後妻になることに決まっていました。なので、義母は学園に入れさせたくなかったのでしょう」
「十五歳のあなたを、ヘルツ子爵の後妻にですか。あの子爵はあまり評判の良くない人ですよね……だいたい事情はわかりました。でも大丈夫ですよ。この学園の奨学生は、国から保護されています。あなたの実家に勝手な真似はさせませんからね」
先生の優しい言葉に、目がじんわりと熱くなる。
この世界に来てから、初めて優しい言葉をかけられた。
二週間本当に緊張していたんだなあと思う。
先生という味方ができたことが、心強い。
私の実家に問題があることに気付いて、連れ戻されないように、奨学生に推薦してくれたんだって。
それから少し世間話をしながら申請書類を書いた。
先生の名前はマゴリア・リプトン先生。
有名な元聖女だそうだ。
引退してからこの学園の教師になったらしい。
頼りになりそうな先生が担任でよかった。
それにしても、わざわざ学園にそんな手紙を送ってくるなんて、あの義母ときたら、本当に頭おかしいよね。
男爵家の評判を落とすだけなのに。
まあ、私はもう後を継ぐ気などないので、どうでもいいけれど。
入学できることが決まったので、これから生活費をどうやって稼ぐか、考えないとなあ。
寮に入ったら、食事はついているのがありがたい。
少なくとも飢え死にすることはないもんね。
王立学園の生徒になった以上、流しの聖女で稼ぐことはできない。
そんなことしたら、奨学生でいられなくなってしまう。
なんとかこっそりお小遣い稼ぎできたらいいんだけどな。
学園では家庭教師などのアルバイトの斡旋をしているようだけど、そういうのは高位貴族の仕事だ。男爵令嬢だったらマナーもなっていないし、無理だよね。
お守りとか、ブレスレットとか作って、売れたらいいんだけどな。
それから一週間ほどの休みがあって、入学式の日がやってきた。
それまで私はずっと寮でぶらぶらしてました。
図書室が使えたので、退屈することはなかったし、情報収集もできた。
食堂はいつでもあいていて、すっかり食堂の職員さんと仲良くなってしまった。
実家に帰らない女生徒なんて、ワケアリだって思うよね。
みんな優しくしてくれて、大盛りのおかずを入れてくれるから、少し太っちゃったぐらい。