■第11話 腰痛②
黒崎先生の腰を“治療?”した翌日。昼下がりの治療室には、まだ余裕がある。
「さて、今日はどうする?」
赤木先生が問いかけると、黒崎先生がすかさず返す。
「昨日は私が身体を差し出したんだから、次は赤木ちゃんが犠牲になりなさいな」
「嫌よ」
即答。
「でも、黒崎先生の腰は、まだ治療を受けたほうがいいわよ」
「……」
「緊張も解けたし、前ほど痛くないわよ」
「まあ、そうだろうけどー」
「じゃあ、決定ね」
赤木先生がベッドの方を指さす。
「練習台は、同じ人の方が比較しやすいのよ」
「あー……まあ仕方ないか」
黒崎先生は肩をすくめながら、ため息混じりにベッドへと向かった。
「いいわよー」
しばらくして、ベッドの方から呼ぶ声がする。
「はい。じゃあ今日もお願いします」
カーテンを開けると、下着姿の黒崎先生が昨日と同じようにうつ伏せになっている。
「まずは……タオルを」
「大事なことよね」
タオルをそっと掛けると、少し落ち着いた。
昨日は何をすればいいのか全くわからない状態だったが、
一つひとつ手順を踏むだけでも、落ち着きを取り戻せるのだと実感する。
「さてと……」
腰の部分だけタオルをめくり、患部を観察する。
2回目ということもあって、前回よりずっと落ち着いて診られている。
「今日も辛いのは、昨日と同じところですか?」
「そうね。だいぶ楽にはなってるけど、まだ痛いのよー」
腰回りの筋緊張も、前よりずいぶん緩和されているように見えた。
「今、一番痛いところは触れますか?」
「ここね。あ、昨日より少し下の方かも」
黒崎先生が指さす場所を確認すると、確かに少し下側のようだ。
「痛い場所が移動したなら、良い徴候よ」
隣で赤木先生がさりげなくアドバイスしてくれる。
「急に鍼打ったときはびっくりしたけど、良いところに当たってたみたい」
「電気走ったもん」
「それもまた経験。被験者は……仕方ないわよね」
「まったく、もー」
昨日よりもだいぶ雰囲気は軽い。
「失礼します」
ぴとっと、指先で患部を探る。
「触診は丁寧にね。学校では軽く触れるだけって教わったかもしれないけど、しっかり触らないとダメよ」
「わかりました」
3人の治療を見ていて、違和感を抱いていた点があった。それがこの「触り方」だった。
先生たちは、皆しっかりと触って診ている。
「学校のテストでは、軽く触らないと減点されてました」
「そんな教え方するから、ろくに触診できない子が増えるのよね」
「もちろん、愛護的に、優しく触るのは前提だけどねー」
「愛護的に……優しく、でもしっかり探る……」
「難しいでしょ?」
「はい」
「まあ、これも経験よ」
改めて黒崎先生の腰に向き合う。
「前は全体的に硬くなってましたが、今はここ一点に絞られてますね」
「あー、そこそこ。ズーンと響く感じ」
「意外とちゃんとできてるじゃない」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、場所が特定できたら、次は鍼ね」
鍼を持って準備に入る。
「消毒して、前揉して……」
トントン。
「……まあ、少し痛いけど、まあまあね」
「ふう……」
1本打って、ようやく少し気が緩む。
「次。遅い」
「はいっ!」
もたもた。
「ちゃんと鍼打つ練習してた?」
「一応……」
「遅いわねぇ」
「赤木ちゃーん、あんまり慌てさせないで、怖いから〜」
治療を終えると、黒崎先生が身を起こす。
「今日は、まあ、良かったんじゃない?」
「遅すぎるわよ」
赤木先生がやれやれといった顔でこちらを見ている。
「打つ場所はいいけど、もっと手際良くならないと」
「そうしたら、簡単な治療なら徐々にやってもらってもいいかもねー」
「見てるだけじゃ上手くならないけど、最低限はできないとやらせられないわ」
「はい、頑張ります」
とは言ったものの、内心ではまだ緊張と不安が尾を引いていた。
「とりあえず、鍼打つ練習ねー」
「わかりました」
「不安を感じてる暇があるなら、練習しなさいな」
「……はい」




