運命を変える出会い。
誰にでも、運命を変える出会いは、
多分・・・ある。
恋人。友達。会社の上司。
人は、出会い、繋がり、運命を選択していく。
俺にとっての運命の出会い。
それは今日、だったのかもしれない。
薬を投与され、5年。
倫は能力を隠し、平凡な日々を送っていた。
今日も押し付けられた仕事を終わらせるために、残業だった。
「あ~。万年平社員も楽じゃね〜な。
仕事できないなら、俺達に少しは貢献しろよ!だとー!あー腹立つわ・・・。」
倫は、ブツブツと文句を言いながら、
夜道を歩く。
「いつ通っても、ここはゾッとする。」
倫はトラックが突っ込んできた事故現場の横断歩道に立っていた。
体の中の細胞がゾワゾワとしている。
「あ~、気分悪い。
早く信号変わってくれないかな・・・。」
倫は小さく呟く。
と、その時。
「どけ!どいでくれ〜!」
倫が声の方を振り向くと、
全速力で走る女が・・・
ドスッ。
倫は女に追突され、尻もちをつく格好で倒れる。
(強化。)
倫は倒れ座間に、身体を強化した。
「ぶつかった衝撃・・・m/s2・・・個体の重量約・・・kg。
何故?痛がらない。」
女はブツブツいいなが、倫を見ている。
「ブツブツいってないで、ぶつかったら謝る。常識だろ?」
倫は不満そうに女に言う。
女は聞いていない。
「・・・よって、導き出される回答は・・・」
立ち上がろうとしている倫の顔に、
女は顔を近づける。
(こっ、こいつ・・・めっちゃ可愛いじゃん。)
倫は、惚れた。
一目惚れ・・・。
この女を全力で口説け。
そう細胞が叫んでいる。
倫は女に話かけようと、口を開いた。
「あっ、あのさ、」
「お前、能力者だな?」
女は、倫の言葉を遮る様に言った。
(チーン。可愛いとかそういう事言ってる場合じゃなくなった・・・)
倫は無言のまま固まった。
「おい、聞いているのか?」
倫は返答に困る。
「まっ、まさか〜・・・。そんなはずないだろ?・・・ははっ。ははっ。
じゃあ!」
倫は、その場を立ち去ろうとする。
「待て!話はまだ終わってない。」
女は倫の腕をつかむ。
と、その時。
「いたぞ!」
黒服に身を包んだ男達が、こちらに向かってくる。
「まずい。」
女は平然と慌てる?
つまり、慌てている様子はないが、
まずい状況?だと倫は解釈した。
「こっち。」
倫は、女に捕まれた腕を払い、
女の腕をつかみ、走り出す。
(どこか見えない、隠れられる所は・・・あった!)
倫は、女の手を引き、路地に入る。
「ちょっとごめんよ。・・・強化。」
倫は、女をお姫様抱っこする。
「何をする。お前、これはセクハラと言うやつだぞ。」
女は、感情なく訴える。
「ちょっと黙れ!集中できないだろ。」
倫は女を抱えたまま、ビルの屋上まで跳ね上がった。
そして、ビルの屋上から屋上を飛び、
黒服の男達をまいた。
倫は、女を降ろし、問いかける。
「で、なんでお前は追われてる訳?」
「それは・・・言えない。」
倫は不満そうに女を睨む。
「助けたんだから、言えよ。」
「違うんだ。言いたくても言えない。」
「・・・えっ?意味分からんぞ。」
「今、私は・・・記憶がない。
私が誰なのか、どこから来たのか。
私は、目が覚めると、この近くの浜辺に倒れていた。
私の分析が正しければ、誰かと戦う、もしくは、追われ、海に落ちた。
命は助かったが、何かしらの衝撃を頭に受け、記憶を失った。と推測される。」
「それは〜。大変だったな。
じゃあ!捕まらない様にがんばれよ!」
「待て、乗りかかった船だ。
私をかくまえ。」
「はぁ?それが人に物を頼む言い方かよ。」
「すまない・・・・。」
ブツブツ・・・男を落とす秘策は・・・ブツブツ。
女は、何かブツブツ言いながら、
突然雰囲気が変わる。
倫の胸元に両腕を当て、上目遣いで訴え掛ける。
「助けて・・・お願い。」
女の目は、潤んでいる。
(かっ、かわいー!!!!)
「まっ、まぁそこまで言うなら。」
倫の承諾に女は元の雰囲気に戻る。
「頼む。」
「ずっとお願いバージョンでいろよ。」
「無理だ。あれは疲れる。」
「あ〜そうかよ。」
と、その時。
「いたぞ!ビルの屋上だ!」
「はぁ?なんで見つかるんだよ!
大分離れたはずだぞ!」
「おぃ!あいつらは、能力者だ。
恐らく、どこまで逃げても逃げ切れない。」
「先に言えよ!」
女は、倫の腕をつかみ、隣りのビルに向かおうとする。
「待て・・・透視。能力可視化。
・・・1人は身体強化。後の2人は・・・聴覚強化と千里眼。
そりゃ見つかるわけだ。」
(確か・・・クジラとかイルカとか、超音波的なので会話するって聞いた事あるな。良し・・・。)
「・・・・ノイズ」
キーン。
倫は、常人には聞こえない、不快音を大音量で体から発した。
透視している先で、
聴覚強化の男は耳を塞ぎながら倒れた。
「良し!いくぞ。またセクハラするぞ。」
女は、今度は自ら倫の首に手を回し、
抱きかかえられた。
「飛ぶぞ!」
ドスッ!
倫が地面を蹴る衝撃で、屋上の床が少し割れた。
「ヤベッ。力の制御難しいな。」
ビルを3つ程飛んだ所で、屋上に残りの2人がたどり着いた様だ。
「残りは千里眼だな。おい、目を閉じろ。」
倫は女に言う。
「それは、私の分析が正しければ、
セクハラでは済まされない行為だぞ。」
倫に抱きかかえられながら、女は平然と言う。
「はぁ?・・・・ちっ、違うわ!アホ!」
「私はアホではない。」
「黙れ!とりあえず目を閉じろ!」
「キスはするなよ。」
女は目を閉じた。
「この状況でするわけないだろ!・・・。」
倫は、目を閉じた女の美しさに気持ちが揺らぎそうになる。
「違う!違う違う違う!・・・蛍。」
倫の体が輝きだす。
それはまるで太陽のごとく。
「うわっ。目が!目が!」
千里眼の男は、目を抑え、倒れ込んだ。
「良し、目開けていいぞ。」
「もういいのか?開けるぞ?」
「早く開けろ!その表情は、非情にまずい。」
女は目をゆっくり開けた。
「キス、我慢できたではないか。
偉いぞ。」
「お前マジで、ここから落とすぞ。」
「それはやめてくれ。」
「はいはい。」
倫は、ビルからビルを飛び続け、逃げる。
抱きかかえられた女は倫を見て言う。
「お前は気取った奴だな。」
「何が?」
「私の分析が正しければ、
お前は身体を多数変化させられる能力だろう?身体変化の際、お前は、変化する能力を発言していた。
強化やノイズなら、光る時は発光とかライトとかではないか?
何故蛍なんだ?」
「・・・。」
倫は顔を赤らめた。
「なんだよ?ここから落として欲しいのか?」
「さっきもいったが、それは勘弁してくれ。」
「じゃあ、かわいく謝れ。」
「またか。さっきの感じがお望みか?」
「そうだな〜。もっとかわいくだ。」
「何?もっとだと?分かった。
ブツブツブツブツ・・・もっとかわいく男を虜にする・・・。」
女は、突然、倫の首に回している腕に力を入れ、潤んだ瞳で倫の顔に近づいた。
耳元で囁く。
「ごめんなさい。」
うわっ!
倫はあまりの衝撃に、身体強化が解けそうになり、足を滑らせた。
女を抱えたままビルの屋上の手すりに片手でしがみついた。
「あぶねー!」
「おい。かわいくなかったか?
落とすなよ。」
「はいはい。合格だよ。」
倫はぶら下がる腕に力を込める。
「よっと。」
屋上にひょいと立ち、
女を下ろす。
「さすがにここまでは追ってこないだろ。」
「そうか。よくやった。
ところでお前の家はどこだ?
かくまう約束だろ?」
「バカ!すぐに帰ったら見つかるかもしれないだろ。俺の家はお前がぶつかってきた所の近くだよ。」
「そうか。ならどうする?
私の分析では、」
「あのさ、さっきから分析、分析って何なんだ?」
「言葉の通り、分析だ。」
「お前、もしかして能力者か?」
「そうだ。能力は、」
「いゃ、いい。少し見させてもらう。」
「やめろ。透視で服を透けさせるつもりだな。」
「ちっ、違うわ!・・・。」
(そういう使い方あるんだ・・・。)
「おい、今、そういう使い方あるんだ。
と、考えたな。」
「うっ、うるせぇ。
・・・能力可視化。」
(こいつ、能力は、無限メモリーか。
どうりで、分析、分析いってる訳だ。
多分、パソコン・・・いや、スーパーコンピュータが頭に内蔵されている感じか。問題は・・・。)
「お前、能力者は、能力の代償に副作用があるのは知ってるか?」
「ああ、私の場合は、恐らく感情の欠如だ。」
「分析が甘いな。
お前の能力は脳に与える影響が強すぎるんだろうな、もう一つある。」
「何?なんだ。教えろ。」
「記憶だよ。
恐らく、お前が記憶を失ったのは、
その能力のせいだ。」
「そうか。なるほど。」
「そう言えば、お前、名前は覚えてんの?」
「あぁ、日常生活に支障のない程度の記憶はある。言葉も話せているしな。」
「そう。で、名前は?」
「立花 玲夢だ。」
「玲夢だな。
俺は楠木倫だ。」
「倫。よろしく頼む。」
「あぁ。とりあえず家にくるか?」
「そうだな。感情が無いとはいえ、この寒さは体にこたえる。」
「体の感覚は脳に作用するんだな。」
「そうみたいだ。」
「・・・提案がある。」
倫は、真面目な顔が崩れた。
倫は鼻の下が伸びている。
「何だ?その顔は。お前、至らぬ事を考えているな?」
「そうだな。
俺は無償で命の危険を犯す程、
お人好しじゃない。」
「なんだ?言ってみろ。」
「俺は、今日、お前・・・いや、
玲夢に会って、一目惚れした。
今日みたいにお前を危険から救うたびに、恋人のする行為を1つづつステップアップして、させてもらう。」
「それは、どんな内容だ?」
「次助けたら、手をにぎる。
その次は、バグ。
その次は、キス。」
「もう、いい!交渉は決裂だ。
私は一人でなんとかする。」
立ち去ろうとする玲夢の腕を倫はつかんだ。
「待てよ。お前の感情の欠如、治るかもしれないぞ?」
「なぜだ?」
「玲夢、お前はさっき寒いといい、
俺の家に行きたいと思ったよな?」
「ああ。」
「それは立派な感情じゃいか?
寒いという外的要因で、家に入りたいという感情がうまれた。なら、他の感情も。」
「間違いではないな。」
「なら、恋人のする行為をすれば、
感情が大きく揺さぶられると思わないか?」
「お前、理論立てて自分のよこしまな気持ちを正当化しようとしているな。」
「そうだよ!俺は命かけてお前を守る!それだけは約束する。どうだ?」
「いいだろう。分かった。」
「まぁ、これから誰もお前を襲って来なければ、何もする事もないし、とりあえずは、家でくつろげよ。」
「そうだな。契約成立だ。」
倫はまた玲夢を抱え、家に帰った。
「ただいま〜。」
部屋には、翔太がいない。
「あれ?翔太どこいったんだろ?」
「翔太とは誰だ?」
「俺の親友。ルームシェアしてんだよ。」
倫は、テーブルの上に置かれた手紙を見つけた。
(すまん!父親が体調崩したみたいで、入院する事になった。家の仕事手伝うのに、とりあえず一ヶ月ほどは帰れない!また連絡する!)
「置き手紙って・・・昭和かよ。」
「何だ?翔太とやらはしばらく不在なのか。翔太とやらを危険に巻き込まずに済むが、私の危険度が増すな。」
「はぁ?それもしかして俺が何かするとでも?」
「約束できるのか?
私の分析では、お前は力ずくで私を簡単にどうにかできるはずだ。」
「そこまで落ちぶれてないわ!」
「そうか。なら、少し寝させてくれ。
疲れた。」
「あぁ、俺のベッド使えよ。」
「助かる。」
玲夢は相当疲れていたのだろう。
ベッドに横になるとすぐに眠ってしまった。
こうして、俺と玲夢は出会った。