初めて人を。
倫は、リビングのソファーで眠っていた。
背中の痛みで目が覚めた。
「ちくしょ〜。背中痛いぜ。」
「それはすまない。」
「わぁ!お前起きてたのかよ!
顔近いって!」
倫は飛び起きる。
玲夢は、ソファーで眠る倫を至近距離で観察していた様だ。
「お前は面白いな。
気温に合わせて皮膚が変化していたぞ。」
「見るなよ!」
「なぜ?」
「男でもそんなに見られたら、
恥ずかしいわ!」
玲夢は、よく見ると震えている。
「すっ、すまん。怒鳴って。」
「違うぞ。これは恐怖で震えているのではない。寒さだ。」
「紛らわしいわ!寒いなら言えよ。」
「すまない。暖房をいれてくれ。
お前には必要なさそうだか、私は寒い。」
「はいはい。」
倫は立ち上がり、エアコンのを入れた。
倫が振り返ると、玲夢の胸元が光り、点滅している。
「おい。どこを見ている。
まさか、私の体を透視で見ているのではないだろうな?」
「はっ?違うわ!・・・それ。」
倫は玲夢の胸元を指さした。
「ん?なんだこれは?」
玲夢の胸元で光りを放つのは、
ネックレスの様だ。
玲夢はネックレスを外し、手に取った。
ネックレスは円形。
十字の線が入っている。
一つの線の先が赤い。
円の端のほうに光りながら点滅する点が一つ。
「なんだこれは。」
「なんだろな。」
倫は、玲夢に近づき座り、ネックレスを見る。
「これ、もしかして!ちょっと貸せ。」
倫はネックレスを玲夢から取り上げる。
「おい、大事な物かもしれん。
壊すなよ。」
倫は無視して立ち上がり、ネックレスを見ながら、ゆっくりと360度回ってみた。
光りの点は固定されていて、
十字が倫の動きに合わせ、
動いている。
「やっぱり。この赤が、ネックレスを持ったやつの向いてる方向、光りは・・・誰かがここに呼んでるんじゃないか?」
「なるほど。誰かとは、誰だ?」
「俺が知るかよ!」
「それもそうだな。」
「・・・気は進まないけど、行ってみるか?」
「お前は何故、危険を犯す。
ここに隠れていれば、襲われる事も無いだろ。」
「お前、自分が誰か知りたくないのかよ?」
「知りたいぞ。だが、お前が危険を犯す必要はない。お前、私の手を握りたいのか?」
「あ~!ムカつくな。もう行くのやめた。」
倫がソファーに座り、だらける。
「ブツブツブツブツ。倫は何故・・・
機嫌を・・・。」
玲夢はまた何かを分析している様だ。
「また分析かよ。」
玲夢は分析が終わった様だ。
倫の隣りに玲夢は座り、
体を倫の方へ向ける。
瞳は潤み、宝石の様だ。
「倫、ごめんなさい。」
玲夢は新しいバージョンで、
倫に真面目に謝った。
(悔しいけど、こいつ・・・可愛い。)
「分かったよ。行くか?」
「ああ。頼む。」
「切り替え早いな〜。」
「すまない。素の自分以外を演じるのは疲れる。」
「はいはい。行くぞ。」
ブ〜っ。
数十分後。
二人は港にいた。
「点滅してる光の場所・・・海だな。」
「あぁ。間違いなく海だな。」
「泳ぐか。」
「私は恐らく泳げない。
私を背中に乗せろ。」
「はっ?俺は乗り物じゃないぞ。」
「やむおえん。」
「それはこっちのセリフだろ?
・・・分かったよ。」
倫が海に入ろうとした時、
突然、海面か膨れあがり、
水しぶきが上がる。
先端の尖った水柱が、
玲夢に向かってくる。
「危ない!」
倫は、玲夢を抱きかかえ、転がる。
「なんだあれ!避けないとヤバいのだけは分かる!」
今度は、水柱が複数向かって来る。
「まずい!裁ききれないぞあんなの!」
倫は、慌てふためいている。
「おい!くるぞ。私を守るんじゃなかったのか?」
「守るさ!」
倫は突然冷静になった。
「・・・ヒート。」
玲夢を守る様に立つ倫に、
無数の水柱が突き刺さる。
様に見えたが、
倫に当たった部分から、
水柱は蒸発し、消えていた。
「お前はすごいな。」
玲夢は、関心している。
「関心してる場合か!またくるぞ!
備えろ!」
「私の分析によれば、私には何もできない。倫、お前に頼る事しかできん。」
「そうかよ〜。」
倫が次の攻撃を待ち構えていると、
海面が膨れ出し、
水柱を放った主が、海面に姿をあらわした。
「貴様、一体何をした?」
水柱を放った男が問いかけてきた。
「種明かしするかよ!・・・能力可視化。」
(こいつ、格上かよ!
水を操る能力。つまり、自分の体以外に干渉できる、高ランクの能力じゃねーか!どう戦えば・・・)
「まぁ、いい。これならどうだ?」
水柱の男が、海面に触れると、
さっきの水柱の比にならない大きさの水柱が、海面から現れる。
「まじかー。これ詰んだわ。」
倫があきらめかけたとき、
「おい!倫、分析が終わったぞ。
蒸発しきれない膨大な水なら、凍らせるのはどうだ?
今は冬で水温も低い。
凍らせる方が理にかなっていないか?」
「お前の分析も役に立つことあるんだな!やってみる。死んでも恨むなよ!」
「無論だ。」
「・・・絶対零度。」
体温を極限まで下げた倫に水柱が襲いかかった。
水柱は倫に触れると、一瞬の内に、氷の柱となり、
動きを失った。
「あー!!!助かった!」
「やるではないか。ほめてつかわすぞ。」
「はいはい、ありがとさん。」
水柱の男は、不機嫌そうだ。
「お前、一体何者だ!」
「名乗るかよ!」
「そうか、もういい。」
水柱の男は、水を手足の様に操り、
倫に襲いかかってくる。
「見ろ!水に強い圧力をかければ、
性質が変化する。」
水?金属?の様な刀の刃が、
倫を襲う。
「硬化。ヒート。」
倫は刃を腕で受け止めた。
徐々に、倫の腕に刃がめり込んでいく。
「まずい!腕、切られる!」
倫は、咄嗟に刀を弾いた。
「ほぅ。やるな。
だが、もう面倒だ。
知っているか?科学では実現不可能と言われている水の可能性を。」
「知らね〜よ!」
「そうか、ならば身を持って体感しろ!」
男は、水の塊を圧縮しはじめた様だ。
「玲夢、あいつ何をしようとしてんだよ?!」
「あくまで可能性の話だが、水を強く圧縮すると、ブラックホールになる可能性がある。」
「はぁ?ブラックホール?!」
「倫、やられる前にやるしかない。」
「どうやって?」
「それはお前が考えろ。」
「秘策とか無しかよ!」
倫は昔ハマったゲームを思い出していた。
(属性で確か、効果が強いとか弱いとかあったよな?・・・水には・・・電気か!確か、電気を発するウナギとかいたよな。魚にできるなら、俺にも。)
「さぁ!完成だ!このブラックホールに飲まれ、死ぬがよい!」
「やっべー!あれ最強能力じゃね?」
「確かに、恐ろしい力だ。」
「殺られる前にやるしかない!
いくぞ!サンダーボルト!」
倫は体内で、高圧電流を作る事に成功した。
「ほう。電流を帯びている様に見える。
だが、体内で電流を作れたからどうなのだ?私に近づけば、ブラックホールにのまれるぞ!はっはっは〜!」
「終わりだよ。」
倫は、足元の水たまりに手を触れた。
水たまりは、男の足元までつながっていた。
「ぐぁー!」
男は電流を浴び、気を失った。
倒れ座間、自分でつくったブラックホールにのまれた。
ブラックホールは、男を飲み込むと、消えてしまった。
「あ〜。勝った・・・。
ブラックホール、能力者が死ぬと無くなるんだな。」
倫は、安堵感を感じ、気を抜くと、
とてつもない恐怖が感情を支配した。
膝を地面につき、涙がこぼれ落ちる。
「どうした倫。お前は勝ったではないか。何故泣く必要があるのだ?」
「なぁ。玲夢・・・あいつ、死んだよな?」
「そうだな。死んだだろうな。」
「俺・・・。人を・・・。
玲夢、宝探しは今度でいいか?
少し疲れた。いや、大分精神がやられた。悪いけど、今日はかえろう。」
倫は、立ち上がり、肩を落として歩き始める。
前を歩く倫の手を、玲夢は握り、隣りを歩いた。
「なんだよ?励ましてくれてるのか?」
「約束だったからな。」
「足りねーよ。俺は人を・・・。」
玲夢は、倫の手を引き、胸に倫の顔を押し付け、抱きしめる。
「私の分析では、こうすると、人は落ち込んでいる時、救われるはずだ。」
「あーっ!!!」
倫は、玲夢の背中に手を回し、抱きしめ返し、大声をあげ、泣いた。
「落ち着く!救われるー!玲夢ー!」
「今回は特別サービスだ。
お前は、私を命がけで守るといった。
だが、これが私を守るという事だ。
まだ続けるか?やめてもいいぞ。」
「やめない。お前は、俺の事を大切に扱ってくれた。俺の壊れそうな心を、今、守ってくれた。だから、俺もお前を守りたい。」
「そうか。では、引き続き頼む。
今日はかえろう。どうやら、ネックレスの光も消えてしまった様だ。」
「光・・・消えたのか。あいつが現れたから、光の主、逃げたのかもな。」
「その可能性が高いな。」
「所で倫、このハグはいつまでするのだ?」
「そうだな。もう少しだけ頼んでいいか?」
「まぁ、今日は特別に許してやる。」
倫が落ち着くと、二人は、手をつなぎ、
記録についた。