ここは天国?
2025/9/29 新連載、よろしくお願いします。のんびりお付き合いいただけるとうれしいです^^
目の前に突然広がった、真っ白な世界。
ふと気付いたら、行列に並んでいた。
なぜだか、みんな白い服を着ていて、長蛇の列の最後尾にいた。
ああ……私、死んだんだ。
会社の昼休みに、階段から落ちたところまでは覚えているけれど。
どこも痛くなくて、身体は軽い。
暑くもなく、寒くもなく、とても快適などこか。
ここはどこだろう。
天国だったらいいんだけど。
列の先頭には受付みたいな場所があって、そこで行列の人たちは二手に分かれていく。
ほとんどの人は、右手の階段を上がっていく。
だけど、ごくたまに、左側にある扉へ案内されている人がいる。
なんで振り分けられているんだろう。
まさか、天国と地獄行きを振り分けているんじゃないよね?
周囲の人は首から社員証のような白いカードをぶらさげているけれど、私のカードは赤い縁取りがある。
これ、地獄行きのカードだったらどうしよう。
そんなことを考えていると、行列はどんどん進んで、私の番がきた。
「あら。あなたは転生ね」
受付のお姉さんがにっこりと微笑んだ。
なんなんだ。転生って。
私が不思議そうな顔をしていると、お姉さんは私のカードを指さした。
「その転生カードを持っているのは、手違いで死んだ人だけなの」
「手違いなんですか?」
「そう。寿命をまっとうできなかった人よ。気の毒に……最近地球神がボケてきたのか、うっかりミスが多いの。ごめんなさいね」
受付のお姉さんは、心底気の毒そうな顔をして謝ってくれた。
天国でも、上司の尻拭いをするのは部下なのね。
それにしても地球神がボケてきたって……ヤバくない?
つまり右の階段を上っていく人たちは、寿命をまっとうしたということか。
手違いでうっかり死んだというのが、なんだか情けない。
まあ、痛くも苦しくもなかったのがせめてもの救いだけれど。
「転生するかどうかは選べるんだけれど、どうしますか?」
「転生しなかった場合はどこへ行くんですか?」
「あの階段を上っている人たちと一緒に天へ昇るのよ。そして、また誰かの子どもになって生まれ変わるの。その時に、今の記憶は消えます」
「じゃあ、転生する場合は?」
「別の世界へ行くことになるわね。同じ世界で記憶を持ったまま別人になることはできないの」
なるほど。転生を選んだ場合は、地球には戻れないということなのか。
いったいどんな世界へ飛ばされるんだろう。
ちょっと興味がある。
それに、今の記憶が消えてしまうのは、なんだかイヤだ。
手違いだというなら、続きの人生をどこかでやり直したい。
「転生でお願いします」
「そう。じゃあ、この書類を持って左の扉へどうぞ」
お姉さんはどこからか1枚の書類を取り出すと、それにハンコをポンとついた。
ずいぶんアナログな手続きなんだな、と思いつつ、左の扉へ向かう。
とにかく地獄行きじゃなくてホッとした。
扉をくぐると、そこにはまた受付があって。
ひとりの女の子が、なにやら手続き中のようだ。
「あらやだ。今日は転生ラッシュじゃない。地球神が居眠りでもしてたのかしら。ちょうど説明するところだから、ふたり一緒でもいい?」
その女の子は私を見て、にっこりと会釈をした。
普通の高校生みたいな可愛い女の子。
こんな子も手違いで死んだなんて、かわいそうだなと思う。
「では、そこに座って。この書類を記入してもらうわね。まず、最初の項目だけれど、転生先の世界には貴族階級と平民がいるの。どちらが希望か記入してね」
「選べるんですか?」
「そうね。今日はどっちでも候補があるわよ」
できればお金の苦労はしたくないけどなあ。
でも、貴族には貴族の苦労がありそう。
婚約破棄だとか、国外追放だとか、修道院送りだとか……
もしかしたら悪役令嬢に転生なんてこともあったりして?
うーん、悩む。
「次にオプションの説明をするわね。今ならお金持ちオプションか聖女オプションが選べるわ。こちらの手違いで転生することになったから、特典がつけられるってわけ」
「えっそうなんですか? うれしい! じゃあ、私は平民でお金持ちオプションにします! お金持ちになれるなら平民の方がいいもん」
女の子は迷うことなく、平民に丸印をつけた。
『今なら』って、なんかテレビショッピングのバーゲンセールみたいなんだけど。
聖女オプションってなんだろう。
「もしかして、転生先の世界には魔法があるんですか?」
「あるわよ。ただし、魔法を使えるのは貴族とごく一部の平民だけね」
「聖女というのは、かなりレアなんですか?」
「結構いるわよ。教会で働いている職業聖女が。そんなにめずらしくはないわ」
ふーん。職業聖女ね。
そういうことなら、手に職があるっていうのはいいかもしれない。
貴族に転生したって、貧乏っていう可能性はあるしね。
万が一ケガをするようなことがあっても、自分で治せるかもしれないし。
平民になってお金持ちオプションを選ぶか。
貴族になって聖女オプションを選ぶか。
悩む……けど、ここはやっぱり聖女オプションかな。
だって、せっかく魔法のある世界に行くなら、魔法使ってみたいもの。
迷ったけど、貴族に丸印をつけて、聖女オプションにチェックをいれた。
受付さんは、分厚いファイルをめくって、2枚の書類を取りだした。
「平民を選んだあなたは、この人に転生します。大きな商会の一人娘で、今高熱で生死をさまよっているわ。このままだと死んでしまう予定だったんだけど」
「私がその人になるんですね! えーっと、ターニャ・エスガルド。これが新しい私の名前ね」
やっぱり若い女の子は順応性があるのかな。すごく前向きな表情だ。
一所懸命書類に目を通している。
そこには、転生後の名前や、家族構成などが書かれているようだ。